a0960_008527_m
   

南北のホットラインが、7月28日から復活した。「春の日は絶対に来ないだろう」と言っていた北朝鮮が突然、連絡チャンネル復旧に応じた背景に何があるのか。北朝鮮の自力では乗り越え難いほど悪化した経済難と、韓国がコロナ対応のための人道的支援再開なども理由として上げられている。同時に、対話のテーブルにつくように勧めてきた米バイデン政権に対する「前向き姿勢」を示すことにもなった。ともかく、米韓朝三カ国の思惑が一致した形である。

 

韓国の文大統領は南北連絡の復活を政治生命としてきたから、日韓関係凍結後に訪れた「朗報」であることは間違いない。ただ、北朝鮮が突然の「心変わり」を見せた裏には、経済難だけが理由ではなさそうだ。南北の交流再開には、米国の強い圧力がかかるのでそう簡単に進展するとは思えない。となると、残る理由は韓国の大統領選への影響を狙ったものと分析されている。

 

『朝鮮日報』(7月29日付)は、「南北通信連絡線の復元に米専門家ら疑念の声『北朝鮮、韓国大統領選に影響力行使か』」と題する記事を掲載した。


米国務省は27日(現地時間)、南北間の通信連絡線復元が報じられたことについて「米国は南北間の対話を支持し、南北通信線復元の発表を歓迎する」とコメントした。しかし一部の専門家たちは北朝鮮の意図を疑う否定的な見方を示している。

 

(1)「米国務省のポーター副報道官はこの日行われたブリーフィングで、「これ(南北通信線の復元)は肯定的な措置であると信じる」とした上で、「外交と対話は韓半島の完全な非核化成就と恒久的平和建設に必須だ」と述べた。米ホワイトハウスのキャンベル・インド太平洋調整官もワシントンで開催された韓米同盟財団との朝食会を兼ねた懇談会後、特派員らの取材に「われわれは北朝鮮との対話と疎通を支持する」と述べた」

 

米国にとっては、米朝間の直接対話ができないまでも、南北の対話が可能になる連絡線が復活したことは好材料にちがいない。このこと自体は、歓迎であろう。

 


(2)「このような米国政府の公式な立場とは違い、米国の専門家らは北朝鮮の意図に懐疑的な反応を示している。かつて米国務省で対北特別代表を務めたジョセフ・ユン氏は本紙の電話取材に「今挑発を行っても米国が何かを与えるとは考えられないが、その一方で韓国の大統領選挙まであと数カ月しかないため、北朝鮮は対話に応じる考えを持ったのかもしれない」との見方を示した。ユン氏はさらに「北朝鮮は明らかに(韓国大統領選挙で)進歩陣営を支援したいはずだ。それも一つの動機となっている可能性もある」「究極的には米国との対話を望んでいるのかもしれないが、一方で深刻な経済や食糧難に直面しているためかもしれない」と指摘した」

 

韓国の次期大統領選では、進歩派が文政権の継続政権として継げる見通しがついていない。それどころか、20代の若者が反旗を翻して政権交代を熱望する状況だ。文政権の成立では、この20代が熱烈支持であった。それが、様変りしている。

 

最新の世論調査は、大統領選で野党候補が与党候補を引きはなしている。『聯合ニュース』(7月29日付)が、次のように報じている。

尹氏(野党)と李在明氏(与党)、尹氏(野党)と李洛淵氏(与党)の一騎打ちとなった場合はいずれも尹氏が優勢であることが分かった。尹氏と李在明氏の対決では尹氏が40.7%、李在明氏が38.0%で、誤差範囲内の接戦となった。尹氏と李洛淵氏では尹氏が42.3%、李洛淵氏が37.2%だった。与党不利という結論である。

 


(3)「米戦略国際問題研究所(CSIS)のスミ・テリー上級研究員も本紙の取材に「北朝鮮の経済難やコロナの状況などから考えると、北朝鮮は韓国から何か得られないか探りを入れているようだ」、「しかし制裁違反にならない範囲で文在寅(ムン・ジェイン)政権が与えることのできるものは限られている」との見方を示した。その上でテリー研究員は、「北朝鮮の経済難、(韓国の)大統領選挙の日程などから考えると、今後平和攻勢が始まると予想はしていたが、その平和攻勢が韓米連合訓練よりも前にやや早く出たことは疑問が出る」ともコメントした。テリー研究員は、「米国が韓米連合訓練を取りやめることはないだろうが、コロナを理由に規模を制限することはあり得る」と予想した」


北朝鮮は、次期大統領が野党の保守党に移れば、現政権よりも相当にてこずる相手になる。そうならないようにするには、次善の策として文政権と対話した方が「ベター」という選択である。北朝鮮の「損得計算」で、連絡線の復活になったものと見られる。