中国経済にとって、当面の問題は金融の安定化である。今回のパンデミックで、金融の量的な超緩和を行い経済の下支えを行った。先進国では利下げによる質的緩和も図ったが、中国では不動産バブルに火を付けることを警戒していた。その分、量的緩和が大きかったのだ。
中国人民銀行(中央銀行)金融研究所長は、「中国の市場金利は自然利子率(注:貯蓄と投資の均衡利子率)を下回っており、資源の配分に歪みが生じ、モラルハザードを生み出す可能性がある」(『ロイター』(11月18日付)と指摘するほどだ。行き過ぎた量的緩和が、市場金利を異常低下させている。
このように、中国経済は大規模な不動産バブルが発生しやすい状況を生んでいる。だが、アリババ集団や騰訊控股(テンセント)は金融業にも手を伸ばしており、中国の金融システムを脅かす存在になっている。中国人民銀行が金融政策を発動しても、IT企業の金融部門の肥大化で効果を減殺する恐れが強くなってきたのだ。この問題は、2~3年前から顕著であった。もはや、放置できない限界点にぶつかったと見るべきだろう。
『日本経済新聞 電子版』(12月24日付)は、「中国、デジタル人民元が阻むアリババ帝国」と題する記事を掲載した。
中国政府がかつて保護していた巨大IT(情報技術)企業のアリババ集団や騰訊控股(テンセント)の事業拡大の阻止に動き始めた。金融業にも手を伸ばし、既存の金融システムを脅かし出したからだ。とはいえ中国政府は影響力の大きさから全面規制はできない。こうしたなかでデジタル人民元がIT企業から決済事業を奪い、拡大に歯止めをかけるとの見方が浮上する。ITから流通、金融へと「領土」を拡大してきたアリババ帝国にも斜陽のときが訪れるのだろうか。
(1)「中国の規制当局は12月24日、アリババが独占禁止法に違反した疑いで調査していると発表した。アリババ傘下の金融子会社のアント・グループも金融当局が聴取、指導する。アントはアリババのキャッシュレス電子決済サービスのアリペイを運営する。これに先立ち、中国共産党・政府は18日に閉幕した中央経済工作会議で「独占に強く反対し、無秩序な資本拡張を防ぐ」との方針を決めていた。11月にはアントの株式上場を延期させている。上海と香港に上場し、345億ドル(約3兆6000億円)を調達する計画だった」
単純な独占禁止法の適用問題ではない。「無秩序な資本拡張を防ぐ」という言葉の中に、IT企業の金融部門進出を抑制する意図が覗われる。消費者が、ITで手軽に決済できるのは便利だが、そこに止まっていれば問題はなかった。預金と貸出という「疑似金融機関化」したことで、正規の金融機関から大量の預金が移動する羽目となった。
この結果、金融機関では、預金減となり「信用創造」(預金の何倍もの貸出を行う)が不可能になったのである。現状は、ここまで来ており「疑似金融機関化」を阻止するのは当然のことである。当局は、アント・グループが香港と上海で予定していた新規株式公開(IPO)を急きょ中止させた。このIPOは資金調達額が史上最大の340億ドル(約3兆5460億円)程度になるとみられていた。
(2)「当初、中国政府はアリババが始めたキャッシュレス決済を流通や金融を革新するテクノロジーとして保護し、都市部では現金が使われなくなるほどに浸透した。しかし電子決済のシェアはアリババのアリペイが55%、テンセントのウィーチャットペイが39%と2社の寡占状況を生んだ。銀行の発行するデビットカード(銀聯カード)やクレジットカードの利用は大きく増えず、新興企業や消費者も借り入れを銀行ではなく、IT企業の金融事業に頼るようになった」
中国が自慢したキャッシュレス決済が、時間の経過とともに想像以上の「鬼っ子」となって金融市場を攪乱することになった。中国の金融システムは複雑怪奇である。正規の金融機関が、個人を相手にした業務に不熱心であったという虚を、キャッシュレス決済で埋められていたのである。
(3)「なかでも銀行の脅威となったのが、アリババの投資ファンドだ。アリペイ型の電子決済では銀行口座などのお金をアリペイに移して使う。アリババは利用者が使い切れなかった資金を銀行に戻さずに、アリペイから投資できる「余額宝」というMMF(マネー・マーケット・ファンド)をつくった。解約はスマホで簡単にでき、戻された資金は再び支払いに使える。銀行預金より高い利回りで提供したため、アリペイの利用者は銀行口座から余額宝に資金を移した」
中国当局が、最初からしっかりした金融機構を設けずにきたことが、IT企業に金融機能を付与させるという失敗を招いた。その時々の「便利」という言葉に押し切られ、秩序ある金融機構を設計しなかった咎めである。責任は、金融当局が負うべきである。
(4)「18年6月には余額宝系ファンドの資金規模が1兆8602億元(約30兆円)に上り、四大国有銀行の一角である中国銀行の個人の普通預金、1兆7986億元(17年末)を超えた。IT企業が国有銀行など既存の領域を脅かし始めると、中国政府はIT企業の金融事業に対して徐々に規制を強め、急成長していたネットを媒介とする小口融資に網をかけた。さらにアリペイやウィーチャットペイに銀行と同じように準備預金を中国人民銀行(中央銀行)へ積むことを義務付けた」
MMFが、四大国有銀行の一角である中国銀行の個人の普通預金を上回る規模になったのは、明らかに当局の金融機構整備に反する事態である。そこまで放置したのは、当局の責任である。
(5)「中国政府がこの状況を変えるゲームチェンジャーとして期待するのがデジタル人民元だ。姚前氏は中国人民銀行デジタル通貨研究所長の時代に「デジタル通貨の決済では仲介機能に依存しなくとも済む」と主張していた。現段階の構想では、デジタル人民元の利用者は預金口座を持つ銀行のデジタル人民元口座(デジタルウォレット)を設定し、必要な額を換えて使う。スマホに入れたウォレットからデジタル人民元を相手側に直接支払うことができる。これなら預金は銀行にとどまる」
当局は、MMFの正常化策としてデジタル人民元の利用で乗り切ろうとしている。中国が、デジタル人民元に熱心な理由は、MMFの代替策であることだ。デジタル人民元は将来、基軸通貨米ドルの代わりを狙っていると説く者もいるが、そんな高尚な目的ではない。目前に迫って来た、肥大化するMMFを阻止する役割を担わせているだけである。


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