RCEP(東アジアの地域的な包括的経済連携)が、明後日の22年元日から発効する。これまで、RCEP最大の受益国は中国でないかと見られていた。だが、実際は日本であることが判明した。
UNCTAD(国連貿易開発会議)は12月15日、次のような試算結果を発表した。RCEPによる関税引き下げの恩恵は、参加15カ国で日本が最も大きく、域内への日本の輸出が19年比で5.5%増とみているのだ。この背景には、日本企業が東アジア全体へ広く進出しているので、「累積原産地基準」により域内での部品生産などが、すべて関税無税化する結果である。
日本は、長いこと製造業の海外移転によって国内空洞化のマイナスが雇用に影響した。この悩みがRCEPによって花開くわけで、22年は経済面で幸先の良い年になりそうだ。
『日本経済新聞』(12月30日付)は、「巨大経済圏、日本の輸出5%増へ RCEP1日発効 中韓と初のFTA 車・農産品に追い風」と題する記事を掲載した
日本、中国、韓国や東南アジア諸国連合(ASEAN)などが参加する東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が2022年1月1日に発効し、国内総生産(GDP)で世界の約3割を占める巨大経済圏が誕生する。日本にとっては中韓と初めて結ぶ自由貿易協定(FTA)で、日本の域内向け輸出を19年比で5%超押し上げるとの試算もある。
(1)「RCEPは12年11月に交渉を開始した。インドが途中で離脱するなど協議は難航したが、20年11月に署名が完了した。品目ベースでみた関税撤廃率は91%で、環太平洋経済連携協定(TPP)の99%には及ばないが、日本政府はGDPの押し上げ効果を約15兆円とTPPの2倍に上ると試算する」
俗説とは恐ろしいものだ。中国が、RCEPを牛耳るという報道が多かった。中国のGDPの規模から推し量った記事だが、中国経済の「中身」を調べることをしない結果である。中国経済は、「張り子の虎」なのだ。不動産バブルで膨張したに過ぎない経済である。
(2)「RCEPの方が経済効果の大きくなるのは、平均関税率が高い国が多く参加しているためだ。世界貿易機関(WTO)によると農産品と工業品を合わせた平均関税率は韓国(13.6%)、中国(7.5%)、ベトナム(9.5%)、インドネシア(8.1%)などいずれも高水準だ。日本にとって最大の貿易相手国の中国、3番目に大きい韓国と初めて結ぶFTAになることも背景にある。みずほリサーチ&テクノロジーズによると、現行無税の品目を含めた即時撤廃率は中国で25%、韓国で41.1%。発効時点で無関税になる品目は多くはないが、10年ほどかけて中韓ともに約7割の品目で関税が撤廃される」
平均関税率の高い国々(韓国・中国・ベトナム・インドネシア)が、RCEP発効で関税率を下げる。日本は、韓国と中国とはFTA(自由貿易協定)を結んでいなかったので、日本が最大の受益国になる背景だ。
(3)「国連貿易開発会議(UNCTAD)の試算によると、RCEPで域内の貿易額は2%、約420億ドル(約4兆8000億円)拡大する。このうち関税引き下げで競争上有利となる域内国が域外国から輸出需要を奪う効果を250億ドル、関税低下による貿易拡大効果を170億ドルと見込む。
RCEP発効で、域内貿易額は2%(約420億ドル)増加するという。
(4)「国別では日本の恩恵が最も大きく、域内向け輸出は19年比で5.5%、金額で約200億ドル増える。中国や韓国も2%程度の輸出増を見込む。一方、インドネシアやベトナムなどは他の域内国に輸出需要を奪われてマイナスとなる。米国や欧州連合(EU)、インドなど域外国のRCEP向け輸出はいずれも減少する見通しだ」
RCEPの国別恩恵では、日本が最大で域内向け輸出が19年比で5.5%、金額で約200億ドル増えるという。日本企業の多国籍化が、「累積原産地基準」で大きなメリットを受けることになった。
(5)「日本製品の輸出促進で特に期待が高まるのは自動車分野だ。中国向けの自動車用エンジンポンプの一部の関税率は交渉時で3%だったが、発効と同時に撤廃される。エンジン部品のほとんどで最大8.4%の関税がかかっていたが、11年目または16年目までになくす。韓国でも自動車用電子系部品やエアバッグなどにかかっていた8%の関税が、10年目または15年目までに段階的に削減される」
日本の工業品輸出では、自動車分野が大きな恩恵を受ける。日本の自動車産業は、トヨタを中心にした技術開発連合を築いている。一社も脱落することなく民間「護送船団」を組んでいる。それが、雇用を守るという強い信念だ。
次世代自動車技術開発では、EV(電気自動車)はもちろん、水素自動車(水素を内燃機関で使う)開発やFCV(燃料電池自動車)でも共同歩調をとっている。これは、日本独特の協調路線が生み出した成果であろう。他国には見られない「美談」である。トヨタのリーダーシップによるものだ。
(6)「農林水産品の輸出にも追い風となる。中国で人気が高いパックご飯やホタテにいずれも10%の税率がかかっていたが、段階的に減らす。日本酒や焼酎も関税率が低下すれば輸出増が見込まれる。日本への輸入量が多い品目では関税撤廃で価格引き下げ効果が見込まれる。衣類の関税は遅くても16年目までに撤廃する。農産品では芽キャベツやアボカドなどが即時撤廃されるほか、中国の紹興酒、韓国のマッコリなども21年目までに段階的に関税をなくす。一方、日本の生産者の反対が強いコメや牛肉・豚肉など重要5品目は関税削減の対象から外れた」
RCEPは、日本の得意産業が大きく伸び、不得手な農産品5品目は関税削減対象から外れた。工業品の競争力が抜群で関税撤廃する代わりに、重要農産品を守るのだ。日本的なかばい合いである。
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