沸点に達した米欧の怒り
米ドル決済網排除で窮地
ロシアに騙された習近平
台湾侵攻で重大障害現る
ロシアのウクライナ侵攻前、海外ではプーチン・ロシア大統領の硬直化した戦術に危惧の声が上がっていた。英国宰相で「鉄の女」と言われたサッチャーの現役最後と同様に、極めて独り善がりな行動と指摘したのだ。サッチャーは後に認知症を患うが、プーチン氏にそうした病的な影がないだろうか。しきりと「ロシア帝国」時代を懐かしんでいるからだ。
プーチン氏は、2月21日にロシア大統領府で行った好戦的なテレビ演説が、数十年にわたる歴史的な不満を1時間近くにわたって述べた。それは、冷戦後に西側諸国が中心となってつくった国際秩序に対するロシアの挑戦状でもある。プーチン氏は、ウクライナが歴史の偶然によって、ロシアを攻撃する米国の拠点になったとする持論に触れていたのである。
プーチン氏は、1991年の旧ソ連崩壊後の世界地図が、どのように変化しているかを無視している。ロシアの実質GDPは、すでに米国のテキサス州並に落込んだ。この現実を認めずに、かつての「米ソ時代」を夢見ているのである。ちなみに、最近の米ロのGDPを見ておきたい。
米国 19兆2470億ドル(2020年)
ロシア 1兆4161億ドル( 同 )
ロシアは、米国の7.35%にしか過ぎない規模である。テキサス州並と言われる理由である。日本は、4兆3807億ドル(2020年)であり、ロシアは日本の32%の規模だ。プーチン氏は、こうした経済力の格差が生じていることを率直に認めれば、ウクライナの背後に存在する西側を認識して、侵攻を取り止めたであろう。
ロシアは、ウクライナを安全保障上の「中立国」にさせたければ、互いに「不可侵条約」を結べば済むことだった。それを行なわないで、上から目線でウクライナを軍事力により屈服させるという、前時代的行動に打って出た。プーチン氏の認識が、大きくずれているのだ
平和的手段を用いずに、「ロシア帝国」認識でウクライナを属国扱いするのは、正常な感覚の持ち主であれが行なわないはず。プーチン氏の「異常性」を指摘せざるを得ない背景だ。
沸点に達した米欧の怒り
ロシア軍が、ウクライナ侵攻を開始したのは、2月24日早暁である。この日は、米ロ外相会談を予定していた日である。ロシアは、外交交渉の予定を反古にして侵攻に踏み切った。これは、裏切り行為である。米国バイデン大統領が、激しい言葉でロシアとプーチン氏を非難したのは当然である。バイデン氏は、次のように演説した。
「プーチン大統領は壊滅的な人命の喪失と苦しみをもたらす計画的な戦争を選んだ」。「この攻撃のもたらす死と破壊の責任はロシアのみが負う。米国と同盟国、パートナー国は一致団結して断固たる対応を取る。世界がロシアの責任を問うだろう」と述べた(米『CNN』報道)
この言葉を、形式的なものとして聞いてはならない。米国は、日本の真珠湾攻撃の際も、厳しい言葉で対抗する決意を見せつけた。米国人には、開拓者精神である「ヤンキー魂」が宿っている。強い報復心で対抗する不気味さは、日本人なら最もよく理解しているところだ。プーチン氏による、度重なる「ウソ」に裏切られた怒りは、予想を超える経済報復としてロシアへ襲いかかるはずだ。ロシアが、最も恐れている「金融切断」である。
それは、ロシア金融機関を国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済ネットワークから排除する問題である。一旦は、余りにも影響が大きく欧州の銀行にも影響が及ぶとされ、「お蔵入り」した報復策だ。詳細な内容は後で説明する。これがついに、2月26日(現地時間)欧州などの賛成を経て実施すると発表された。ロシア金融は、世界の米ドル決済網から切離され「孤島」に追いやられるのだ。第二の「イラン経済化」という暗い予測が飛び交っている。
ほんの数日前まで、ロシアをSWIFTから排除する可能性は小さいと受け止められてきた。この制裁案に対し、慎重であった欧州が賛成に回ったのである。欧州は、ロシアが二度と再び、近隣国へ侵攻ができないよう、経済的に手足を縛る決意を固めるにいたった。「金融の核爆弾」の炸裂である。
ロシア経済が、経済制裁に対する耐久性のないことは、24日のウクライナ侵攻前に立証済であった。プーチン氏が、ウクライナ東部のドンバス地域へ兵力投入を発表した21日、ロシアの株価指数は10%以上も暴落したからだ。これだけでも十分に経済制裁の潜在的威力を示したのである。さらに、SWIFTからの排除が加わるので、ルーブルは2月28日からの週に大暴落し、固定相場制復帰も囁かれている。
ルーブル暴落は、物価上昇率へ直接響く。1月の消費者物価上場率は8%台だが、すぐに10%以上へ跳ね上がるはず。そうなれば、民心がプーチン大統領から離れる。米欧は、プーチン氏を制裁対象にも加えている。一国元首であるプーチン氏が、経済制裁対象になったことから、プーチン氏の財産が凍結される。ロシア全体にとっても不名誉この上ない話だ。米欧の怒りがいかに大きいかを示すものであろう。(つづく)
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