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世界の異常気象の元凶として二酸化炭素がヤリ玉にあがっている。この二酸化炭素をメタノールに変える技術が、主として日本人研究者の手で進んでいる。あと数年で実用化できるメドが立ち始めたという。大きな朗報である。

 

メタノールについては、LNGや石炭から製造するのが一般的方法だが、有害物になった大気中のCO2が、エネルギーに生まれ変われば、有害ゴミが「宝」に変わる魔法の技術と言えそうだ。メタノール発電技術の開発も進んでいる。

 

CO2を燃料にする技術の源流は、20世紀初めに遡る。第2次世界大戦中は、石炭のガスから炭化水素などをつくり、1970年代の石油危機以降は石炭が含む一酸化炭素の活用を試みた。温暖化の脅威が迫る今、過去の蓄積が花開いておりメタノール製造へと進んでいる。技術研究の蓄積がものをいうのだ。

 


『日本経済新聞 電子版』(10月3日付)は、「CO2から燃料生成 研究進む 20年代半ばめど」と題する記事を掲載した。

 

地球温暖化の原因になるからと、自動車や飛行機に乗るのをあきらめていませんか。確かに交通機関が使う燃料は、世界の全エネルギー生産量の9%を占める。だが乗り物を我慢するのではなく、温暖化ガスを増やさずにうまく乗りこなせるようにしたらどうだろうか。二酸化炭素(CO2)から燃料をつくる研究が熱を帯びてきた。

 

(1)「『少し改良は必要だが、ガソリンエンジンを使える』。オランダ・デルフト工科大学の浦川篤教授らはガソリンの代わりにメタノールを動力源にする研究に手応えを感じている。メタノールは天然ガスや石炭からつくれるが、研究チームはCO2を使う。人類がCO2を使いこなすのは至難の業だった。銅の触媒を使う先行研究でもメタノールの合成効率は20%程度にとどまった。研究チームは触媒に銅や亜鉛、アルミを混ぜた。300気圧以上をかけるとCO2と水素の分子が密に集まり、約95%がメタノールになった。「触媒1グラムあたり1時間で世界最高の15グラムのメタノールができた」(浦川教授)。ポーランドのエネルギー関連企業「イノックス・ノバ」(ワルシャワ)が試験生産の施設を建設中だ。大量生産に必要な技術を磨きつつ、販路を開拓する。3~4年かけて採算や需要を見極める」

 


オランダ・デルフト工科大学の浦川篤教授らは、ガソリンの代わりにメタノールを動力源にする研究に見通しがついたという。3~4年かけて採算や需要を見極めとしている。研究陣は、メタノールを二酸化炭素(CO2)から製造する技術開発である。

 

(2)「国際エネルギー機関(IEA)によると、18年に世界の運輸部門で使った燃料は全エネルギー生産量の9%を占める。経済協力開発機構(OECD)域内では、運輸で使う燃料の92%が石油だ。温暖化防止の観点からガソリンやディーゼルエンジンなどの内燃機関に代わり、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などの普及が始まりつつある。だがEVは走行距離が短く、FCVは大量に水素ステーションを整備する必要がある。残された内燃機関をどう利用するかが試される。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると1870年以降に人類は大量のCO2を出し続けた。対策が十分に進まないと、大気中にたまっていく一方だ」

 

現在の世界の主流は、EVとFCVに向かっている。この技術開発も重要であることは言うまでもないが、人類は産業革命以降に大量のCO2を大気へ排出したままにしている。この堪った「ゴミ」のCO2を大掃除するのが、CO2のメタノール化技術開発である。人類の運命が懸かっているとも言えるのだ。

 

(3)「対策は温暖化ガスの排出ゼロのみが唯一の選択肢ではない。重要なのはCO2を増やさない観点だ。回収したCO2から燃料をつくって使えば、石油や天然ガスを燃やして追加のCO2を出さずに済む。排出後のCO2を大気中から取り除く技術の検討も進む。CO2濃度の上昇を防ぎつつ、海水や森林が大気中から除去してくれるのを待つ戦略がみえてくる」

 

大気中からCO2を回収して燃料のメタノールをつくる。それで発電すれば、大気中のCO2は増えない計算である。まさに、「ゼロ・エミッション」の実現である。温暖化対策には、種々の取り組みがある。多方面の技術を組み合わせるべきだろう。

 

(4)「北海道大学の清水研一教授や鳥屋尾隆助教らは、白金やチタンの触媒でCO2から従来の3倍の量のメタノールをつくる実験に成功した。産業技術総合研究所のチームは独自の触媒を使ってセ氏30度、10気圧以下でメタノールを手にした。再生可能エネルギーがあっても消費エネルギーは少ない方が有利だ」

 

北海道大学の研究チームは、CO2から従来の3倍ものメタノール製造に成功したという。朗報である。

 


(5)「英オックスフォード大学は鉄とマンガン、カリウムの触媒でジェット燃料を合成した。シャオ・ティエンチュン・シニアリサーチフェローは、「35年以内に供給できるかもしれない」と話す。米アルゴンヌ国立研究所は銅などの触媒でメタノールを生み出した。ガソリンやディーゼル燃料に混ぜて使う」

 

米英でもCO2からのメタノール製造が進んでいる。ガソリンやディーゼル燃料に混ぜて使うという。日本では、火力発電所で石炭にメタノールを混ぜて使い始めている。着実に技術進歩が始まっているのだ。

 

(6)「CO2からできた燃料によって内燃機関が復権するのか、過渡期の利用になるのかは見通せない。それでも国際再生可能エネルギー機関はメタノールの生産量が50年に2.5億トンと、現在の石油生産で最多の米国の3割超になると予測する。CO2がもたらす燃料を安価に安定供給できるかどうかが「燃料を使わない」から「賢く使う」に転換できるかどうかの試金石となる」

 

世界的な潮流は、内燃機関を廃止する方向である。だが、CO2から燃料のメタノールが製造できる技術が確立した暁には、この既定方針を見直すのか。メタノール発電所で発電してEVに使うのか。これからメタノール燃料技術の出現で、再検討が必要になろう。