最大野党「国民の力」の代表は、36歳・非国会議員の李俊錫(イ・ジュンソク)氏である。この李氏は、代表選挙の演説で「公正と自由な競争」を訴え、20~30代の若者の支持を得た。これは、文政権下において「公正と自由な競争」が行なわれず、進歩派支持層だけが優遇されていることへの痛烈な批判である。
進歩派は、李氏が最大野党の代表に選ばれた背景を理解しないで、ガリガリの自由競争論者と批判しているのはお門違いである。言葉尻を捉まえて非難しているだけである。
言葉は悪いが、現政権の中枢部は「民主のゴロツキ」と評されている。「公正・公平・倫理」の旗を立てて、働かずに生きているというのだ。具体的には、次のような振る舞いである。
「現政権では青瓦台、政府に進出した参与連帯出身者(注:市民団体)が60人を超える。権力機関を掌握しているのはソウル大出身者ではなく、参与連帯出身者だと言われる。尹美香議員は「正義」の名を掲げ、慰安婦被害者の女性を利用し、カネを稼いだとして起訴された。2000年代初めまでは市民団体で信頼度1位だった。現在では信頼度が5本の指にも入らないという・市民団体の公正・正義屋さんたちの実態を国民が知った結果だ」(『朝鮮日報』(2020年12月27日付コラム「民主ごろつき・正義屋さん・民族主義業者」)
こういう文政権への痛烈な批判が、李氏の言葉の裏にあることを理解しようとしない上辺だけの批判が出ている
『ハンギョレ新聞』(6月29日付)は、「韓国における公正な競争と能力主義」と題する寄稿を掲載した。筆者は、イ・ガングク立命館大学経済学部教授である。
(1)「公正を主張する声が高まっている。国民の力の代表に選ばれたイ・ジュンソク氏は、米国のようなジャングルの競争を韓国に導入したいと述べ、公正な競争を主張している。彼の言う公正とは、保守派の立場から見た、試験のような競争の結果が地位を決定する、能力主義にもとづく手続きと形式の公正だ。彼はある演説で、誰もが教育を通じて公正な競争のスタートラインに立てる世の中を夢見ていると語った。公正でないと主張して政府に批判的な若者たちは、このような主張にうなずくかもしれない」
筆者のイ・ガングク氏は、下線部のような演説の一部分を取り上げて批判しているが的外れである。米国経済の発展は、自由と能力を生かす社会基盤が整っている結果だ。こういう客観的事実を見落として、言葉尻を捉まえた批判はナンセンスである。
韓国は、米国と並んで大学進学率(短大を含む)が極めて高い社会である。韓国は95.86%、米国88.30%(いずれも2019年)である。この状況では、公正な能力主義が不可欠であろう。韓国は、米国型の開かれた競争社会でなく、「閉じられた競争社会」=不公正の温床になっている。具体的には、進歩派支持者だけに有利になるような政策を行なっているのだ。
(2)「しかし、弱肉強食のジャングルでも動物の種類が異なるように、それぞれが異なる各家庭の子どもたち同士の競争を本当に公正なものとすることは、なにぶん難しい。実際に多くの研究は、子どもたちの努力と実力は親や家庭環境に大きく影響されると報告する。幼い頃に貧しさから受ける深刻なストレスは脳の発達を阻害し、妊娠した母親の環境要因が子どもの生後の健康と所得にも影響を及ぼす。したがって、不平等が深刻な現実において、公正な競争などというものは非現実的だ。すでにスタートラインが異なり、ある人は競技場に立つことも難しい中で、形式的な公正ばかりを押し通せば、結局のところ不平等がさらに深刻化する可能性が高い」
韓国の大学進学率は、世界6位である。米国は13位だ。韓国がこういう学歴社会になっている以上、公正な競争維持が極めて重要である。それには、規制を少なくすることである。実態は逆である。労組の希望を100%受入れて、規制を増やしている。労働市場の流動化にストップを掛けているのだ。これが、新たな雇用先を選ぶ道を塞いでいる。労組は、終身雇用制と年功序列賃金制を断固、守るように要求している。これが、諸悪の根源である。自由な転職が、公正な競争を実現する道である。
(3)「これはやはり、現政府は公正を強調してきたものの、若者から見ると反則のようなケースが時折あったからだ。また、細心の政策によって現実の不平等は改善しうるという希望と信頼を抱かせることに政府が失敗したという事実とも大きな関係がある。不平等が激しく、過去に比べて成長と上昇の機会が減っているという現実においては、地位の配分の過程で形式的な公正に対する要求がより強まりうる。だとすれば、結果の不平等と形式的な公正との悪循環が懸念される。結局、現在の進歩勢力は、不公正と不平等をすべて改善するために積極的に努力するとともに、形式だけの公正を時には抑制することがすべての人にいかにより良い結果をもたらすのかを若者たちに説くという難しい課題に向き合わされている」
下線部の主張は正しい。「形式だけの公正を時には抑制することが,すべての人にいかにより良い結果をもたらす」としている。具体的には、無意味な規制を撤廃することである。最低賃金の大幅引上げは、大企業労組の利己的要求を実現したに過ぎない。多くの零細企業に勤める人々にとっては無益どころか、雇用を奪われる災難になった。
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