人民元の対米ドル相場が上昇中である。中国への資金流入を反映したものだ。為替相場が政府管理の手を離れ、市場の需給実勢を反映することは、ごく自然である。これが、中国政府にとってプラスになるかどうか、話題を呼んでいる。つまり、管理型変動相場制が、自由変動型相場性へ移行すれば今後、訪れる中国経済の激動によって、人民元相場は乱気流に飲み込まれるリスクを増すからだ。中国の為替相場には、それほど脆弱性を抱えている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月30日付)は、「人民元高は一段と操縦不能に、政府から離れる手綱」と題する記事を掲載した。
(1)「人民元の対ドル相場は、今年上昇している。中国人民銀行(中央銀行)は急速な元高を抑えようとしているようだ。だが、為替相場に対する手綱の一部を国際市場に委ねたことで、今や金融当局に打てる手は減っている。人民銀は日々公表する元の基準値(中央値)の設定に組み込んでいる、いわゆる「逆周期因子(カウンターシクリカルファクター、CCF)」の利用を停止した。これは必要に応じて為替相場を下支えするための調整手段だ。さらに同行は、為替先物取引に義務づけられた準備金要件を引き下げた。いずれの措置も初めてではないが、足元のこうした動きは元高の抑制に向けた姿勢を示している」
中国は、人民元の対米ドル相場の上昇を歓迎している。中国人民銀が、日々公表する元の基準値(中央値)の設定に組み込んでいる、いわゆる「逆周期因子」の利用を停止したからだ。それだけ、市場実勢に合せている証拠である。人民元相場の上昇は、中国への資金流入を意味する。
中国が、この時点で米ドル流入を歓迎しているのは、それなりの理由がある。中国は、発展途上国へ貸付けた1000億ドル以上の債権が、G20の申し合わせで「返済凍結」になっている。それだけ、米ドルの資金繰りが苦しくなっているのだ。それゆえ、米ドル流入はすべて「ウエルカム」である。苦肉の策だ。
(2)「中国製品の国外での需要が高まり、2020年の中国の貿易黒字は急増している。元の対ドル相場は5月の安値から7%近く上昇し、現在は1ドル=6.72元付近で推移する。同国が債券・株式市場の主要指数への中国国債や中国株の組み入れを容認したことも、外国人投資家からの資金流入に拍車を掛けている。外国人投資家の中国国債保有高は今年に入って約3700億元(約5兆7600億円)の純増となり、政府発行高に占める比率がわずかに上昇した。それでも外国勢による中国国債の購入がピークを付けた2018年の同時期より若干緩やかなペースだ」
人民元相場は10月30日夜間(23時12分現在)で、1米ドル=6.6831元である。さらに人民元高だ。米ドル資金が、流入基調を維持している証拠である。この背景には、中国が債券・株式市場の海外主要指数へ中国国債や中国株の組み入れを認めたことも挙げられる。中国が、「金融開国」した結果である。
(3)「大規模な資本流入は多くの途上国が気にかけない類いの問題であり、(株価)指数組み入れに起因する流入は、アジア金融危機以降、中国政府が懸念するホットマネーの流入ほど気まぐれではない。だがそれを受け入れることは、同国の金融状況に対する制御の一部を国際市場に委ねることになる」
下線のように「金融開国」は、これまで中国政府が執拗なまでに行なってきた「金融鎖国」を放棄したことを意味する。人民元相場は一部、国際市場に委ねられたのだ。現在の管理型変動相場制は、自由変動相場制へ一歩も二歩も踏み出したと言える。
(4)「特別に関心を払うべきもう一つの要因は、来週投開票される米大統領選・議会選の行方だ。米通商政策の好戦的姿勢が和らぐことで、元相場にどれほど影響があるのかを正確には言えないが、昨年の市場動向をみる限り、為替相場と米中の通商関係を巡るセンチメントに密接な関係があることが分かる。選挙結果がどうであれ、中国が自国資産への資金流入の拡大を容認することは、元のコントロールをある程度放棄することを意味する。国外投資家による資産保有がさらに増えれば、中国政府は以前のように為替を管理下に置くことは一段と難しいと気づくかもしれない」
米大統領選は、トランプ敗北になるという読みが人民元相場に反映されているようだ。これは、一時的な変動要因である。もっと重要なことは、下線部のとおり「人民元のコントロールをある程度放棄することを意味」している。一度、このコントロールを緩めれば、元の管理状態へ戻すことの難しさが分るだろう。中国は、経済の脆弱性がもたらす人民元相場の変動を防ぐ手段を手放したのである。ルビコン川を渡ったのだ。


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