ムシトリナデシコ
   

タブーに触れてもお咎めなし

韓国の半導体技術に惹かれて

恒常的な生産性低下の落し穴

米国が中国を引離す時期近い

 

5月21日の米韓首脳会談は、中国にどのような負の影響が出るのか。目下のところ、どこもこの問題について触れていない。それは、目に見える形になっていないからだ。その見えない部分が重要である。

 

今回、韓国企業が米国で400億ドルの投資を行なう。これで、米国の外資誘致が本格化して、米国経済を強くする。同時に、それが中国に技術的に大きな損害になることを示唆しているのだ。中国で行なわれても不思議でない韓国の投資が、米国へ流れ中国へ与える技術的なマイナス・インパクトは大きいはずだ。この問題は、後半でとり上げたい。

 

タブーに触れてもお咎めなし

韓国は、米韓共同声明で「台湾」と「南シナ海」に言及した。これで、米国寄りになったという一点のみが注目されている。外交的に見れば、日米首脳会談の共同声明にも盛られていたことを踏襲した。日米韓三ヶ国が、中国へ結束して対応する宣言になった意味は大きい。

 


これによって、中国の対外戦略が影響を受けることは確かであろう。中国の戦略では従来、韓国を脅していけば米国側へピッタリとつくことはないと見てきた。現に、2016年に韓国が導入を決めたTHAAD(超高高度ミサイル網)へ行なった中国の経済制裁は、未だに続いている。中国は、このTHAADが無害であることを知りながら、あえて制裁に踏み切ったのは、韓国へ圧力を掛ける好機と判断した結果であろう。

 

こういう経緯から言って、韓国が米韓首脳会談の共同声明で中国のタブーである「台湾」と「南シナ海」に言及した以上、さらなる「お咎め」があるという予想が一般的である。だが、中国の公式反応はないのだ。ただ、中国外交部の「戦狼外交官」による軽い脅し程度に止まっている。なぜ、中国政府は強い反応をしないのか。それには、裏があったのだ。

 

ソウルの外交関係者によると、「中国は米韓首脳会談前に共同声明について大方の内容を知らされていた」と言う。韓国政府は、中国側との事前の擦り合わせで落としどころを探ったと見られる。中国は、日米豪印4カ国の枠組みである「クアッド」について共同声明での言及を容認する一方、香港や新疆ウイグル自治区などの人権問題には触れさせないように調整したというのである。これは、『日本経済新聞 電子版』(5月29日付)が報じたものだ。

 


この報道は、その後の中国の対応を裏付けている。日米首脳会談の共同声明では、口汚く非難したが、今回の米韓首脳会談の共同声明では、軽い「ジャブ」で済ませたからである。ただ、韓国が米韓首脳会談というトップシークレットについて、事前に外国へ漏らす外交ルールに反することを行なった点は重大な裏切りであろう。韓国の信用度を著しく損ねるものである。しかも、同盟を組む米国と対立する相手国へ知らせたのだ。信義上も、看過できない事態である。

 

このように韓国の「口が軽い」ことが分かった以上、韓国を「クワッド」に正式加盟させることは極めて危険である。特に、軍事情報が絡む問題では、中国へ筒抜けという最悪事態に陥るであろう。韓国の間諜(スパイ)まがいの行動は、黙認していると有事の際に思わぬ損害を被るはずだ。

 

韓国の半導体技術に惹かれて

中国が、米韓共同声明について正式反応しないのは、指導部で検討しているという見方もある。日本在住の中国人学者によれば、「米国の対中包囲網は効力がない。中国は科学技術など着々と手を打っている」と豪語している。これは、口先だけの話であり、それを裏付ける証拠は何もないのだ。仮に裏付けがあるとすれば、韓国が米国寄り姿勢を強めた以上、THAAD問題よりも強く反応して当然である。それが、沈黙しているのである。

 

考えられる理由は、韓国企業による海外での半導体投資が、さらに中国を回避して米国などへ集中することを恐れていることであろう。これは、中国で行なわれてもおかしくない半導体投資が、米国へ流れることを意味する。これによって、中国での半導体生産が減って、中国の雇用が増えないというマイナスの影響を被るのである。

 

半導体は、21世紀最大の「戦略物資」である。中国が、自国企業に依存する低い自給率(現状では10%程度)に悩んでいることかから推測して、韓国へ新たな報復を科すゆとりをなくしていると見るべきだ。

 

前記の、半導体自給率について若干の説明を加えたい。中国の自給率は、中国企業と外資企業の半導体生産で計算される。このうち、中国企業分が前述の通り10%、これに外資企業生産分の10%が加わり、合計の自給率は20%になる。残り80%は輸入依存である。中国が「半導体後進国」であるのは、紛う方なき事実なのだ。

 

戦前の日本は、当時の戦略物資である「鉄鋼」と「石油」を自給できずに米英と開戦した。中国は現在、半導体自給が不可能な中で、米国と開戦する構えの雰囲気を臭わせている。日本の例からも分かるように、現在の中国は極めて危険なコースを歩んでいる。中国はここで、戦闘状態に突入すれば、緒戦はともかく長期戦に備える経済力を持っていないのだ。

(つづく)

 

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