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製造業中心の戦時経済体制へ

豪州への啖呵で返り血浴びる

逆効果になるテック産業虐め

日本以上の不動産バブル規模

 

習近平中国国家主席は、昨年1月以来一度も外国へ出ていない。新型コロナウイルス感染防止が表向きの要因である。だが理由は、それだけと思えない。中国内外で、かつて直面したこともない難題に遭遇している結果と見られる。普通なら、とても国家主席を3期も勤めたいと言える義理でない。それを臆面もなく居座る積もりなのだ。難題とは、次のような事柄である。

 

一つは、「戦狼外交」の行き詰まりである。中国の経済成長に伴い、中国のプレゼンスの増大を利用して、海外で他国を外交的・軍事的に圧迫するケースが増えているのだ。この結果、これまで築いてきた外交路線に大きな軋みをもたらしている。中東欧では、リトアニアが公然と「一つの中国論」を無視して、台湾と外交関係を復活させた。豪州は、中国の外交的圧迫に対して、米英豪による「AUKUS」で攻撃型原潜を導入することになった。

 

もう一つは、中国経済の行き詰まりである。不動産バブルをテコに経済成長を続けてきたが、ついにその「効能」が切れただけでなく、「副作用」となって中国経済を圧迫し始めていることだ。中国不動産開発業界で第2位の中国恒大が、デフォルトの危機を迎えた。9月23日の外債金利支払いが実行できずにいる。1ヶ月間の支払い猶予期間はあるが、それを過ぎれば「デフォルト」になる。とりわけ、外債へのデフォルトは中国の経済的信頼度を一気に引下げる。

 

製造業中心の戦時経済体制へ

以上のような問題を抱える中国が、米中覇権問題という最難関まで抱えている。これは、習氏自らが、中国建国100年に当る2049年に、経済・軍事の両面で米国を凌駕すると広言したことに始まる。自ら招いた米中冷戦だ。

 

中国は、すでに将来の米中戦争を想定した産業再編成に着手している。それは、製造業中心にした産業育成である。テック産業という付加価値の高い第三次産業を切り捨て、労働力も製造業に振り向け、「戦時経済体制」を敷くという時代錯誤ぶりである。

 

中国が、米国と戦う意味はイデオロギー戦争である。世界を中国の共産主義思想で統一する、というとてつもない妄想を抱いている。こうなると、これまで中立的な国々までも、「自由と民主主義を守る」との原点から米同盟国として協力することに変わってきた。

 

中国がなぜ、世界覇権を目指すのか。中国式社会主義の優秀さを世界に広めるというのだが、冒頭で掲げたように、現実は「戦狼外交」への反発やバブル経済の崩壊が、中国のプレゼンスを高めるどころか、沈下への流れを強めている。中国国内で、こういう危機の進行を冷静に受け止めない限り、米中対立の事態は悪化するだけとなろう。

 


日本経済も、1980年代後半のバブル景気に酔って「日本がGDPで米国を抜く」と馬鹿げた記事が散見された。東京の地価で、米国全土を買えるなどとたわいもない話題で盛り上がっていたのだ。つい、2~3年前の中国で聞かれた妄言と同じである。バブルとは、人々の心理状態を狂わせるのである。

 

こうした妄言を側面から支えたのは、国際機関による経済予測の「中国ランクアップ工作疑惑」である。最近、分かったことでは、世界銀行のトップがこういう予測でっち上げに関与した疑いが持たれている。中国が金品を渡して籠絡したものと推測される。

 

「中国経済世界一論」など、架空のモデルを使えば、自由自在にねつ造できるのだ。国際機関まで「中国の毒」が回っていたのである。世界のメディアは、そういうランキングを何ら精査することなく、既定事実かのごとく報道して世論を惑わしてきた。中国は、「してやったり」とニンマリしていたであろう。

 

豪州への啖呵で返り血浴びる

中国「戦狼外交」の被害は、中国自身もその跳ね返りを受けている。前述のように、中東欧のリトアニアが、台湾と外交関係を結んだ。これだけでない。中国の防衛に死活的な影響を与えることになった一件がある。

 

それは、駐豪中国大使館が昨年11月、地元の『ナイン・ニュース』『シドニー・モーニング・ヘラルド』『エイジ』のメディアへ「豪州は反省しろ」と14項目にわたる糾弾文を手渡したことである。外交慣例上でも見られない、極めて異例の「外交欠礼」に当る。その14項目全てを羅列するのも煩わしいので、主な項目だけにしたい。

 

1)「反中国」的な研究への資金援助の停止。

2)新型コロナウイルス感染症の発生源に関する世界保健機関(WHO)徹底した調査を求めるような挑発的行動の抑制。

3)中国による豪州への戦略的投資に反対する動きの停止。

4)民間メディアによる中国関連の「非友好的」ニュース報道の阻止。

 


中国側は、豪メディアに前記の14項目文書を手渡す際、「中国は怒っている。中国を敵として扱うならば、中国は敵になるだろう」と警告したという。この14項目を詳しく読めば、まさに、中国が世界に君臨する意識に立っていることを証明する。驚くほどの「お山の大将」になっているのだ。

 

これを受取った豪州側は、その対策を練った。中国に屈することなく、対抗する道を選んだのである。韓国の場合は2017年に、THAAD(超高高度ミサイル網)設置に対して、中国が執拗な反対をしたので、ついに「3不」という誓約書を出す羽目に陥った。(つづく)

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