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世界で頻発する異常気象は、二酸化炭素の排出が原因とされる。その抑制に向けて、世界の科学界が必至で研究に取り組んでいるが、日本の研究者二人の努力で大きな成果が上がりリードしている。東京大学の藤田誠卓越教授と京都大学の北川進特別教授である。お二人の研究の生み出した新素材が、脱炭素のカギを握りノーベル化学賞候補とされている。

 

どういう素材なのか。微細な穴が無数に開いた金属有機構造体(MOF)は、1グラムにサッカーコート1面分の表面積があり、狙った物質をとじ込められるというもの。1グラムの物質に、サッカーコート1面分の表面積があると聞いただけで、科学に素人な者には驚きである。果物の鮮度の維持や半導体の製造などで実用化されているが、応用の本命は環境分野だ。二酸化炭素(CO2)の回収や、脱炭素燃料の水素の貯蔵に利用しようと世界中で研究が進んでいる。日本との関わりの強い分野である。

 


『日本経済新聞』(9月28日付)は、「
CO2『新素材で回収』、独化学大手や米新興が注目 水素も貯蔵 応用進む」と題する記事を掲載した。

 

8月、米ノースウエスタン大学発のスタートアップ、ニューマット・テクノロジーズ(イリノイ州)は炭素の排出を「効率よく劇的に減らす分離技術の開発」で住友化学と提携すると発表した。住化が注目したのはニューマット社が持つMOFと呼ばれる素材を設計する技術だ。

 

(1)「MOFは内部に微細な穴が無数に開いた多孔性材料の一種だ。1グラムあたりサッカーコート1面分に相当する7000平方メートル以上の表面積を持つMOFもあるという。既存の多孔性材料では、冷蔵庫の消臭剤に使われる活性炭や工場で有害物質の吸着などに使うゼオライトがあるが、MOFはより表面積が大きく、大量の物質を効率的にとじ込められる。物質の貯蔵や分離のほか、分子の化学反応を促す「場」としても応用できる」

 

昔から、家庭で炭を下駄箱に入れておくと臭いを吸収するとして使われている。MOFの原理も、簡単に言えばこういうものだろうか。「活性炭」は、木炭の3~7倍の表面積を持って脱臭剤、浄水、ガス精製に使われている。研究のヒントは、こういうところにあったのだろうか。

 

(2)「MOFの特長を生かした製品は既に実用化している。世界に先駆けたのは英クイーンズ大学ベルファスト校発のスタートアップ「MOFテクノロジーズ」(北アイルランド)だ。2016年9月に果物の鮮度を維持するMOFを製品化すると発表した。果物が自ら放出し熟成を促すエチレンの働きを止める物質をMOFにとじ込め、販売前に果物が腐るのを防ぐ」

 

MOFを利用した製品が、身近なところに登場している。

 

(3)「国内では、日本フッソ工業(堺市)が20年12月、化学プラントで使う金属製タンクの表面を守るコーティングでMOFを実用化した。京都大学発スタートアップのアトミス(京都市)が京大の北川進特別教授の技術を使った材料を提供した。力を入れるのはスタートアップだけではない。独化学大手のBASFは04年から研究を本格的に開始し、気体の分離・貯蔵、水の吸収などに使える多様なMOFを開発してきた」

 

国の内外でMOFの本格的な研究が始まっている。独のBASFでは、気体の分離・貯蔵、水の吸収など、二酸化炭素吸収につながる開発を始めている。

 

(4)「応用先の大本命として研究が盛んなのは、温暖化対策など環境分野だ。オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は20年10月、MOFを使い、大気中に濃度0.04%しかないCO2を直接回収する「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」を安く実現する試験プラントを作ったと論文で発表した。MOFをセ氏80度に熱すると、このわずかなCO2を回収できる」

 

MOFが、大気中に濃度0.04%しかないCO2を直接回収することに成功した。これは、大きな研究成果である。世界の異常気象解決への貴重な一歩になる可能性を秘めている。

 

(5)「MOFの産業利用は今後本格化する。中国の調査会社QYリサーチによると、19年に1億4900万ドル(約160億円)だった世界市場の規模は、26年には5.6倍の8億3800万ドル(約920億円)に拡大するという。日本に有力研究者がいることや素材産業の強みを生かし、海外が先陣を切った産業利用で巻き返しを図る必要がある」

 

MOFが今後、大きな市場規模に成長する見込みという。日本発祥の技術であり、有力素材メーカーのひしめき合う日本が、世界をリードして欲しいものである。

 

(6)「世界各国で「カーボンゼロ」がキーワードになっている。関西でも脱炭素に関連する研究や実証実験などが盛んだ。大学や素材・機械産業が集積するメリットを生かし、「厄介者」である二酸化炭素(CO2)の分離技術など具体的な成果を積み重ねられれば、2025年の国際博覧会(大阪・関西万博)で世界に誇る展示になり得る」

 

2025年の関西万博は、MOFが有力展示物になる条件を備えている。リチウムイオン電池、全固体電池も日本発の技術である。これにMOFが加われば、日本が脱炭素技術「三冠王」に輝く。ノーベル化学賞に輝いて貰いたい。