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台湾では、中国との統一を促進する国民党が不人気である。香港への「国家安全維持法」導入をきっかけに、台湾市民の中国警戒論が一挙に高まっている。この煽りを食って、国民党の人気が下落、蔡政権が2016年5月以来続いている。こうした高い支持率を背景に2月18日、福島県産外の食品輸入再開を公表した。

 

『ニューズウィーク 日本語版』(2月22日付)は、「台湾はなぜ『政治的リスク』を冒してでも、福島の食品を『解禁』したのか?」と題する記事を掲載した。

 

2011年の東日本大震災で東京電力福島第1原子力発電所が放射能漏れの事故を起こしたとき、台湾はいちはやく日本産の食品に輸入規制をかけた。あれから11年。その規制を緩和する計画案が、28日に発表された。福島県と近隣4県で生産・加工された食品に対する10年以上にもわたる輸入規制は、台湾が日本との経済関係強化を図るなかで、大きな障害になってきた。今回の緩和案は、紆余曲折を経て、ようやく(しかし比較的予想外のタイミングで)示されたものだ。

 


(1)「蔡英文(ツァイ・インウェン)総統率いる民進党政権は、これを機に、日本が中心となっている「包括的かつ先進的TPP協定(CPTPP)」への加盟に弾みがつくことを願っている。その一方で、今回の提案は蔡を「台湾の人々の食を危険にさらしている」という批判にさらすリスクもはらんでいる。実際、日本産食品の輸入規制緩和措置は2018年に住民投票にかけられたことがあり、反対が多数を占めた(台湾では数年に1度、主要課題について住民投票が行われ、得票率によってはその結果が法的拘束力を持つ)。蔡政権としては昨年12月の住民投票で、自らが進めてきたアメリカ産豚肉の輸入解禁が支持されたことに勢いを得て、今回、日本からの食品輸入規制も緩和する計画を明らかにしたようだ」

 

台湾蔡政権は、日米との関係強化が台湾の安全保障のカギと理解している。「台湾有事は日米有事」という共通認識を持たせたことは蔡政権の大きな功績になろう。こうした状況下で、台湾は日米へ食品輸入問題で大きな「バリア」を背負ってきた。豚肉(米国)と福島県産外食品(日本)である。この二大課題をクリアさせたのだ。

 


(2)「11年前の台湾の動きは早かった。当時は国民党の馬英九(マー・インチウ)総統の時代だったが、3月11日の震災後、15日には8食品群のロット別抜き取り検査が始まり、26日には8品目の輸入規制が始まった。現在は野党となった国民党は、今回の輸入規制緩和案にさっそく反対の姿勢を示している。そもそも国民党は、中国との統一を目指して親中路線を掲げており、日本との関係強化を嫌ってきた。その反日感情は日中戦争にさかのぼる根深いものだ。日本からの食品輸入問題を、日台の接近阻止に利用したいという政治的動機があるのも驚きではない」

 

福島県産外食品の輸入禁止は、中国本土との接近を進める国民党政権が行なったものだ。日台接近にくさびを打ち込む目的であった。

 

(3)「一方、民進党は日本との関係を強化して、万が一の台湾有事のときは、日本が台湾の肩を持つ政治的インセンティブを高めたいと考えている。これと同じ理由から、蔡政権はアメリカとの関係強化も急いでいる。長年にわたり規制していたアメリカ産豚肉の輸入を、2021年1月に解禁したのもそのためだ。アメリカ産豚肉には、世界約200カ国中180カ国ほどで使われていない成長促進剤ラクトパミンが使用されている。このため台湾でも安全性への懸念から輸入が規制されてきた」

 

民進党の蔡政権は、国民党と外交方針が異なる。台湾有事の際は、日米の支援を仰がなければならぬという事情から日米へは格別の友好姿勢を取っている。

 

(4)「アメリカと自由貿易協定を結んで通商関係を強化したい蔡にとっては、2016年の政権発足以来の頭の痛い問題だった。それ故の昨年1月の輸入解禁だったわけだが、国民党は猛反発。輸入規制の再導入を求めて署名を集め、12月の住民投票にかけることに成功した。だが、実際の投票では十分な賛成票を集めることができず、輸入解禁は維持されることに。それどころか、国民党主導で住民投票にかけられた4つの事案は、全て有権者のダメ出しを食らった」

 

台湾では住民投票制度がある。これによって、台湾の民主主義制度は世界でベストテンに数えられている。日本よりも上位だ。この住民投票が昨年12月に行なわれ、国民党主導の4事案は全て否決された。この中には、米国産豚肉輸入禁止案も含まれており、輸入継続になった。この住民投票結果から、福島県産外食品の輸入禁止を解除することにしたもの。

 


(5)「蔡政権が日本の食品の輸入規制緩和案を発表すると、国民党は輸入規制を支持した2018年の住民投票の結果を無視する決定であり、台湾の民主主義を踏みにじる措置だと非難の声を上げてきた。さらに国民党は、蔡政権によるアメリカ産豚肉の輸入解禁も「独裁的だ」と非難してきたが、昨年12月の住民投票で、かえってその措置が民意に沿っていることを証明することになった。蔡は日本の食品輸入についても、同じような展開を期待しているのかもしれない。蔡が今回、日本産食品の輸入規制緩和に向けて動いたのは、このように台湾政治の勢力図で民進党の立場が盤石であることを確認してのことだろう」

 

米国の豚肉問題よりも、福島県産外食品の方がはるかに安全である。実態が明らかになれば、台湾で理解されるであろう。

 


(6)「2期目を迎えた総統としての任期は2024年5月まで十分あり、その政治的影響力は衰えていない。今年11月には、次期総統選の前哨戦となる統一地方選が予定されているため、早めに日本産食品の輸入規制を緩和したいという思いもあっただろう。だが、国民党が選挙でこの問題を持ち出すのは必至だ。このため蔡は、今回の規制緩和があくまで部分的であること(例えば、野生鳥獣肉やキノコ類の輸入は引き続き禁止)、そして現在も輸入を禁止しているのは世界で中国と台湾だけであることを強調した。さらに台湾原子力委員会は、食品に含まれる放射能物質を検査できる態勢を台湾全土で整えると発表した」

 

台湾は、日本産食品の輸入規制緩和に積極的である。韓国は、全く逆である。悪意に満ちた行動を重ねている。台湾は、日本の安全保障面で重要な関わりを持つが、台湾もそのことについて十分な認識を持っている。こういう相互理解が成り立つ日台関係は理想的である。韓国は全く別である。日本に対して敵意すら抱いている。対照的である。