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韓国の現代車が、東南アジア初の自動車工場をインドネシアに建設して、日本車の牙城へ挑戦する。日本車は9割ものシェアを占める。そこへ、0.35%の現代車が工場を建設するというもの。果たして成算はあるのか。

 

『日本経済新聞 電子版』(12月20日付)は、「現代自動車、インドネシア再挑戦 日本勢の牙城に挑む」と題する記事を掲載した。

 

韓国の現代自動車は日本車の販売シェアが圧倒的なインドネシアで攻勢を強める。電気自動車(EV)関連の大規模な投資を通じて政府や消費者にアピールし、年内に販売店を合計100店舗体制にする。全国規模に営業網を広げ、東南アジア最大の自動車市場で日本メーカーの牙城に挑む。

 

(1)「現地法人の幹部は、「ブランドイメージと認知度を高め、現代自がEVの最先端技術を持っていることを消費者に示したい」と、意気込む。11月中旬に同国自動車産業協会(ガイキンド)が主催したインドネシア国際自動車ショーで、現代自はひときわ目立つ大規模な展示スペースを確保した。K-POPアーティスト「BTS(防弾少年団)」のコーナーなどを設けて来場者の注目を集め、年内にインドネシアでの販売店数を20年末時点の4倍以上に増やす計画を打ち出した」

 

今流行の「Kカルチャー」で、顧客の関心を集める戦略である。販売店数を100店舗に増やすという。

 


(2)「ガイキンドによると、現代自の2021年1~11月の販売台数は2751台と、シェアはわずか0.36%にとどまる。トヨタ自動車やホンダなどの存在感が圧倒的で、日本メーカーのシェアは合計で9割を超える。現代自が日本勢に対抗する切り札に位置づけるのがEVだ。大規模な投資を通じて、EV」関連産業の国内集積を目指すインドネシア政府へのロビー活動を強めている。

 

インドネシアに進出している日本車は、トヨタ、ホンダ、ダイハツ、三菱、スズキである。これらメーカーが築いてきた地盤へ、現代自が乗り込む。

 

(3)「現代自はジャカルタ郊外のブカシ県に1700億円を投じ、同社として東南アジア初の完成車工場を建設した。22年1月にガソリン車の生産を始め、3月にはEVに車種を広げる。近隣のカラワン工業団地ではLGエネルギーソリューションと1200億円を投じ、車載電池の合弁工場を24年に稼働する予定だ」

 

韓国も、現代自のほかにLGが車載電池の生産を始める。EVに向けて本格的に取り組む。腰の据わった攻略であろう。

 

(4)「インドネシアのジョコ大統領は21年に入り、60年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を掲げるなど、急速に脱炭素に向けカジを切っている。22年に議長国を務める20カ国・地域(G20)の議論では近年、気候変動問題が主要議題となっており、会議で主導権を握る政治的思惑もある」

 

インドネシア政府は、60年までに「カーボンニュートラル」実現目標を掲げる。EV生産はそのシンボルになるが、電源をクリーンエネルギーにしなければ竜頭蛇尾に終わる。

 

(5)「インドネシアをEVの主要生産拠点にする現代自の戦略は、ジョコ氏の方針に呼応する。鄭義宣(チョン・ウィソン)会長は10月下旬に同国政府主催の会合に出席し、ジョコ氏に直接、グループの将来的な戦略を説明した。「インドネシアがEVの先導国家に飛躍するため、関連技術の育成などEV産業の集積に貢献する」と強調した」

 

現代自は、インドネシアをASEANの主要生産拠点にする方針である。迎え撃つ側の日本車メーカーも、その点は抜かりなく対応するであろう。

 

(6)「中国市場での長期低迷に苦しむ現代自にとって、東南アジアはインドに次ぐ成長エンジンとして魅力的で、特にインドネシアは2億7000万人の人口を抱える域内最大市場だ。東南アジア諸国連合(ASEAN)自動車連盟によると、19年の域内の自動車販売のうち、インドネシアは約103万台とトップで、シェアは約30%を占めた。日本勢は現時点で、東南アジアでのEV投資には慎重な姿勢で、現代自は巻き返しの好機とみる。インドネシアでのEV普及のネックとされる充電施設の整備には韓国政府も支援し、国ぐるみで取り組む。EVが普及するまでは、向上したブランドイメージをテコに、現地生産したガソリン車などの販売を拡大する」

 

現代自は、インドネシア人口が2.7億人であることから、企業の盛衰を掛けて進出するに違いない。韓国政府も好機と見てEV普及のネックとされる充電施設の整備に協力する。

 

(7)「韓国とインドネシアは1910月に2国間の自由貿易協定(FTA)を締結し、関税の97%(金額ベース)の撤廃を段階的に進めている。自動車部品の輸出関税はすでに撤廃されており、インドネシアで生産を広げる土壌が整ったことも現代自の攻勢の背景にある。ハナ金融投資の宋善在(ソン・ソンジェ)アナリストは「現代自にはロシアやブラジルなどで現地の消費者の要求をくみ取り、シェアを獲得した成功体験がある。現地工場を持つことで価格競争力も生まれ、一定の勝算はある」と分析する。

 

現代自は、中国市場で失敗した。その教訓を生かし、インドネシア進出で対応するのであろう。だが、日本メーカー9割の牙城を切り崩すのは大変だ。日本側も守りを固めて対応するに違いない。トヨタは、EVの品揃えを済ませている。