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ミャンマーの国軍系テレビは2月1日、クーデター宣言を報じ、軍の勇敢さと愛国心をたたえる歌を一日中流した。アウン・サン・スー・チー国家顧問をはじめとする高官が未明に一斉に拘束された。10年前に民主化に転じるまで軍政下で生きてきた住民たちは、慌てて食料品を買い込み、ATM(自動預払機)から現金を下ろしたという。

 

時間が経つとともに、国軍によるクーデターに至るまでの状況が、次第に明らかになってきた。

 

昨年の総選挙の不正を主張するミャンマー国軍は、2月1日に予定されていた議会招集の延期を強く要求していた。アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる与党(国民民主連盟:NLD)代表らと1月末から水面下で折衝を続けたが、交渉は決裂してクーデターに踏み切ったもの。複数のミャンマー政府関係者が明らかにした。

 


国軍はクーデター4日前の1月28日から首都ネピドーで与党との交渉を開始した。与党側からはスー・チー氏の側近チョー・ティン・スエ国家顧問府相ら2人が出席。国軍側も2人が出席して解決策を探ったが、最後まで妥協点を見いだせなかった。以上は、『共同』(2月2日付)が報じた。

 

アウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)高官は2日、スー・チー氏の健康状態は良好で、国軍がクーデターを起こした際に拘束された場所にとどめられていると明らかにした。スー・チー氏の健康状態は良好で、別の場所に移送される計画はないとフェイスブックに投稿した。『ロイター』(2月2日付)が伝えた。

 

中国国営の『新華社通信』(2月2日付)は、ミャンマー国軍によるクーデターを巡り、軍関係筋の情報として、拘束された地方政府の幹部らほぼ全員が2日に解放されたと報じた。北西部ザガイン地方域自治体の長、ミン・ナイン氏は解放後BBCに対し、拘束中も丁重な扱いを受けたと述べた。その上で「国の将来を憂いている。最善を望んでいたが、最悪のことが起きた」と述べた。

 


クーデター発生後の状況が明らかになるとともに、血なまぐさい状況は回避されているようだ。クーデター発生直前まで、国軍と与党の国民民主連盟(NLD)の話合いが持たれていたことで、今後の交渉余地が残されているように見える。それだけに、米国を筆頭にする西側諸国は、軍事政権へ強硬策でなく、柔軟な姿勢が求められるようだ。強硬策に出れば、中国側へ追いやるリスクが高まるからだ。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月2日付)は、「ビルマ政変とバイデン氏の選択」と題する社説を掲載した。

 

2月1日朝に米国人が目覚めると、ビルマ(ミャンマー)で迅速な(今のところは)無血の軍事クーデターが発生したとのニュースが流れていた。かつて同国の民主主義政権への移行はオバマ政権の主要な成果の一つとうたわれていた。

 

(1)「ビルマ軍幹部は11月の総選挙で自分たちの政党が大敗したのを受け、再び権力を掌握するための動きを始めた。選挙で選ばれた国の指導者であるアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相はその負託を生かし、軍の権力を制限する憲法改正を目指していた。そのことが軍による文民政府の強制停止と通信手段の遮断の引き金になったようだ」

 

先の総選挙で与党が大勝した。国軍は、不正選挙が行なわれた結果だとして、これを認めない上に、クーデターに訴える無謀な行動に出た。

 


(2)「バイデン政権が、この動きを非難しているのは正しい。だが、米国の単独行動での影響力は限定的なものにとどまる。欧米はビルマ軍に対し、市場へのアクセスという褒美と引き換えにスー・チー氏に権力を譲るよう迫ってきた。だが、権限委譲の程度は実際に行われたよりも誇張されていた。中国の南の国境に接する人口5400万人の国を経済的な孤立状態に戻せば、国民は苦しむこととなり、中国政府の思うつぼに陥りかねない」

 

欧米はビルマ軍に対し10年前、市場へのアクセスという褒美と引き換えにスー・チー氏に権力を譲るよう迫った。この、手法は今も生きているはずだ。米国は、西側諸国と協調して軍部との話合いをすべきだ。軍部のクーデターを非難するだけでは、中国側へ追いやる危険性が高まろう。ミャンマーは日本との関係が深いことから、日本政府が軍部の説得に当るのも有効だろう。また、インド政府に説得役を依頼するのも良かろう。ミャンマー海軍は、インドから中古潜水艦を譲渡された間柄である。

 

(3)「本紙コラムニストのウォルター・ラッセル・ミードが2019年に述べたように、「欧米の無責任な振る舞いのせいで、中国はミャンマーにとって、より安定した信頼できるパートナーのように見える」。トランプ前大統領の大国外交はともすれば雑な取引になりがちだった。一方、バイデン氏のチームは逆方向に大きく旋回しすぎ、米国の核心的利益を犠牲にしてもリベラルな価値観を強調する可能性がある。アジアにおける米国の優先課題はビルマのような独立国家に対する中国の支配力を制限することだ。同国はインド太平洋の戦略的な位置にある。中国はクーデターを非難するのを控えているが、恐らく軍事政権との外交ルートを築こうとする思惑があるのだろう」

 

ミャンマーの地政学的重要性を見落とせない。軍事政権への短兵急な接し方は、絶対に避けるべきだ。

 

(4)「欧米でかつて人道主義の英雄とみなされたスー・チー氏は、イスラム系少数民族ロヒンギャへの自国政府の対応を巡り、自身のリベラルな強みの一部を犠牲にした。同氏は不幸にも、緊張をはらんだ民族政治に屈することになった。ビルマは、民主主義と人権を巡る困難なジレンマを突き付けている。だが、同国がこれ以上中国の意向に沿うことになれば、米国の関与する余地は限られてくる。軍事クーデターへの米国の対応はアジアの戦略的状況を考慮しなければならない。そのためには道徳上の非難だけでなく、現実的な外交政策が必要となる

 

下線部のように、軍事政権へはメンツの立つ方法で接触すべきである。くれぐれも、中国側へ追いやることだけは避けるべきである。

 

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