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米国、英国、欧州、カナダは2月26日、ロシアの大手銀行を国際銀行間の送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除することで合意した。ウクライナへの侵攻を続けるロシアへの新たな制裁措置の一環。制裁にはロシア中央銀行の外貨準備に関する規制も含まれ、数日中に実行する。

 

ロシアをSWIFTから除外する問題は、「金融の核爆弾」とも称せられるほどの威力を発揮する。すでに、イランがその対象になっている。イラン経済は、他の経済制裁も加わって疲弊したまま。ロシアがその二の舞いを演じることになりそうだ。

 


ウクライナは、悲惨な状況に追い込まれている。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、まだ44歳の若さだ。過去に政治的経験ゼロの演劇人である。そのゼレンスキー氏が、必死に米欧に軍事的救援を求めている。命を賭けて国を守る気迫に、これまでの政敵も拍手を送り、共に武器を取りロシアと戦う姿勢を見せている。

 

ゼレンスキー氏は、26日も電話でNATOへ即時加盟を訴えたが、答えは沈黙であった。欧米首脳は、こういう事態の中で唯一、ウクライナを救えるのは、ロシアをSWIFT排除するだけである。西側諸国が、示した最大の「誠意」であり「謝罪」であろう。

 


ロシアのSWIFT排除は、西側諸国も影響を受ける。だが、ウクライナの苦しみに比べれば、万分の一にも値しない。ウクライナ侵攻後、一挙にロシアのSWIFT排除がまとまった背景である。

 

『ロイター』(2月27日付)は、「ロシアのSWIFT排除 ウクライナ侵攻の資金源遮断が目的ー米高官」と題する記事を掲載した。

 

(1)「米バイデン政権の高官は26日(現地時間)、ロシアを国際銀行間の送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除する欧米諸国による追加制裁について、プーチン大統領がロシア中央銀行の外貨準備6300億ドルをウクライナ侵攻や通貨ルーブル防衛の資金に使うことを阻止するのが目的だと明らかにした。高官は「プーチン政権は国際金融システムから排除されつつある」と語った」

 

下線部に、西側諸国が休日にもかかわらず緊急決定した理由がある。ロシアの外貨準備高は、原油や天然ガスの値上りを背景に、6300億ドルにも達している。プーチン氏がウクライナを侵攻できた経済的なゆとりは、ここにもあったであろう。それだけに、ロシアの「宝物」を簡単に移動できぬようにするには、ロシアをSWIFTから排除することだ。米高官は、「プーチン政権は国際金融システムから排除されつつある」と進行形で指摘している。すでに、手が打たれたのだ。

 

明日(2月28日)から、世界の外国為替市場は「激動」に見舞われることは確実。為替関係者は、どう見ているかを紹介したい。

 


『ロイター』(2月27日付)は、「ロシアの一部銀行をSWIFTから排除へ:識者はこうみる」と題する記事を掲載した。

 

<ブライト・トレーディングのトレーダー、デニス・ディック氏>

(2)「世界中が物理的な介入を行わずに、ウクライナで起きていることを是正、または少なくとも食い止める方法を模索している。派兵を避けるためにできるどんな対応も、米金融市場はおそらく肯定的と見なすだろう。ウォール街にとって最悪期は過ぎ去ったのかという点では、そうかもしれないと思う」

 

ロシアの蛮行を抑えるには、武器に代わるものとしてSWIFTからの排除しかない。不透明な条件が消えたので、株価的には最悪期を過ぎたと見られる。

 


<元ロシア中央銀行副総裁、セルゲイ・アレクサシェンコ氏>

(3)「(SWIFT排除は)週明けのロシア通貨市場に大惨事が起こることを意味する。取引を停止し、ソ連時代のように為替レートが人為的に固定されるだろう。この制裁がどのような条件で全て解除されるのかが明確でないため、1991年のロシア金融危機よりはるかに悪い状況と言える。最も強力な決定で、間違いなく正しいと考える」

 

ロシア通貨市場は大惨事となろう。自由変動相場制を停止して固定雄場制に戻る可能性もある。輸入物価の高騰は避けられず、1991年のロシア金融危機よりはるかに悪い状況が見込まれるという。プーチン批判が一挙に高まろう。

 


<OANDAのシニア市場アナリスト、エドワード・モヤ氏>

(4)「イランに起きたこと、イラン経済への壊滅的な影響と比較されることになるが、週明けの世界の金融市場に大きな衝撃を与えるだろう。多くのトレーダーは、米国と欧州が強硬姿勢を取らず、目先の経済的状況を守ることに集中し、金融システムに大きな打撃を与えないと、ある意味確信し始めていた。今回の措置は消化するのがかなり難しく、多くのトレーダーは神経質になるだろう。先週後半に起きたリバウンドの大部分が試されることになる」

 

これまで、ロシアをSWIFTから除外すれば、西側諸国もその「返り血」を浴びることが大きく報道されてきた。それだけに、今回の決定は大きな衝撃を与えよう。改めて、イラン経済とロシア経済の比較論が賑わうと見られる。ロシア悲観論の展開である。