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習近平氏は、国内の政敵をことごとく追放して無敵の状態である。だが、海外では逆風が吹きまくっている。米国にバイデン政権が登場以来、西側諸国は対中の同盟意識を取り戻してきたからだ。中国が、米欧対立の隙間を突いて暗躍できる余地がなくなった。

 

アジアでは、クアッド(日米豪印)四ヶ国が結束して中国に対応する姿勢を明白にしている。韓国までがクアッドの準会員になって、半導体・バッテリー部門でサプライチェーンの一角を担う姿勢を明確にした。こう見ると、中国はロシアとイラン・北朝鮮を除けば、親しい国がないという絶望的な事態を迎えることになりそうだ。

 


『日本経済新聞 電子版』(5月26日付)は、「中国を遠巻き環視する米欧、『新常態』に動けぬ習近平氏」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の
中沢克二編集委員である。

 

欧州議会が欧州連合(EU)と中国の投資協定の批准に向けた審議の停止を決めた。中国が受けた衝撃は大きい。共産党創設100年という習近平(シー・ジンピン)時代になって最も重要なイベント(71日)まで1カ月余りしかないからである。「米国に続いてEUともうまくいかない。(周りが全て敵になる)四面楚歌(そか)をどうにかしないと100周年の喜びも半減する」。共産党関係者からこんな声が出るほど中国からみた国際情勢は厳しい。

 

(1)「対米関係に悩む中国は2020年末、EUと投資協定の締結で大筋合意した際、「経済面の利益以上に大きな戦略的な意味を持つ国際政治上の大勝利だ」と大々的に宣伝した。ギクシャクしていた米国とEUの関係を利用し、米欧間に横たわる大西洋に楔(くさび)を打ち込む計略は成功したかに見えた。ところが投資協定の批准には欧州議会の同意が必要で、早期の発効は難しくなった。7年もの交渉の末にようやくこぎ着けた戦略的な大勝利が一転、暗礁に乗り上げた」

 

中国は、ドイツとフランスとの関係を上手く維持できれば、EUとの関係が円滑にいくと見ていた節がある。それゆえ、「小国」を侮辱する発言が見られた。こういう外交上のミスによって、「反中国」の勢いを増している。

 


(2)「中国は直前まで最後の努力をした。首相の李克強(リー・クォーチャン)が、イタリア首相のドラギと電話で協議し、EUとの投資協定の早期調印・発効を促した。イタリアは10月末に開く20カ国・地域(G20)首脳会議の主催国で、中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」にも主要国(G7)で唯一、正式に参画する「親中」の国でもある。中国はイタリアG20までには欧州議会での審議が進むとみていた」

 

中国・EUの包括投資協定は、昨年末にドイツのメルケル首相がEU議長国の権限を生かして署名に持込んだ曰く付きの協定である。EU内の「小国」は、中国の横暴に反発しており、中国企業のEU進出に否定的姿勢を強めている。新疆ウイグル自治区の人権弾圧が、格好の「反中」で結束させている。中国は、こういうEUの底流の流れを無視して今、苦杯をなめている。

 


(3)「追い打ちをかけたのが、バルト3国の一つであるリトアニアの動きだ。リトアニア外相のランズベルギスはこのほど、中国と中・東欧諸国の協力の枠組みである「17プラス1」からの離脱を明らかにした。
「17プラス1」は中国がバルカン半島や中・東欧地域の国々に影響力を行使するのに重要な枠組みで、「一帯一路」と補完関係にある。2月にオンラインで開いた「17プラス1」首脳会議で中国は、李克強に代えて初めて習近平が自ら出席するなど、この会議を一段と重視していた。「17プラス1」の構成国の一部はEUに加盟する。このため経済力に勝る中国が「17プラス1」を利用してEU内の動きに介入する狙いがある、という見方も出ていた。ところが、この枠組み自体に綻びが出てしまった」

 

リトアニアは、チェコに続く「反中」である。チェコ上院議長が昨年8月、台湾を訪問した際、中国は口汚くチェコを罵った。これが、皮肉にもEUでの「反中派」を増やす結果になった。リトアニアは今年、台湾に通商代表事務所を開設する方針を明らかにした。経済イノベーション省の報道官はロイターに、台湾事務所開設はアジアでの経済外交強化が狙いと述べたもの。『ロイター』(3月3日付)が報じた。

 


(4)「リトアニアは人口300万人弱の小国だが、EUと中国の応酬で意外に大きな役割を果たしている。3月、中国はEUの対中制裁に報復するため、リトアニアの議会議員を含むEU側10人と組織を対象に、中国本土や香港への立ち入り禁止といった制裁を発動した。これが裏目に出る。投資協定の批准に向けた審議を凍結する欧州議会の決定は、中国によるリトアニアの議員も対象にした対EU報復措置が解除されない限り覆らない。リトアニアは先に台湾へ貿易代表所を置く方針を打ち出し、議会が中国によるウイグル族の弾圧を「ジェノサイド」と認定する決議を可決した。」

 

人口300万人のリトアニアが、14億人の中国へ堂々と立ち向かっている。正論を掲げて対抗する姿勢は、韓国に学ばせたいほどである。

 


(5)「米バイデン政権と対峙する中国の習近平が、安全保障上もロシア大統領のプーチンに接近するなら、中国を通じてリトアニアの動きがロシアに筒抜けになりかねない。サイバー空間での目に見えない攻防が激しい今、情報戦への対処は国の命運を左右する。危うさを察知したリトアニアは本能的に中国の影響下から脱しようと動き始めた。そんな解釈が可能だ。この動きはエストニアやラトビア、そして他の「17プラス1」の構成国にもなんらかの影響を与えるかもしれない」

 

中国は、米国との対抗上、ロシアへ接近している。このロシア(旧ソ連)は、かつてリトアニア・エストニアなどを冷戦下に占領して人権弾圧した張本人である。こうして、中国の裏にはロシアがいるという警戒感を強め、「反中」意識を強めている、と指摘している。

 

こう見ると、中国はロシアとワンセットでEUから敬遠される要因を持っている。中国が、米国と対決すれば自動的にEUとも疎遠になるという構図が描けるのだ。

 

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