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米中対立の激化とともに、中国は対ドル人民元相場を安値に誘導している。米国の関税率引き上げを相殺する目的とされている。従来は、1ドル=7元が関門とされたが、現在(5月26日)は、7.13元まで下げてきた。人民元安は、苦しい中国の輸出環境突破に寄与するとしても、いつ千尋の谷へ落込まないとも限らない。危ない橋を渡っているのだ。

 

『日本経済新聞 電子版』(5月26日付)は、「中国の元安カード、はらむリスク」と題する記事を掲載した。

 

中国人民銀行(中央銀行)が連日で対ドルの基準値を約12年ぶりの安値に設定し、市場で思惑を呼んでいる。米中対立の激化で市場の元売り圧力が強いなか、元安を容認したとの見方だ。だが安易な「元安カード」は米国の一段の反発を招くおそれがあるほか、思わぬ資金流出を呼び込むリスクも潜む。コロナ危機下での新たな波乱材料にもなりかねない。

人民銀は26日、人民元の売買の基準値を対米ドルで前日よりも元安の1ドル=7.1293元とした。前日に123カ月ぶりの安値水準としたのに続き、市場に根強い元安・ドル高の流れを容認する構えをみせた。

 

(1)「人民銀の「元安容認」はどこまで本気なのか。米運用会社のストラテジストは人民銀の動向に目をこらす。「中国は通貨の『武器化』を避けるはずだと思っていた。しばらく動きを注視する必要がある」と。市場関係者の脳裏には、2019年夏にかけて米中対立が激化した場面で、人民銀が元安容認の姿勢を強めたことが刻まれている。高関税による輸出コストの増加を、通貨安で補う狙いだと解釈された。同年8月には米財務省は中国を為替操作国に指定し、「関税戦争」が「通貨戦争」に飛び火する恐れも強まった」

 

米国は、中国を「敵」と位置づけている。いつでも、経済面で「熱戦」になる危険性を抱えていることを忘れてはなるまい。固定観念で見てはならないのだ。中国が、背に腹はかえられぬ事態になれば、躊躇することなく元安相場へ誘導するだろう。

 

(2)「その後、流れはいったん変わる。米中の貿易交渉が20年1月に第1段階の合意に至り、為替操作国の指定も外れた。香港への統制を強める「香港国家安全法」をはじめ、米中対立の先行きは予断を許さないが、市場には「貿易戦争が再燃しない限り、元安誘導も限られる」との見方もある。26日の上海市場では、元を一段と売り込む動きは限られた

 

市場は、人民元の売り込みに慎重姿勢という。だが、長い目で見れば、経常収支赤字は不可避となっている。大幅な貿易黒字を稼ぎ出すバックグランドが、消えかかっているのだ。中国が、グローバル経済の名の下で、世界のサプライチェーンを豪語する時代は、コロナのパンデミックとともに消えたとみるべきだ。趨勢的には、人民元安は既定路線になっている。

 

(3)「人民銀の易綱総裁は26日に公開したインタビューで「流動性の確保」に言及し、金融緩和姿勢を鮮明にした。財政刺激や金融緩和にあわせ、緩やかな元安で景気を支える狙いがあってもおかしくはない。それでも市場の懸念は消えない。「金融分野という新しい戦場へと緊張が及ぶ懸念が強まっている」。米JPモルガンのストラテジスト、ジョナサン・カベナー氏らは金融分野での米中対立が人民元安につながる可能性があると指摘する」

 

米中の金融分野の対立は、刻々と迫っている。中国が、香港へ国家安全法を導入すれば(8月頃か)、米国は対抗措置を取るのは決定的である。香港への特恵条項(関税など)は廃止されれば、香港の経済的地位低下は避けられなくなる。それは、同時に、人民元相場安となってはね返るだろう。また、中国が、南シナ海の台湾所有の島嶼を占領すれば、これも人民元安要因となる。

 


(4)「米国には米投資家の中国投資を制限する動きが広がる。米上院は、米国に上場する外国企業に経営の透明性を求める法案を可決した。米取引所ナスダックは中国企業の新規上場を事実上制限する新ルールを公表した。JPモルガンによると、米国からの中国株への投資は19年4~6月時点で190ドル(約20兆円)にのぼり、中国外での保有割合は2割強と香港に次ぐ高さだ。資本市場での米中対立が強まれば、米国からの中国への資金流入が細る懸念もあいまって、強い元安圧力がかかる可能性がある」

 

米国は、資本市場から中国企業を排除する立法措置を進めている。これが本格化すれば、中国へのドル流入が細る。これも、人民元安要因となる。

 

(5)「中国の外貨準備は国際通貨基金(IMF)が試算する適正規模は下回り、輸出や短期債務の規模からみて盤石とはいえない。3~4月の資本流出が計6兆円に達したとの試算もある。人民元カードを安易にちらつかせると、思わぬ資金流出を招くリスクもある」

 

IMFは新興国の外貨準備の適正水準の判断材料として、外貨準備の①対輸出額、②対短期債務残高、③対マネーサプライ、④対その他負債比率を挙げている。これらの基準は、外需の急減への耐性、短期債務の返済能力、国内資本逃避への耐性、対内証券投資における資金流出への耐性といった観点に基づくものだ。IMFは以上4つの基準を合わせた外貨準備高の適正水準を公表している。これに基づくと2017年末以降、中国の外貨準備高はIMFの算出する適正水準を下回っているのだ。この隠れた事実を確認すると、中国の「人民元安」誘導は、危険な火遊びに映る。