中国政府は、ファイザー製ワクチンを承認せずに放置している。先のG20で習近平氏は、欧米製と中国製のワクチンを相互承認しようと呼びかけた。結果は、欧米の無反応で終り空振りであった。習氏が、これに腹を立てたのか、国内でファイザー製ワクチン製造へ着手できずにいる。中国のメンツが招いた「人災」であろう。
『中央日報』(12月14日付)は、「自尊心のせい? オミクロン株発生した中国、西側のワクチン5カ月にわたり承認せず」と題する記事を掲載した。
中国がすでに数カ月前にメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの効果を認知し、ファイザー製ワクチンの使用承認を検討したが、政治的理由から許可が遅れているとCNNが13日に伝えた。
(1)「これによると、中国保健当局は7月にファイザー製ワクチンに対する専門家の評価を終えて行政検討手続きまで進めた。これを受け、ファイザー・ビオンテックとワクチン生産、流通契約を結んだ中国復星医薬は、8月末までにワクチンの試験生産に入る計画も立てた。しかし5カ月が過ぎたいまも中国保健当局はファイザー製ワクチンを承認していない状況だ。CNNは、「中国の防疫専門家だけでなく中国政府もmRNA系列ワクチンの長所を知っているが、オミクロン株感染者まで出た状況でも政府はワクチン承認時期について言及していない」と伝えた」
ファイザー製ワクチンは、mRNA系列ワクチンと言われるもので、これまでにない「新型ワクチン」である。ウイルスを構成するタンパク質の遺伝情報を、ワクチンで接種するもの。その遺伝情報が、体内でウイルスのタンパク質を作り、そのタンパク質に対する抗体が作られて免疫を獲得する。
米国のモデルナ製もmRNA系列ワクチンである。コロナの変種が出てきても、ウイルスの遺伝情報の変化に応じて、すぐにワクチンが製造できるという特色がある。抗体でも、中国製ワクチンより優れていると指摘されている。中国政府は、この「優れもの」ワクチンの国内製造を認めないのだ。米国への対抗が理由である。無駄な抵抗である。
(2)「ワクチン承認が遅れている理由としては、中国政府の政治的意味合いが挙げられる。米外交問題評議会(CFR)世界衛生問題上席研究員の黄厳忠氏は、「中国は昨年世界のワクチン競争で先頭に立つため伝統的な方法のワクチン(不活性化方式)を作った。数十億個のワクチンを開発途上国に送ることにするなど中国の技術的進歩を広報するために利用しただけに、いまになって外国のワクチンを使うのは難しい状況」と説明した。続けて、「中国のワクチンメーカーも巨大な内需市場を外国の製薬会社と共有することに反発しただろう」と付け加えた」
中国製ワクチンは、不活化ワクチンと言われるものだ。感染力をなくした病原体や、病原体を構成するタンパク質からできている。1回接種しただけでは必要な免疫を獲得・維持できないため、一般に複数回の接種が必要とされている。免疫獲得に時間がかかるのだ。
このように中国製ワクチンは製法において、米国製より劣るというハンディキャップを背負っている。ファイザー製ワクチンを導入すること自体、その劣勢を認めるに等しいので歯を食いしばって我慢しているのだろう。国民に対して、「お気の毒」と言うほかない
(3)「問題は、感染力の高い変異株のオミクロン株が、13日に中国でも初めて感染が確認された点だ。CNNは、「中国独自のワクチンはゼロコロナ政策を維持するという目標を満たすには極めて不足する」と伝えた。6月に香港の研究チームはファイザー製ワクチンの接種を終えた医療関係者が、シノバック製ワクチンを接種した人に比べ10倍多い抗体を持っているという研究結果を出した。世界保健機関(WHO)の研究などでも不活性化ワクチン接種者はmRNAワクチン接種者より免疫効果が急速に弱まることが明らかになった。9日にWHOの免疫諮問団である専門家戦略諮問グループは不活性化ワクチンを打った人にブースター接種を勧告した」
中国の不活性化ワクチンが、免疫効果が短期間に急速に低下する現実は、世界的に知られている。「水ワクチン」と非難される理由である。中国国民は、これにすがっているのだ。これでは、『ウィズコロナ』は不可能であろう。「ゼロコロナ」しか道はない。
(4)「中国の呼吸器疾患分野専門家は、「われわれはmRNAワクチンのように他の国の良いものを学ぶ必要がある。彼らは世界初のmRNAワクチンを作るため数年間研究した。われわれはこの分野に対する彼らの技術を学ぶべき」と話した。しかし、中国メディアの『グローバルタイムズ』は1日、他の中国保健専門家の話として、「理論的に不活性化ワクチンはmRNAワクチンよりウイルス変異対処の側面で優秀だ。不活性化ワクチンは完全にウイルスの塩基配列を不活性化した後で体内に注入する原理なのでウイルスが本来の特徴のうち一部だけ維持しても体内で認識が可能だ」と主張した」
中国国内でも、mRNAワクチンの優秀性を理解しているが、政治的な理由で不活性化ワクチンに頼らざるを得ないという矛楯した事態へ追い込まれている。すべては、習氏のナショナリズムのゆえである。これに伴う代償は大きい。
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