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中国は、豪州に対してこれまで「強面外交」を行い、米英豪の3ヶ国「AUKUS」(オーカス)と称する軍事同盟を結ばれ大失敗した。その上、豪州石炭を輸入禁止にした結果、国内での大幅電力不足を招いている。この事態を緩和すべく、これまで豪州からの石炭運搬船を港外へ留め置いたが、秘かに荷揚げしたという。

 

一方で豪州の元首相は、お忍びで台湾を訪問して蔡台湾総統と面会し、「防衛面で連携する」と報じられている。中国は豪州へとって来た強硬策が、ことごとく失敗した形である。豪州が、上手く局面を切り抜けているのだ。

 

英紙『フィナンシャル・タイムズ』(10月5日付)は、「電力危機の中国、豪州炭の輸入をひそかに解禁」と題する記事を掲載した。

 

中国は、豪州産石炭の輸入を非公式に禁止しているにもかかわらず、少量の荷揚げに着手したことが、アナリストらの指摘で明らかになった。世界第2位の経済大国が直面する電力危機の厳しさが浮き彫りになっている。

 

(1)「船舶仲介会社ブレーマーACMシップブローキングで乾貨物担当の首席アナリストを務めるニック・リスティック氏によると、1年前に輸入禁止が発効してから中国の港湾外で待機していた豪州の貨物船数隻が、9月に係留場所へ向かった。喫水線の変化が確認され、石炭が荷揚げされたことがうかがえたという。同氏は石炭45万トンが陸揚げされたとみている。エネルギー調査会社ケプラーも、沖合で待機していた船舶計5隻が、9月に豪州産の一般炭38万3000トンを中国に陸揚げしたと指摘している」

 

中国が、港外まで来ている豪州炭の貨物船を荷揚げもせずに1年も放置しておくとは、凄いやり口である。冷酷というか酷い仕打ちである。中国が輸入発注しながら、こういうことをするのだ。豪州が、AUKUSを結成して中国の喉元に攻撃型原潜を突付ける気持ちも理解できる。中国の外交的な失敗だ。

 


(2)「荷揚げされた石炭が他国に転売された可能性はあるものの、そうは考えにくいとトレーダーはいう。中国当局から通関を認めるという信号が送られているためだと説明している。中国政府は2020年、国営のエネルギー会社と製鋼所に対し、豪州産石炭の輸入を直ちに停止するよう命じたと伝えられている」

 

荷揚げされた石炭は、中国で使用されると見られる。

 

(3)「年間550億豪ドル(約4兆4600億円)規模にのぼる豪州の石炭輸出業に打撃を与えた形だ。資源価格を調査する英アーガス・メディアによると、豪州の中国向け一般炭輸出は20年が3500万トンで、18年と19年には5000万トンに迫った。英コンサルティング会社ウッド・マッケンジーによれば、20年11月以降は中国向けの石炭輸出全体が「事実上ゼロ」に減少している。だがそれ以降、中国の各省は電力の割り当てに深刻な打撃を受けており、一部地域では工場の稼働が週2日しか認められず、経済成長や世界のサプライチェーン(供給網)を脅かしている

 

下線部は興味深い。中国が、豪州炭の輸入を禁止すると同時に、電力割り当てを始めていることだ。憎い豪州に一泡吹かせるが、中国も停電するというこの発想法はどこから出てくるだろうか。専制的な権力者特有の傲慢さである。ここには、合理的な意思決定は見られない。中国の政策決定では、大なり小なり「感情的」ものが含まれているに違いない。こういう調子で、開戦されたら堪らない。防御側は相当の準備をするべきだ。

 


(4)「英調査会社IHSマークイットで大中華圏の電力・再生可能エネルギー調査を率いるララ・ドン氏は、少量の積み荷の引き渡しを認める動きについて、政策全般の転換を示唆している可能性は低いとの見解を示す。「政策緩和の兆しと受け止めているが、豪州からの石炭輸入に大きな変化が出ることはなさそうだ」という」

 

中国は、あくまでも豪州炭の輸入禁止政策を変えないだろうと推測している。中国経済の被る損失は明らかだ。玉砕型の経済政策に見える。豪州は、中国の対豪政策に変化はないと見る。そこで、台湾との関係強化に踏み出している。

 

『毎日新聞 電子版』(10月6日付)は、「オーストラリア元首相が台湾訪問、対中国を念頭に連携図る構え」と題する記事を掲載した。

 

豪州のアボット元首相が10月5日から台湾を訪問している。豪州は近年、中国と対立を深める。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への加入を求め、中国と台湾が争う中、7日に台湾の蔡英文総統と面会し、対中国を念頭に連携を図る構えだ。アボット氏はモリソン首相が党首を務める与党・自由党の元党首。2015年に首相を退任し、20年から英国やその同盟国との貿易推進に関する政府組織の顧問を務めている。台湾外交部(外務省)によると、アボット氏の訪台は初めて。

 


(5)「豪州は9月には、米英とインド太平洋地域における新たな安全保障協力強化の枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設。米英から原子力潜水艦建造の技術協力を受ける予定で、南シナ海などへの進出を強める中国に対抗する姿勢を強める。この時期にアボット氏が訪台して外交関係のない台湾と連携を強めることは、一連の対中政策の一環ともみられている。アボット氏は8日には、台湾の財団法人主催のフォーラムで講演する予定」

 

豪州は、外交関係のない台湾へ元首相が「私人」の資格で訪問した。日本で喩えれば、安倍元首相が訪台するようなもの。政治的な意味は大きいはずだ。これは、豪州が本腰を入れて台湾防衛に取り組む姿勢をアピールしたもの。中国にとっては不気味であろう。

 

(6)「台湾側は豪州の動きを歓迎している。総統府の張惇涵報道官は5日、アボット氏の訪台が「台湾と豪州のパートナーシップの良好な基盤を築くことを期待する」と、意義を強調した。台湾としては、豪州との関係強化によってTPP加入に向けた環境整備を図ると共に、台湾への軍事的な圧力を強める中国に対抗する狙いもある。豪州政府はアボット氏の訪台について「私人としての立場」とする。台湾のTPP加入申請について、台湾を領土とみなす中国の立場に異を唱えない「一つの中国」政策と整合性を取る必要があるとし、慎重に検討する考えを示している。アボット氏が台湾に到着した際は、声明などを発表せず記者団の取材にも応じなかった」

 

豪州にとって、台湾の地政学的意味は極めて大きい。台湾が中国に占領されれば直接、軍事的な脅威にさらされるからだ。日本と同じ立場だ。こうなると、日本もAUKUSへ参加する可能性が出てくることも否定できまい。台湾のTPP加盟は、経済安保の強化という立場から、日豪ともに歓迎である。