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FRB(米連邦準備制度理事会)は、2023年まで実質ゼロ金利政策を続けると発表

して以来、ドル安がはっきりしてきた。これを受けて、円高が進んでいる。すでに1ドル=103円も珍しくない状況になっている。さらに、来年は静かに1ドル=100円突破になりそうだという。

 

日本では、「円高不況論」が根強い。だが、日米企業物価に基づく購買力平価を見れば、1ドル=93円見当である。つまり、実勢相場が93円を突破する円高になれば、企業の輸出採算は悪化する。現状では、そこまでの円高を予想していない。心配ご無用、というところだ。

 

『ロイター』(11月26日付)は、「来年のドル・円、静かに100円割れかー佐々木融氏」と題する記事を掲載した。

 

J.P.モルガンは今週、来年末までの為替相場予想を公表した。その中でドル/円相場に関しては100円を割り込み、98円まで下落するとの予想を示した。米国の追加経済対策は来年1~3月期の終わり頃まで合意が得られないとみているため、米国の1~3月期の実質国内総生産(GDP)成長率はマイナスとなる見通しだ。

 


(1)「想定される経済環境の中でも、米FRBが利上げを必要と感じるところまでインフレ率が上昇しなければ、利上げ期待も高まらないだろう。その結果、「経常赤字国の米国が名目政策金利をゼロ、実質金利はマイナス」という状況は続くので、米ドルが少なくとも対円で下落するトレンドは、来年も続くと予想される。しかし、1兆ドル程度と予想される追加経済対策は46月期以降の成長を高めることになり、また、来年後半はワクチンが広く配布され、経済活動も次第に回復の度合いを強めていくことになるだろう」

 

FRBが、2023年まで実質ゼロ金利を継続すると発表していることから、ドル安基調が続く見通しが強くなった。米国経済は、来年後半にはワクチン投与が行われるので様相は変ってくる。

 

(2)「このように想定される経済環境の中でも、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを必要と感じるところまでインフレ率が上昇しなければ、利上げ期待も高まらないだろう。その結果、「経常赤字国の米国が名目政策金利をゼロ、実質金利はマイナス」という状況は続くので、米ドルが少なくとも対円で下落するトレンドは、来年も続くと予想される。国際金融危機(GFC、リーマンショック)からの回復過程では、FRBは約7年間政策金利をゼロ%に据え置いた。その最初の約2年半程度(2009年3月2011年7月)の間に、米ドルは名目実効レートベースで約18%程度下落した。今年は4月以降、まだ10%程度しか下落していない。しかも、GFC後の回復過程に比べ、現状の米10年金利は現在3分の1程度の水準しかない」

 

ドルに関する見方はそれぞれ異なる。例えばゴールドマン・サックスのアナリストは、今後12カ月にドルが6%下落すると予想している。一方、INGのアナリストは最大で10%の下げを見込んでいる。シティは、ドルが2021年にさらに20%下落すると予測するなど多様である。以上は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月27日付)が報じた。

 


(3)「一方で、円は現状の割安度合いを維持できないだろう。円は実質実効レートベースでは、依然として過去30年間の平均に比べ20%程度割安となっている。今年の年初までは積極的な対外直接投資と対外証券投資により、円の割安度合いは維持されてきた。だが、新型コロナウィルス感染が世界的に拡大している中で、日本企業の対外直接投資は、過去最大を記録した昨年のペースに比べて、既に半分以下に落ち込んでいる」

 

日本企業の対外直接投資は、今年に入って昨年の半分以下のペースに落ちている。これは、パンデミックによる世界経済の混乱が原因である。こうして、日本企業のドル需要は低下しているので、ドル安基調に拍車をかける。

 

(4)「各国の金利差が無くなり、先行き不透明感から対外投資が以前に比べれば手控えられる状況の下で、来年の円相場は、これまでのようにリスクセンチメントによる影響より、ファンダメンタルズから受ける影響の方が大きくなるだろう。日本は、依然として高水準の経常黒字、これまでの旺盛な対外投資によって維持されてきた割安な円水準、実質金利の上昇などの観点からすると、2021年に円が上昇する可能性は比較的高いと考えられる」

 

日本が、これまで取ってきた特異な金融政策は、欧米の追随によって突飛なものではなくなってきた。円が、上昇する局面にあることを認めるほかない。21年は、そういう年となろう。

 


(5)「世界的な株価上昇が続く中で、ドル/円相場と日経平均株価の相関は今後も崩れたままの状態となるだろう。J.P.モルガンは、来年もドル/円相場の下落トレンドと日経平均株価の上昇トレンドは並立すると予想している」

 

ここでの指摘は、極めて重要である。円高になっても日経平均株価は上昇するというのである。私が、この「謎解き」をしたい。

 

日本の輸出に直接関わるのは「企業物価・購買力平価」であること。円の実勢相場が、これを上回っている限り輸出業者は損にならない。円高になっても、日経平均株価が上がるのは、日本の「企業物価・購買力平価」が低位維持である結果だ。

 


そこで、「企業物価・購買力平価」を見ると、日本は2013年5月以来、円の実勢相場を一貫して下回っていることがわかる。つまり、円の実勢相場の変動にも関わらず、日本の企業物価の購買力平価は、ドル=円相場を下回っているのだ。日本の製造業が、米国よりも高い生産性を上げているので、企業物価が安定していることを意味する。

 

企業物価・購買力平価(国際通貨研究所調べ)は、11月19日現在で94円58銭である。円相場との差は、11月19日現在で9円25銭となる。円相場で輸出成約しても、9円余の「差益」が出ている計算である。今後、円が100円を突破しても、企業物価・購買力平価94円台へ急迫しない限り、「静かな円高」と言えそうだ。