深圳市の超高層ビルが、理由もなく揺れ出した問題は本欄でも取り挙げてきた。改めて振り返ると、7月1日に迎える中国共産党100年を象徴するような「スピード競争」を象徴する事態だ。質よりも量を競う、という中国社会そのものに見えるのだ。
『日本経済新聞 電子版』(6月28日付)は、「中国、予言されていた『揺れる超高層ビル』」と題する記事を掲載した。
「本当だ。揺れている」「撮っている場合じゃない」――。中国南部の広東省深圳市にあり、市内最大の電気街である華強北で5月18日、多くの人が逃げ惑う騒動が起きた。地区のなかでもひときわ高いビル「賽格広場」が外からでも見てとれるほど揺れたのだ。倒壊するのではないか、という恐れから賽格広場で働く人、周辺で働く人はくもの子を散らすようにビルから離れた。
騒動の当時、地震はなかった。現地メディアは地元当局が初期の調査を通じ、風や地下鉄による振動、温度差によるビル構造への影響が複合的に重なったことが原因とみていると報じた。ビルのオーナーである不動産会社は同月21日から建物への立ち入りを原則禁止した。
(1)「賽格広場は、電子部品の卸売りなどの商業施設や企業の事務所が入居する地上70階以上のビルで一部内装などを除き1999年に竣工した。約350㍍という高さに加え、当時国内ではまだ珍しかった鋼管にコンクリートを充塡して柱をくみ上げる先進工法を採用したことから、業界の注目を集めた。さらに1フロアあたりの建設にかけた日数は2.7日と、それまでで速いとされていた3日を下回った。効率を重視する同市の気風、「深圳スピード」を体現するプロジェクトとしてもてはやされた」
中国では、超高層ビルの建設期間を短縮する競争が行なわれていた時期がある。これこそ「中国的」という質よりも量を重視する風潮を表している。今。それが破綻したということだ。
(2)「象徴的な建造物だけに今回の騒動には多くの人が関心を寄せている。そうしたなか、20年前の2001年に発表されたある論文が「予言的」だとして脚光を浴びている。当時、華中科技大学の修士課程で経営学を専攻していた金典琦氏が執筆した論文「深圳賽格広場の建設プロジェクトに関する分析」だ。社会人学生だった金氏は賽格の関係者として同計画に携わっていた」
正確な記録の重要性がここにある。あとから振り返り反省できる手がかりになるからだ。中国では現在、歴史の改ざんが政府主導で行なわれている。悪い点を抹殺して書き換える作業である。文化大革命を賞賛するようになってきたのだ。
(3)「論文は賽格広場の計画から設計、施工、竣工後の運営について多角的に評価したもの。設計作業や業者の選定については批判的に記しているのが最大の特徴だ。論文はこう述べている。「当時の国内の技術水準に照らし合わせれば、このような大型プロジェクトは海外の設計事務所の入札への参加を認めるべきだった。度量の小さいナショナリズムに陥り、中国人による設計、施工、管理という『純中国』のコンセプトを宣言してしまった」
現在の中国が、この二の舞いに落込もうとしている。米中対立によって自由世界から孤立する動きが強まっているのだ。対立原因は、中国の覇権奪取という身丈に合わない野望を掲げた戦狼外交が摩擦を生んでいる。
(4)「金氏によると賽格広場は、12億元超(現在のレートで約200億円)を投じた大型案件だったが、設計業者は香港系を含む中国業者のみの競争入札によって選ばれ、外国企業は排除された。そして建物全体の設計が終わる前に着工し、行き当たりばったりの部分があったという。ビル最上部に取り付けたアンテナは設計上の不備から完成時に揺れが発生した。長さを調整するため再計算したが、それにもミスがあり、手直しの工事は2度にわたった。多少の失敗を許容しながら速度と効率を優先する深圳スピードはある種の美徳とされてきた。機動的な行政判断や企業の挑戦的な事業戦略が経済成長や社会進歩を生むと信じられ、中国全土の手本となってきた」
不毛の地とされた深圳が、香港の隣接地という地の利を生かして急速な発展を遂げた。その深圳は、中国全土のモデルとされてきた。しかし、「揺れる超高層ビル」はスピード重視の弊害に揺れている。
(5)「ただスピードを追い求めた結果、社会のひずみも大きくなった。その最たる例が住宅など不動産価格の高騰問題だ。当局は高騰対策で物件の売買規制を強化しているが、規制をかいくぐる不正が後を絶たない。市政府はこのところ、こうした問題への対応でギアを一段上げている。今年2月、中古住宅に「参考価格」を設定し、仲介業者や金融機関に相場の過熱抑制を呼びかけた。計画経済への逆戻りにもみえる方法だ。さらに5月下旬には戸籍取得の要件のひとつである最終学歴を従来の大専(短大)卒から大卒に引き上げる新ルールの草案を公表した。これも住宅高騰を防ぐ狙いがある。深圳はこれまで地方出身者を幅広く受け入れ、豊富な労働力を成長の源泉としてきた」
深圳は、ハイテクとして急成長した。だが5月下旬に、戸籍取得の要件のひとつである最終学歴を、大卒に引き上げて流人人口の抑制に動いている。これは、ハイテク産業の成長に陰りが出て来たことを裏付けるものだ。中国経済が曲がり角にあることを示している。
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