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欧州が、これまでの親中国姿勢を大きく変えている。中国の人権弾圧への抗議が、「中国強硬論」を生み出しているもの。フランスは、ドイツと共にEU(欧州連合)を牽引しているが、反中国への雰囲気を高めている。

 

フランスの元国防相アラン・リシャール議員は、上院で台湾友好議員連盟の代表を務め、今夏にも台湾を訪問する方針だ。中国は猛反対している。実現すれば、EUでは二国目になる。

 

昨年8月30日、チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長ら代表団89人が台湾を訪問した。台湾と国交はないが、公式訪問を通じて関係強化を図る意図を鮮明にしている。中国は、「一つの中国」を主張しており「卑劣な行為」と激しく非難した。

 


フランス海軍は5月11~17日にかけ九州近海で、日米豪の三海軍と合同演習を実施している。これに対して、中国外交部広報官は、「油のムダ遣いにすぎない」と批判した。中国共産党系メディア『環球時報』は13日付の1面トップ記事で「日本が仏米豪を巻き込み対中で強硬な姿勢をみせている」と指摘する記事を掲載した。社説では、中国近海で中国人民解放軍の武装力は米国とその同盟国を「圧倒している」と主張した。

 

『日本経済新聞』(5月14日付)は、「仏、広がる対中強硬論 台湾の国際機関参加、上院支持 人権やコロナ対応不満」と題する記事を掲載した。

 

フランス国内で対中強硬論が広がっている。仏上院は台湾の国際機関への参加を支持したほか、海外領土を持つインド太平洋での中国の海洋進出にも警戒が高まっている。マクロン大統領は気候変動問題では中国との対話を探る必要があるとして、バランスに苦慮している。

 


(1)「仏上院は今月上旬、台湾の国際機関参加を支持する決議案を圧倒的な賛成多数で可決した。決議は法的拘束力をもたないが、世界保健機関(WHO)や国際刑事警察機構(ICPO)などへの参加を目指す台湾を支援するよう仏政府に求める内容だ。決議案を3月下旬に提出した元国防相のアラン・リシャール議員は上院で台湾友好議員連盟の代表を務め、今夏にも台湾を訪問する方針だ。これに対し、中国は強く反発している」

 

フランスは、人類にとって人権復活への狼煙になったフランス革命を経験している国だ。中国の人権弾圧に対する本能的な嫌悪感があるのだろう。台湾の国際機関参加を支持する決議案を圧倒的多数で可決した。元国防相のアラン・リシャール上院議員は、台湾訪問計画を発表している。

 

(2)「リシャール氏の訪台計画が明らかになった2月、在仏中国大使館がリシャール氏に手紙を送り、訪台の中止を求めた。中国大使館は、この対応に疑問を呈したフランスの中国研究者を「小さなごろつき」と非難。仏外務省が大使を呼び出す事態に発展した。欧州連合(EU)がウイグル族への人権侵害で中国政府当局者に制裁を打ち出し、中国も対抗措置をとり、対立が激しくなっている。中国による新型コロナウイルスへの初期対応の遅れが世界的な拡大を招いたとの不満も強硬論につながっている」

 

チェコ上院議長が訪台した際に、中国はチェコへ経済制裁を加えると脅迫した。結果は、20台のピアノ輸入をキャンセルしただけ。外に輸入品がなかったので、チェコではかえって中国を笑い者にされた。フランス上院議員の訪台が実現した場合、どのようは制裁をするのか。

 

(3)「フランスは2020年で約180億ユーロ(約2兆3000億円)の対中貿易赤字があり、対中黒字のドイツに比べて対中関係の悪化による経済的な打撃は相対的に小さい。一方で、フランスは南太平洋の仏領ニューカレドニア、インド洋の仏領レユニオン島などに軍事基地を持ち、中国の海洋進出への警戒が強い。フランスが強い影響力を持つアフリカでも、中国は積極的な外交を展開している」

 

フランスは、対中貿易で赤字である。これでは、中国が対仏制裁するどころか、逆にフランスから報復されかねない立場だ。フランスは、アジアに軍事基地を保有する。中国への警戒感が強いのは当然である。

 

(4)「フランスは軍事的関与も強めている。20年11月に原子力潜水艦をオーストラリアに派遣したほか、21年4月にはインド東部のベンガル湾で日米豪印と共同訓練を実施。今月11~17日に九州各地で実施する共同訓練にも参加する。マクロン氏自身も中国の人権問題や強権的な外交姿勢に対して警戒感を強めているが、強硬姿勢に傾きすぎれば、気候変動問題で中国の協力を得にくくなると懸念する。20年12月、習近平(シー・ジンピン)国家主席と電話協議した時には「21年が気候変動対策に向けて国際的な機運が高まる年になるよう取り組もう」などと呼びかけた」

 

フランスは、アジアへの利害関係が深いことから、日米豪印と共同訓練を重ねている。将来、「クアッド」(日米豪印)へ参加する可能性も出て来そうである。英国も、その可能性が大きいと見られている。中国にとっては、「油の無駄遣い」などと言っていられない状況がつくられている。