あじさいのたまご
   


政権が司法へ報復人事

文の溺愛が生んだ介入

北への異常な執着ぶり

換骨奪胎した大統領制

 

ゲームにはルールがある。ルールに反すれば「反則負け」だ。戦争にはルールがない。勝てば官軍、負ければ賊軍の汚名を着せられる。韓国の大統領選はルールなき争いであり、戦争と同じである。勝てば権力の「総取り」であり、韓国社会を100%牛耳れる。皇帝なのだ。

 

韓国大統領選が、日本人から見て興味津々なのは、その無秩序な暴露戦にある。TVのワイドショーにうってつけの内容なのだ。恥も外聞もなく、ライバルのプライバシーを暴露しているのは、韓国大統領制によって広範な権力を握れる魅力にある。

 


司法・行政・立法の三権分立が、韓国では建前だけの話である。すべての権限は、大統領に帰属する。全人事権を握っているからだ。「チェック・アンド・バランス」こそ、独裁を防ぐ唯一の方法だが、韓国にはその不可欠のブレーキが存在しない。再言すれば、全人事権を握っている韓国大統領制は、政治腐敗の最大要因である。

 

政権が司法へ報復人事

最近、韓国大統領がいかに恣意的な司法人事を行なっているか。それを証明する話が、明るみに出た。

 

チョ・グク元法務部長官を巡る事件の捜査を指揮した韓東勲(ハン・ドンフン)司法研修院副院長(検事長)は1月27日、名誉毀損の罪で起訴された元盧武鉉(ノ・ムヒョン)財団理事長、柳時敏(ユ・シミン)被告の裁判に証人として出廷した。その際、被告人に対して悲痛な叫びを吐露したのだ。

 

「柳氏や今の権力者(注:文政権)は、どんなことをしても自分たちのことを捜査してはならないという超憲法的な特権階級かのように行動した」(『朝鮮日報』1月28日付)

 


柳被告は2019年12月と20年7月、動画投稿サイトのユーチューブで、「検察が盧武鉉財団の口座をのぞいたという事実が分かった」「当時、韓東勲がいた(検察の)反腐敗強力部が(口座を)見た可能性がある」とウソの発言をしたことが発端だった。

 

文政権は、このウソ発言を真に受けて敏感に反応した。文氏の政治師匠・盧武鉉財団の理事長発言である。捨ててはおけないと当該の捜査責任者である韓東勲氏を即刻、左遷したのである。まさに人事権100%を握る文大統領だからできる芸当だ。

 

韓氏は、法廷で次のようにも陳述した。

現職検事である私は唯一、4回も左遷された」とした上で、「柳元理事長が謝罪(注:発言がウソであったと認める)するまで1年半の間、私は捜査権を個人的に乱用した悪者の検事とさせられた。元司法長官チョ・グク氏の捜査など、文政権に関わる不正捜査を行ったことに対する報復だと思う」

 

韓氏は、19年に大検察庁(最高検察庁)反腐敗強力部長として、「チョ・グク」事件の捜査を指揮したが、20年1月に釜山高検次長検事に異動。同年6月以降は法務研修院研究委員に異動し、京畿道の竜仁分院と忠清北道の鎮川本院で勤務後、21年6月に司法研修院副院長に任命された。これらの人事異動のコースを見れば、文大統領が韓氏を左遷したことは明らかだ。最高検察庁幹部が、地方の検察庁へ「島流し」され閑職に追いやられたのだ。

 

こういうケースは、文大統領だけが行なった訳でない。朴槿惠(パク・クネ)前大統領は、政権に不利な捜査を行なったとして、現在の最大野党「国民の力」の大統領候補である、尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏を左遷したのである。韓国大統領は、こういう報復人事を平気で行える権限を持っている。

 


この尹氏は、弾劾罪で逮捕された朴氏を皮肉にも捜査することになった。これを見た文大統領は、尹氏を高く評価して検察総長に抜擢した。尹氏はその際に発した言葉である、「権力に奉仕せず罪を憎む」という名台詞通り、司法長官チョ・グク氏の捜査を命令した。そのときの捜査担当者が、前記の韓氏である。

 

文政権は、尹検察総長を酷く憎み2020年中、「辞任させる」圧力を二度も掛けたほど。一方では、韓氏も左遷させる扱いをした。尹氏は、朴・文の両政権から不当な扱いを受ける結果になっただけに、韓国大統領制がいかなる矛楯を持っているか、身を以て体験させられた貴重な証人である。

 


文の溺愛が生んだ介入

日本でも知れ渡った「チョ・グク事件」(タマネギ男)は、連座したチョ元司法長官夫人の最終判決が先に出た。

 

韓国大法院(最高裁)は、チョ・グク元法務部長官の妻のチョン・ギョンシム被告に対する起訴事実15件のうち12件について有罪判決を言い渡した。この判決によって、検察は政権側の「公訴権の乱用」だとする批判をかわすことができ、捜査の正当性も認められた。大法院判決後、捜査を指揮してきた前記の韓氏は、「正義と常識に見合う結果」と述べたという。(つづく)

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