中国は、まともな経済学者が消えてしまったのか。そういう思いを抱かせるほど、実現不可能な経済計画が飛びだしてきた。2035年に1人当り名目GDPを中等先進国並みに引上げるというのだ。胡鞍鋼・北京大学教授によれば、2035年まで5%前後の経済成長率が可能というから、この「超超楽観予測」を下敷きにしたのだろう。
真面目に考えれば、中国は2022年に「高齢社会」(65歳人口比率14%以上)、2032年に「超高齢社会」(同比率が20%以上)に移行する社会だ。生産年齢人口比率が急減するなかで、5%前後のGDP成長率達成は不可能である。いくら、生産性向上を図ると言っても、すでに中国の生産性はインフラ投資偏重で低空飛行状態である。
客観的に見て、不可能は経済目標を打ち出すのは、政治目的が優先されている結果だ。習近平国家主席の終身制にするためのお膳立てに過ぎないのである。前記のような経済目標達成のため、習近平氏が終身国家主席に据えるというのであろう。毛沢東が、終身の「共産党主席」であったように、習氏もそれを狙っている。事実、10月29日に閉幕した中国共産党の重要会議、第19期中央委員会第5回全体会議(5中全会)で、党指導部の人事は発表されなかった。後継国家主席の人事がなかったのだ。
『日本経済新聞』(10月30日付)は、「中国、2035年『先進国並みに』、1人当たりGDP」と題する記事を掲載した。
中国共産党の重要会議、第19期中央委員会第5回全体会議(5中全会)は29日に閉幕した。2021~25年の「第14次5カ年計画」の骨格などを固めた。35年に「1人当たり国内総生産(GDP)を中等先進国並みにする」との目標を掲げた。対米摩擦の長期化に備え、消費など内需を拡大し自力での安定成長をめざすが、道のりは険しい。
(1)「中国の1人当たり(名目)GDPは19年に1万ドル(約105万円)を超えた。中等先進国は3万ドル前後のイタリアやスペインが念頭にあるとされる。4億人とされる中間所得層も「目に見えて拡大する」とした。米国のハイテク封鎖を念頭に「コア技術で重大なブレークスルーを実現」とも表明した」。
総人口に占める高齢者の割合が12.6%に達した時、日米韓1人当たりの名目GDPは、2万4000ドル(約251万円)を上回っていた。中国の1人当たりの名目GDPは、約1万ドル(約105万円)に過ぎない。この差は大きいのだ。中国の低生産性体質を示している。統制経済であることが、市場機能を歪めているからだ。習氏は、終身国家主席を目指している以上、統制経済が続くはず。生産性向上はあり得ない。
(2)「長期目標の実現に向けて、新たな5カ年計画は「2つの循環」を柱に据えた。貿易を軸とする「外」と、消費を柱とする「内」の2つの経済循環で成長を実現する考えだが、重点は「内」にある。新計画も「国内の大循環が主体」と明記した。鄧小平氏の改革開放の重点は「外」にあった。外資を取り込み「世界の工場」として輸出主導で高速成長した。改革開放の前提は安定した米中関係だったが、貿易戦争や覇権争いで見直しを迫られた。習氏の「2つの循環」は改革開放からの大きな路線転換といえる」
米中デカップリングの中で、中国経済は輸出依存が不可能になる。そこで、内需=個人消費依存の経済運営に移行するという。これは、急激な経済成長率低下を招く。対GDP比で40%弱の個人消費では、中国経済を牽引できないからだ。やはり、インフラ投資依存になろう。中国全土が、コンクリートで覆い尽くされるに違いない。
(3)「コミュニケは、「国際的なパワーバランスは深刻な調整がある」とし、いまの米覇権の揺らぎも示唆した。「機会と試練に新たな変化がある」と指摘し、国際秩序が流動化しても自力で安定成長できる経済をめざす。まず内需の拡大を急ぐ。計画は「消費を全面的に促進し、投資の余地を切り開く」とした。中国の個人消費はGDPに占める比率が39%と5~7割の日米独を下回り、伸ばす余地が大きい。次期計画は「質の高い成長を推進する」と記した。21~25年の経済成長は年5%台をめざす案がある。供給面では「科学技術を自力で強化する」とうたい、先端技術の内製化を進める。米国の禁輸も意識し「サプライチェーン(供給網)の水準を明らかに高める」とした」
下線部分は、とんでもない間違った判断を下している。個人消費の対GDP比は、年間1%ポイント以下しか上昇しないのだ。家計支出に依存する経済では、家計債務比率が現在のように急増している状況において、過大な期待は禁物である。今後10年間、住宅バブルで多額の債務を抱える家計に中国経済を牽引する力はない。あまりにも現状認識が甘いのだ。
(4)「中国の生産年齢人口は13年をピークに減り、19年の出生数は58年ぶりの低水準だ。5中全会で産児制限の緩和観測もあったが、具体策は見送った。少子高齢化が深刻さを増せば、構想とは逆に内需は縮小しかねない」
中国の合計特殊出生率は2019年、わずか1.048だった。1949年以来の過去最低を記録した。日本の合計特殊出生率は、まだ1.36(2019年)で中国を上回っているのだ。日本では、出生率低下が大きな社会問題になっている。中国の実態は、日本の水準以下という厳しい状況に置かれている。この中国経済が、2035年に1人当り名目GDPで3万ドルのレベルへ達するとは考えられないことである。


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