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現在の世界的なテーマは、二酸化炭素の排出量を減らすことである。二酸化炭素は、人間の経済活動と密接な関係を持っていることはいうまでもない。一方、新型コロナウイルスの感染を減らすには、「人流」を減らすことが重要だと叫ばれている。この両者の共通点は、人間が蟄居していることが最善という結論に落ち着く。

 

冒頭から、いささか荒唐無稽な話題を持ち出したのは、「脱炭素」が人間の数と比例しているという議論が出てきたので、この考えを吟味する必要を感じたたからだ。私の結論を先に言えば、合計特殊出生率が置換率「2.08」を割り込むと15年後に、その社会は経済活動に変調を来たすことを忘れてはならない。その結果、社会保障制度がガタガタになって、脱炭素も十分に行なわれない危機に直面することを覚悟すべきということだ。

 


『日本経済新聞』(6月24日付)は、「人口減少のプラス面に着目を」と題する記事を掲載した。筆者は、エネルギー移行委員会議長 アデア・ターナー氏である。2008~13年英金融サービス機構(FSA)長官。民間企業が立ち上げたエネルギー移行委員会(ETC)で現職。

 

5月に発表された中国の2020年実施の国勢調査は、人口がほとんど伸びていないことを示した。中国の1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.3と、(通常は約2.1とされる)人口置換水準(人口の国際移動がないと仮定し、一定の死亡率の下で現在の人口規模を維持するための合計特殊出生率の水準)を大きく下回った。こうした現象は先進国も同様だ。

 

(1)「1990年ごろから2000年代にかけ米国の出生率が2を上回る水準に戻った当時、「古い欧州」と比較した米国のダイナミズムや「社会的信頼感」の高まりを理由に挙げる識者もいた。実際には、増加は移民によるものといえた。はるかに高い出生率が維持されているのは、アフリカや中東に集中するより貧しい国だけだ。女性が十分な教育を受け、いつ子どもを持つかどうかを自由に選択できるようになった国の出生率は、置換水準を下回ることになる。こうした状況が広がれば、世界の人口はいずれ減少するだろう」

 

昨年7月、英医学誌『ランセット』に掲載された論文によれば、2100年の世界人口は88億人となり、現時点で国連が算出した予測よりも21億人少なくなる。合計特殊出生率の低下と人口の高齢化により、世界の勢力図が一新されると予測している。21世紀の終わりまでに195か国中183か国で、移民の流入が無い場合に、人口維持に必要な数値(注:2.08)を下回るという。


(2)「幅広くみられる、型にはまった見方は、人口の減少は悪いことに違いないというものだ。人口が安定した後に減少すれば、絶対的な経済成長率は低下するかもしれない。だが繁栄と経済的機会にとって重要なのは、国民1人当たりの所得だろう。教育を受けた女性が、「経済ナショナリスト」の気分を良くするために子供を産むのは嫌だと思うのは、非常に望ましいことだ。人口の安定や減少が国民1人当たりの経済成長を脅かすという議論は誇張されており、間違っているケースもある

 

日本を例に取れば分かるが、合計特殊出生率の低下に伴う総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)比率の減少は、潜在的成長率を引下げる要因である。つまり、全体の労働力人口が減れば、経済成長率が低下して、1人当たりGDPも上昇しにくい状況が生まれる。

 

この筆者が最も見落としている点は、人間の数が減れば供給と需要が減って、その相互作用である経済成長率に響くことである。日本でも出生率低下を喜んでいた向きがいた。「通勤電車の混雑度が緩和される」という類いである。今、振り返って見れば、社会保障面で大きな穴が開くことに気付かなかったのである。経済活動は、供給と需要の二要因から構成されることを忘れては困る。人間の数が減れば、需要減に見舞われるのだ。

 


(3)「人口が増加しなくなると、退職者1人当たりを支える現役労働者が減り、国内総生産(GDP)に占める医療費の比率が上昇するのは確かだ。しかし上昇分は、人口増加を支えるためのインフラや住宅への投資の必要性が低下することで減殺される。無駄をなくし、ハイテクなどへの支出を増やせば、人口が減少しても繁栄を続けられる」

 

人口減によってインフラ投資や住宅投資が減ることは、需要を減らすことである。供給はロボットの多用で一定水準を維持できても、ロボットは消費しないから供給と需要の不均衡をもたらして、経済活動は停滞せざるを得ないのだ。よって、急激な人口減は経済活動のバランスを崩して不況を招く大きな要因である。

 

(4)「世界の人口が安定し、やがて減少に転じた場合、気候変動を回避するための温暖化ガスの排出削減が容易になる。労働力の縮小は、企業の自動化の誘因となり、実質賃金は上昇する。一般市民にとっては、絶対的な経済成長よりも賃金増加のほうが重要だ。技術によって自動化される仕事が増えれば、より大きな問題は、潜在的な労働者の数が多すぎることで少なすぎることではない

 

このパラグラフでも、同じ誤解を繰返している。ロボットや機械化は生産性を上げるが、需要がゼロという重要な点を忘れている。経済は、供給と需要の均衡によって発展する。賃金の増加も生産性の増加に見合ったものでなければ、アンバランスになって不況になる。韓国の文政権が陥った実例がこれだ。全体のGDPが増えないで、1人当たりのGDPが増えると言う魔術はない。全体のGDPが増えるのは、供給と需要がマッチしている結果である。

 


(5)「複数の調査によると、出生率が低い国では多くの家族がもっと子どもを持ちたいと考えるが、高い不動産価格や託児所の不足などが障害になっている。政策立案者は、夫婦が理想とする数の子どもを持つことをできる限り可能にするような対策を検討すべきだ。しかし改善をはかっても、長期的には人口が減少していく。世界中で早く人口が減ったほうが、人々にとってよい結果をもたらすだろう

 

下線部は、明らかに二酸化炭素を減らす上での前提条件である。だが、二酸化炭素を減らすには、究極の脱炭素として水素発電がある。科学の力による脱炭素が不可欠である。今後の人口減は、英医学誌『ランセット』に掲載された論文のように、確実に進行する。超高齢社会における福祉問題が、これからの重要問題になるだろう。脱炭素は、科学研究の成果も不可欠である。単に、人口減のみに期待を繋ぐ訳にはいかないだろう。