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ソロス氏の「習失脚説」

主たる目的は政敵追放

土地売却益へ5割依存

前近代的感覚で自滅へ

 

中国経済は、厳しい局面を迎えている。不動産バブル崩壊と「ゼロコロナ」による都市封鎖が、景気を窒息状況に追い込むのだ。さらに、米中対立は米中冷戦の域に向かっている。米中デカップリング(分断)は、中国経済には致命的打撃を与えることになろう。

 

中国は、2001年12月にWTO(世界貿易機関)へ加盟し、グローバル経済の一員として発展できる基盤を整えた。それ以降、豊富な労働力をバックに急成長を実現した。だが、調子に乗りすぎた習近平氏は、世界覇権へ挑戦する構想を明らかして壁に突き当たっている。米国と同盟国が、これを容認せず中国の前に立ちはだかっているからだ。

 

中国は、グローバル経済でなければ発展できない体質である。その中国が、西側諸国と対立すればどうなるか。この未知数が、不動産バブル崩壊と「ゼロコロナ」の都市封鎖のもたらす負の効果を増幅させ、一挙に中国経済を制御不能な事態へ追い込むのだ。

 

習近平氏は、過去10年間にわたり中国の司令塔を務めてきただけに、その責任を免れないのだ。習氏は、昨年11月の「歴史決議」によって、終身国家主席を約束されたように見えた。だが、今秋の党大会で確実に「3選」を勝ち取れるか、米国には疑問視する見方が出ている。

 

ソロス氏の「習失脚説」

習氏の「3選疑問説」を唱えているのは、かつて世界的投資家と言われたジョージ・ソロス氏である。ソロス氏は、単なる「投資家」ではなかった。投資家であると同時に、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で哲学の博士号を得た哲学者である。政治運動家、政治経済に関する評論家としても活躍している。

 


ソロス氏の名前が世界に知られるきっかけは、1992年の英国ポンド投機でイングランド銀行を屈服させた、その知的采配の見事さにあった。世界情勢を見抜いたその眼力が、イングランド銀行から勝利を得たと指摘されている。2011年に投資家引退を表明したが、その洞察力はなお健在である。

 

ソロス氏は、習近平国家主席が、3期目の続投を実現できない可能性があるとの見方を示して注目されている。『ブルームバーグ』(2月1日付)が報じた。その要旨は、次のようなものである。

 

「中国共産党内の強い反対を踏まえると、習主席が毛沢東、鄧小平両氏の地位に上り詰めることは決して起きないかもしれない」と指摘する。その要因として、次の点を上げている。

 

1)党内にある政敵の存在

2)不動産危機の後遺症

3)ゼロコロナ対策のコスト莫大

4)出生率の急低下

 

主たる目的は政敵追放

以下は、私のコメントである。『ブルームバーグ』が説明していない部分を補足して立体的に理解を深めたい。

 

前記4項目のうち、まず「政敵の存在」を上げている点に注目すべきである。実は、習氏が突然「共同富裕論」を唱え、住宅・教育・医療にメスを入れて国民大衆の生活安定を目指すとした。確かに政治家として正論であるが、余りにも遅すぎたのだ。少なくとも、国家主席就任と同時に着手すべきことがらであった。

 

習氏の政策は、経済成長率の促進が第一目的であり、不動産バブルを放置したのだ。土地国有制を悪用して、不動産バブルによる莫大な土地売却益で財政を潤し、軍事費の膨張につぎ込んできた。これが偽らざる姿なのだ。土地売却益に依存しなければ、短期間であれだけの軍備拡張は不可能であろう。

 

習氏は一昨年、はたと気付かされことがある。習近平氏の政敵が、IT企業の有力株主に潜り込んでいたことだ。アリババの傘下企業である金融のアントンが、株式公開する際に発覚したのは、政敵である江沢民一派が巧妙に有力株主として名前を連ねていたことである。この事実が浮上せず株式公開していれば、政敵に厖大な利益が転がり込むところであった。習氏は、タッチの差でことなきを得て安堵の胸をなで下ろしたであろう。

 

習氏はこれ以降、テック企業へ厳しい目を向け監視することになった。テック企業5社の株価は、一挙に値下がりしたままだ。先進国では、ハイテク企業の株価が高騰しているのに対し、中国は大きく値下がりするという逆行現象が起こっている。すべて、習近平一人の身を守るための犠牲である。

 

習氏は、不動産開発企業が急成長した裏に、金融機関と官僚の癒着を疑って調査させた。これが、不動産危機に大きく影響した。

 

中国恒大が、国有銀行などからの融資で業容を急拡大させた点は疑いない。創業25年の恒大集団が、不動産開発業界で売上2位にまで踊り出られた背景には、官僚との「癒着」を否定できないのだ。腐敗を調査する共産党中央規律検査委員会は、不動産開発への融資実態を細かく調査した。一時、業界全体で銀行融資が止まる事態まで発生したのだ。これが、不動産開発企業への融資を極端に細らせる結果を生んだのである。こうして、不動産バブルは急速に萎んだ。(つづく)

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