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中国は、2月4日の中ロ「共同声明」でNATO(北大西洋条約機構)への警戒と、台湾統一を認め合った。この抽象的エールの交換が、中国にとっては大きなマイナスをもたらしている。中国は、ロシアのウクライナ侵略を間接的に支持したことになると同時に、台湾市民に「第二のウクライナ」にならない強い決意を持たせたからだ。

 

英紙『フィナンシャル・タイムス』(3月9日付)は、「『ウクライナの次は台湾かも』、中国に身構える市民」と題する記事を掲載した。

 

ロシアがウクライナに侵攻するまで、ウー・ハオチンさんは対戦車ミサイル「ジャベリン」のことなど聞いたこともなかった。それが今、市街戦でのその威力について友人たちと話し、台湾は予備役に使い方を訓練すべきだと言うようになっている。「台湾はとても平和なので、戦争のことなど考えていなかった。でも、ウクライナでの戦闘をニュースで見て、これはここでも起こり得ることだとわかり始めた」と経済学を専攻する22歳の学生のウーさんは話した。

 


(1)「『ウクライナの人々は勇敢に祖国を守っている。私たちも、中国が攻めてきたら同じことをしなければならないかもしれないが、まだ準備ができていない』 ロシアのウクライナ侵攻は台湾への警鐘となっている。台湾は自国の領土であるとする中国共産党が、武力統一の警告を行動に移す可能性があるという意識が高まっている。「ウクライナ危機は、この脅威が現実的なものであることを私たちに思い起こさせている。多くの人がにわかに自衛への意識を高め始めた」と話すのは法学教授で、2021年に一般市民を対象に戦闘と抵抗の意志を強めることについて教える団体を創立したホー・チェンフイ氏だ」

 

台湾市民にとって、ウクライナ戦争は他人事でない。明日の我が身になるリスクという認識が高まった。中国にとっては,予期せぬ出来事だ。

 


(2)「元特殊部隊の士官で、防衛関連や災害対応について8000人以上を訓練してきたイーノック・ウー氏も、市民の関心が一気に高まったと指摘する。「私たちは5月か6月にレジリエンス(回復力)に関する連続セミナーを始める予定だったが、全てを今週末に繰り上げることにした」と同氏は話した。「発表から1時間で予約が完全に埋まった」。台湾の当局者らは、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は戦わずに台湾の支配権を握りたい考えだとみている。だが、中国の武力行使する危険は高まっているという。中国に支配されることへの台湾の反発姿勢を政治的・経済的圧力では崩すことはできないと、中国側が認識するに至ったからだという」

 

ウクライナ戦争を機に、台湾市民の防衛セミナー参加意識がぐっと高まっている。ウクライナ市民は、自主的に銃をとってロシア軍へ抵抗する姿勢を見せている。台湾市民にとっては、またとない手本である。

 


(3)「中国は、台湾周辺の空と海での軍事活動で圧力を強めているが、その脅威に対する懸念の兆候は最近まではほとんどなかった。直近の意識調査でも、台湾市民の半数以上が戦争にはなりそうにないと考えていた。「台湾人は、欧米諸国がウクライナに食料や武器を送るだけで、人員は派遣しないのを目の当たりにしている。これまで台湾人が想像していなかったことだ」と淡江大学国際戦略研究所の黄介正教授は言う。「人々は、米軍がそばにいる限り、安全だと思っていた」

 

台湾市民は、米軍へ大きく依存してきた。むろん、現実の戦争になれば、「クアッド」(日米豪印)や「AUKUS」(米英豪:軍事同盟)が出動して、中国軍と戦う準備が進んでいる。だが、先ず台湾市民によって台湾を防衛するのが基本である。

 

(4)「米国は台湾の防衛を支援すると約束しているが、米軍が戦争に直接介入するかどうかについては曖昧な文言になっている。「今では多くの人が『今日のウクライナは明日の台湾』と言っている」。台湾の最大野党・国民党の国際問題部局の責任者も務める黄教授は付け加えた。「最初に香港、それから米国のアフガニスタン撤退、そして今はこの事態だ。これらの影響で多大な不安が積み重なり、水面下でくすぶっている」と指摘する」

 

下線部は、重要である。国民党は、これまで中国共産党へ親近感を見せてきた。それだけに、中国からの侵攻を受ければ、最初に「白旗」を掲げ中国軍へ協力しかねない「危ない」存在と見られている。その国民党が、台湾人のアイデンティティを賭けて戦う意志を見せる。本当だとすれば、大きな変化だ。

 


(5)「台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は戦争に関する議論を避け、ウクライナ紛争についても不安をあおるような発言はしていない。高官らによると、あからさまに防衛強化を急ごうとすれば、挑発的な戦闘準備と中国側に受け止められかねないことが理由に絡んでいる。米ホワイトハウスは先週、支援の証しとしてマイケル・マレン元米統合参謀本部議長率いる代表団を台北に派遣した。台湾の防衛強化を急ぎ、より踏み込む必要性について水面下で協議したとみられる。「私はマレン氏に、この問題に真剣に取り組める絶好の機会だと話した」と黄教授は話した」

 

米国は、ウクライナ侵攻で台湾が動揺しないように、マイケル・マレン元米統合参謀本部議長率いる代表団を台湾へ送った。万一の際に米軍が取る対応策を示したに違いない。

 


(6)「中国の人民解放軍は台湾海峡を越えなければならないため、台湾をめぐる戦争の遂行は全く異なるものとなるが、ウクライナ紛争は教訓をもたらしている。「ロシアが空挺(くうてい)部隊の投入にてこずっていることは、防空体制を維持することの重要性を示している」と台湾国防部のシンクタンク、国防安全研究院の許智翔研究員は指摘する。「我々の防空体制はパトリオットミサイルのような大規模なシステムを備える米国をモデルにしている。しかし、米国のような制空権の優位性はないかもしれない。ウクライナの状況から、人が持ち運べる地対空ミサイル『スティンガー』や対戦車ミサイルのジャベリンなど、小型の携帯式システムの有用性を見て取れる」」

 

ウクライナ国民の戦いぶりは、台湾市民にとってひな形になる。どんなことがあっても、制空権を中国軍に奪われないことだ。これが、勝利への最後の道であることを示唆している。