米国トランプ大統領は、情報機関に対してWHO(世界保健機関)と中国との癒着関係の調査を命じた。米中関係が、本格的な冷戦開始を強く印象づけるニュースである。米国国内では、新型コロナウイルスによる巨大な被害が、ナショナリズムへ火を付ける結果になった。中国外交部報道官が、ツイッターでコロナウイルス菌は米国から持込まれたというフェイクニュースを流した。米国では、これにより中国への不信感を一層強めることになったのである。
米国の世論調査では、「中国不信」が強まっている。世論調査大手ピュー・リサーチ・センターが4月21日に発表した最新調査によると、米国人の66%が、中国に対して否定的な考えを抱いていることがわかった。これは、2005年に調査を始めて以来最も高い水準である。また、約9割が、中国の影響力や権力を脅威とみなしていることも分かった。トランプ政権は、国民の「中国不信」感を背景に「WHOと中国」の癒着関係を暴き出すという、平時には考えられない手段を取ることになった。
『朝鮮日報』(4月30日付)は、「米ホワイトハウス、情報機関に中国とWHOによる新型コロナ情報隠ぺい調査指示」と題する記事を掲載した。
米ホワイトハウスが最近、情報機関に対し、中国と世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスによる感染症に関する初期の情報を隠ぺいしていたかどうか調査を指示したことが明らかになった。
(1)「米NBCテレビは29日、この問題に詳しい米政府の現職・元関係者の話として、ホワイトハウスが先週、国家安全保障局(NSA)、国防情報局(DIA)、中央情報局(CIA)などに指示したと報じた。ホワイトハウスは通信傍受、人脈、衛星写真などさまざまなデータを総合的に活用することを指示したとされる。トランプ米大統領は27日の記者会見で、「我々は非常に真剣に調査を行っている。我々はあらゆる状況に満足していない。なぜならば、(コロナ拡散は)早期に止めることができ、そうすれば全世界に拡散することもなかったからだ」と発言している」
WHOが、中国の意向を汲んで感染症の実態を厳しく判断せず、結果的に世界中に拡散させてパンデミックを招いた責任は重大だ。米国は、今秋の大統領選挙を控え、米国の被った混乱と被害の原因が、WHOと中国の癒着にあると言いたいところ。その情報集めで、国家安全保障局(NSA)、国防情報局(DIA)、中央情報局(CIA)という米国諜報機関の総力を上げるというのだ。多分、情報はこれまでの諜報活動で把握済みなのであろう。それを、総合化・体系化して「WHO・中国の犯罪」として告発すると見られる。
これが、公表された後の世界的な混乱を想像すべきだ。中国が、真っ正面から反論する。WHOもこれに歩調を合わせれば、かえって「WHO・中国」の共同正犯を立証する形になる。世界は、WHOと中国に不信感を抱き、WHO改革へ動き出す。この動きのピークを、大統領選直前に持ってくる。米国は、こういう青写真を描いていると見られる。
(2)「米情報機関は新型コロナウイルスによる感染症の発生地とみられている中国・武漢市のコロナウイルス研究所2カ所に関し、WHOが何を知っているのかについても調べるよう指示を受けたとされる。一部ではこれまで、新型コロナウイルスが研究所のうち1カ所から偶然に流出した可能性が指摘されてきた。ただ、専門家の多くはそうした意見に懐疑的な立場を取っている。ホワイトハウスのホーガン・ギドリー報道官は「大統領が言及したように、米国はこの問題について徹底した調査を行っている。このウイルスの起源を理解することは世界がコロナパンデミックに対処する上で役立つのみならず、未来の感染症発生に対する迅速な対応努力を知ってもらう上でも重要だ」と述べた」
下線部分は、重要な争点である。専門家の多数は、この見方を否定しているが、ノーベル賞受賞学者は、この説を支持しているのだ。真実は、多数説で決まるものではない。科学と証拠によってのみ立証される。少数説にこそ、真実があるケースが多い。私は、何ごとにおいても多数説を信じない。これまでの人生を振り返って見ても、多数説は多くの場合、付和雷同で誤りが多いのだ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月28日付)は、「コロナ危機、米ナショナリズムの潮流に拍車」と題する記事を掲載した。
(3)「コロナ危機によって、米国民に流れるナショナリスト的感情が強さと勢いを増している。もう既にそうなっていたのかもしれない。かつてドナルド・トランプ大統領の政治顧問を務めたスティーブ・バノン氏はインタビューで「ポピュリズムとナショナリズムの時代がやって来る」と断言していた。しかし、コロナ・パンデミック(世界的大流行)がその潮流をあおっている」
コロナ危機は、米国人のプライドを粉々にした。「世界一の米国が、なぜこういう惨めな姿になったのか」という疑念を抱かせた。単純に言えば、中国という存在がWHOを引き込んで起こした混乱であるという認識である。中国の振る舞いが一層、米国人にこうした疑念を強めさせている。まさに、「ポピュリズムとナショナリズムの結合」である。中国は、責任逃れのために、米国との間で維持すべき親和関係を切断している。ここで、中国が米国へ協力する姿勢を示せば、ここまで米国を怒らせなかったであろう。歴史は後から振り返れば、こういう些細なことが、大きな対立軸になるのだろう。
(4)「一部の米国民はコロナによって、グローバル化が行き過ぎた結果、米国が危険な世界で不必要にリスクにさらされ、過度に他国に依存する事態に陥っているとの考えを強めている。彼らにとっては米国を壁で囲いたいとの衝動が薄れるよりも、高まっている。そうした感情は大統領選挙とトランプ氏の選出によって強固になった。トランプ氏はほぼ30年にわたって普及してきたグローバル化の基本的理念の再考を推し進めている」
トランプ氏が、米大統領になったこと自体すでにグローバリズムの破綻を意味した。グローバリズムの破綻とは、今回のようなコロナウイルス危機と結びついている。仮に、中国が民主主義国であれば、グローバリズムは維持されたであろう。だが、政治的は異質物が入り込めば、思惑が絡んで機能しない。現在が、こうした破綻状態と見られる。民主主義国だけであれば、グローバリズムは継続可能である。
(5)「中国に対する懐疑的な見方を強めているのが、米国が重要な医薬品や医療用品の製造を中国に過度に依存するようになっているとの広い考え方だ。トランプ氏はその対応策として、この点に限らず、幅広い分野で国産化を進めることを率直に主張している。世界とのデカップリング(分離)への衝動は中国に限定されない可能性が高い」
経済的な効率性追求では、グローバリズムが最適である。だが、今回のようなパンデミックが起こり、そこに覇権争いの外交的な思惑が絡めば、グローバリズムは簡単に瓦解する運命である。中国が、グローバリズムという軌道に砂を撒いたのだ。


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