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経済回復力は米英下回る

中期見通し立たない理由

厄介者の国営企業が主役

働き手が減る経済の悲劇

 

中国は、3月5日に全国人民代表大会(全人代、国会に相当)を開幕した。李首相の報告した政府活動報告は、今後の中国経済を占う意味で3つの点において、興味深いものだった。

 

第一は、2021年の経済成長率目標が事前予想の「8%以上」を下回って、「6%以上」に止めたこと。

第二は、第14次五カ年計画(2021~25年)の経済成長率目標を掲げなかったこと。

第三は、2021~35年の長期目標では「中等先進国並みにする」(1人当たり名目GDP)こと。

 

李首相は、政府活動報告で「経済回復の基盤はいまだ固まっていない」と述べ、雇用回復の遅れや個人消費の伸び悩みを課題に挙げた。これまで、コロナ禍からいち早く回復したと宣伝してきたことを否定する内容だ。

 


経済回復力は米英下回る

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月3日付)は、すでに中国経済の回復が遅れていることを報じていた。ワクチン接種が、全国民に行き渡っていないことも理由の一つに挙げている。その結果、今年のGDP成長率は米英の後塵を拝するというものだ。米英は、ワクチン接種が順調に進んでいるので、経済活動が早まるとしている。

 

   四半期GDPの増減率(前年同期比:%)

   21年1Q  2Q   3Q  4Q

中国   17.3  6.6  5.4  5.

英国 (-)6.7 20.1  7.0  7.

米国        13.0  7.3  7.

(ゴールドマン・サックス調査)

 

中国の経済成長率予測が、21年に「6%以上」と控え目にしたのは、コロナの後遺症だけではない。最大の問題は、不動産バブルの崩壊を懸念していることだ。今年1月1日、住宅ローンと不動産企業への融資は、抑制状態に入っている。昨年の金融緩和で、潤沢な資金が不動産に流れ込んでいるためだ。不動産バブルがさらに膨らめば、「バブル崩壊」不可避となる。それを恐れたのだ。

 

不動産バブルで利益を得ているのは、不動産企業だけでない。土地国有制を利用して、地方政府が「土地売却益」で潤っていることだ。昨年の地方政府財政では、歳入の5割が「土地売却益」であった。それゆえ、中央政府が高目の経済成長率目標を掲げれば、地方政府がこれに合わせて売却地価を引上げ、住宅価格を押し上げるという悪循環に陥るのだ。このように、中国経済は不動産バブルが支える最悪事態に嵌り込んでいる。

 


地方政府が、資金調達のために設立した投資会社による債務不履行(デフォルト)は、国内市場に「連鎖反応」をもたらすと警告されているほどだ。これに加えて、さらなる高い経済成長目標を掲げるのは、デフォルトを拡大する事態となろう。

 

世界の調査機関は、こういう実態を知らないで中国のGDP成長率を単純に将来へ引き延ばした予測をしている。中国が2028年に、GDPで米国を抜くという予測は、不動産バブルの実態を無視した、「数字遊び」としか言いようがない。

 

中期見通し立たない理由

中国が、GDPで2028年に米国を抜くという予測に信憑性があるとすれば、第14次五カ年計画(2021~25年)の経済成長率目標を掲げて当然であろう。中国政府は、今回それができないほど先行き不透明感に襲われているに違いない。

 

1)不動産バブルの収束見通しが立たない。

2) 米中対立の長期化で、中国が受け身に立たされている。

 

1)は、中国不動産業界の雄として知られる中国恒大集団が今や、資金調達に窮していることである。そこで考え出した妙手は、子会社に時代の寵児であるEV(電気自動車)事業を始めるという触れ込みで、資金調達させたことである。その子会社の主要資金運用が、不動産でありEVでないという、笑うに笑えない事態に陥っている。創業者の許家印は、2019年に世界3位の富豪にランクされたほど。中国不動産事業が、いかに高収益であったかを物語っている。これも全て、不動産バルルのもたらした「飛沫」である。

2)は、この米中対立の長期化がこの先どれだけ続くか分からない点である。米国は、同盟国を巻き込んで「民主主義体制の護持」という価値観擁護を前面に立てている。中国の価値観は、共産主義で人権弾圧という非人間的な位置づけになるので、米同盟国が結束して中国を封じ込める大義名分を与えてしまった。これからは、中国にとって極めて不利な「戦い」を強いられることになる。

 

中国の仲間といえば、ロシア、北朝鮮、イランである。こういう相手国から支援を受けられる保証はゼロである。米同盟国が、中国を技術封鎖した上に貿易面においてデカップリング(分断)で共同歩調を取られたら、中国はどう対応するのか。「一帯一路」で仲間に入れた新興国も、中国の経済支援を当てにした国々である。中東欧17ヶ国のうち、すでに6ヶ国は反旗を翻している。「以下同文」である。「金の切れ目が縁の切れ目」で、中国の元を去って行く運命だ。(つづく)

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