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中国は、一時の年間経常黒字4000億ドル台に酔って、世界中に「中国マネー」をばらまいてきた。それも今になってはあだ花であり、約束が空手形になって恨みを買うという「反中国」の原因になっている。その上に、今回の新型コロナウイルスのパンデミックである。中国離れの動きが決定的になっている。中国は今や、米欧日の3極を敵に回す結果となった。

 

中国離れの典型例は東欧である。中国マネーに期待して「嫌いな共産主義」に封印し、経済関係を強化してきた。だが、中国の内政干渉が深まり、スパイの巣窟にされるという予期せぬ事態が生まれている。肝心の経済支援も約束だけに終わっている。こうして、東欧は一斉に「No」を言い始めている。金の切れ目は縁の切れ目だ。

 

『日本経済新聞 電子版』(9月29日付)は、「中国に幻滅した東欧、投資の『空手形』に不満」と題するエッセイを掲載した。筆者は、同紙のコメンテーター秋田浩之氏である。

 

共産党が牛耳る中国は好きではない。それでも、ビジネスでは彼らは有望なパートナーだ。チェコやハンガリーを2年前に訪れた際、対中関係について外交官や識者にたずねると、こんな声が聞かれた。経済建設を急ぐ東欧は中国熱を帯びていた。しかし、今や期待はしぼみ、失望に変わろうとしている。

 


(1)「すでにドイツやフランス、英国といった西欧では、対中観の冷え込みが明らかだ。南シナ海やサイバースパイ、香港の自治侵害、ウイグル族の弾圧……。これらが重なり、新型コロナウイルスの拡散も追い打ちをかける。9月14日の欧州連合(EU)と中国によるテレビ首脳会談では、議長国ドイツのメルケル首相らが人権問題で批判を浴びせた。習近平(シー・ジンピン)国家主席は「人権の先生は要らない」と怒り、極めて険悪だったという。そして中国に融和的だった東欧でも幻滅が広がり、経済で結ばれてきた欧州と中国の蜜月は事実上、終わりを告げようとしている。世界は米欧日と中国による2極対立の色彩が濃くなるだろう」

 

世界の普遍的価値観である「人権擁護」の流れに対して、中国は「人権蹂躙」である。波長が合うはずがない。この中国が、世界覇権を狙う。まさに世界の悪夢である。

 

(2)「東欧で中国熱が高まったのは、もう8年前のことだ。この地域の16カ国は2012年、中国と「16プラス1」という経済協力の枠組みをつくり、ほぼ毎年、首脳会議を開いてきた。16カ国のうち11カ国はハンガリー、チェコといったEUメンバーだ。19年にギリシャも加わり「17プラス1」となった。これに対し、独仏は「中国によって東欧が囲い込まれ、EUが分断されてしまう」(独当局者)と危機感を募らせてきた。南シナ海問題でEUが中国非難の声明を出そうとした16年には、対中配慮からハンガリーなどが難色を示し、足並みが乱れる騒ぎもあった」

 

中国は、EU攻略の手始めに東欧16ヶ国の囲い込みを始めた。これまでは、経済支援の手形をぶら下げて東欧各国の歓心を集めてきた。中国の狙いは、効果を上げたのだ。

 


(3)「そんな東欧で一転、中国離れの波が広がっている。急先鋒(せんぽう)はチェコだ。ミロシュ・ビストルチル上院議長が8月末から台湾を訪れ、中国を激しく怒らせた。これに先立ち、首都プラハ市は北京市との姉妹提携を解消し、1月に台湾・台北市と結びなおした。次世代通信規格「5G」の安全対策をめぐっても、ポーランドやチェコ、ルーマニア、エストニアが昨年から今年にかけ、米国との協力に合意。中国通信大手、華為技術(ファーウェイ)を制限する姿勢をにじませる。さらにルーマニアでは今年6月、中国企業との原発建設計画が破棄された」

 

すでに報じられたように8月、チェコは上院議長を団長に台湾へ99人もの大型使節団を送った。「一つの中国」から言えば、あり得ないことが起こったのである。中国外相は激怒して、「相当の代償を払わせる」と暴言。これが、独仏から猛反発を受ける結果となった。中国の地位は、確実に低下している。

 

(4)「いったい何が起きているのか。内情を知る現地の外交専門家らにたずねると、第1の原因は経済協力への失望だ。中国は「一帯一路」構想をかかげ、巨大なインフラ整備の大風呂敷を広げた。だが、さほど進んでいない。プラハ国際関係研究所のルドルフ・フュルスト主任研究員は語る。「中国は12年以降、中欧、東欧で主にエネルギーと輸送インフラの投資プロジェクトを多数、手がけた。だが、バルカン諸国を除けば、ほとんどが完全には実現していない。このため、中国との経済協力への期待が薄れている」と指摘する」

 

中国得意の「大風呂敷」が破綻しただけである。経済支援がなくて、大口だけをたたかれることに我慢できなくなったのだろう。中国の経常黒字が劇的に低下しており、海外支援の「原資」がなくなったのだ。中国の経常黒字は、すでに2025年以降に赤字転落予想となっていた。今回のコロナウイルスでその時期は早まる。もはや、海外支援の経済力は消えかかっているのだ。

 

 

(5)「2000~19年、中国からEUに注がれた直接投資のうち、東欧向けは10分の1にも満たない。親中派を自認してきたゼマン・チェコ大統領ですら今年1月、ついに失望を表明した。2に中国との交流が深まるにつれ、内政干渉や安全保障への不安も高まっている。ポーランドでは昨年1月、ファーウェイのワルシャワ支店幹部がスパイ容疑で逮捕された。チェコでは情報機関が1911月、同国内で中国のスパイ網づくりが加速しており、ロシアと並ぶ深刻な脅威になっていると結論づけたという。チェコの国会議員は「中国国有企業からチェコ政府高官に、不透明な資金が流れたという疑惑もある」と憤る」

 

中国は、どこでもスパイ網をつくり挙げる。チェコが、その舞台になっていた。ファーウェイが密接に協力している。衰え行く経済力の中国は、これまで多くの手形を切ってきた。すべて「空手形」となって、今後は中国の信用毀損となってはね返るであろう。