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ロシアは、ウクライナ侵攻によって国際秩序へ挑戦したが、西側諸国から強い拒絶反応を受けている。経済制裁の一環として、ロシアからの石油輸入を禁止したからだ。これによって、ロシアの原油生産量は3割も減少すると、IEA(国際エネルギー機関)が予測している。ロシア経済の危機である。

 

産油国はこれまで、ロシアの反米政策に引きずられてきた。だが、ウクライナ侵攻に見せた厳しい米国の拒絶政策で、米国のリーダーシップを見直し協力姿勢を見せ始めている。産油国におけるロシアの力は、確実に削がれる事態になった。予想外の展開である。

 


米『CNN』(3月17日付)は、「ロシア石油生産 近く3割減の可能性 IEAが供給危機に警鐘」と題する記事を掲載した。

 

国際エネルギー機関(IEA)は16日、ロシアが近く原油生産の3割削減を余儀なくされる可能性があると指摘した。サウジアラビアなどの主要なエネルギー輸出国が増産を始めない限り、世界経済はここ数十年で最大の供給危機にさらされると警鐘を鳴らしている。

 

(1)「ロシアは原油輸出量で世界第2位。IEAによると、大手石油会社や商社、海運会社がロシア産石油を敬遠し、ロシア国内でも需要が低迷するなか、4月には日量300万バレルの生産削減を強いられる可能性がある。ロシアはウクライナ侵攻前、日量約1000万バレルの原油を生産し、その約半分を輸出していた」

 


ロシアは、4月にも日量約1000万バレルの原油生産が、同300万バレルの減少となる見通しになった。西側諸国の原油輸入禁止措置が、大きな影響力を持つからだ。

 

(2)「IEAは月次報告書で「世界市場へのロシア産石油の輸出が失われることの意味合いは、決して小さくない」と説明。今回の危機がエネルギー市場に長期的変化をもたらす可能性もあると指摘した。ロシア産石油についてはカナダや米国、英国、オーストラリアが輸入を禁じており、ロシアの輸出の約13%に影響が出ている。しかし、大手石油会社や世界の銀行が取引停止に動いているため、ロシアは原油を大幅に割り引かざるを得ない状況だ」

 

ロシアが3割減産になると、ロシア経済はウクライナ戦争の戦費(1日200億ドル~250億ドル)が厖大なだけに、経済的な圧迫も大きくなる。財政破綻に追い込まれかねなくなった。

 


(3)「欧米の大手石油会社は相次いでロシアでの合弁事業や提携を解消したほか、新規プロジェクトも停止した。15日には欧州連合(EU)が、ロシアのエネルギー産業への投資禁止を発表した。今のところ、需給ひっ迫が緩和する兆しはほとんどない。世界で大幅な余剰能力を持つ国はサウジとアラブ首長国連邦(UAE)のみ。両国を含む石油輸出国機構(OPEC)加盟国やロシアなどで構成する「OPECプラス」はここ数カ月、日量40万バレルずつの小幅増産を行っているが、増産目標を達成できないことも多い」

 

UAEは、米国の要請を受けて原油増産に応じる姿勢を見せている。ロシアの生産減をカバーする姿勢をみせている。

 

『日経ヴェリタス』(3月20日付)は、「ウクライナ危機、中東への影響は 池内恵東大教授に聞く」と題する記事を掲載した。

 

(1)「(質問)UAEの駐米大使はOPEC加盟国に増産を促していると表明しました

(答)ロシアと協調すればむしろ多大なリスクを抱えると気づき始めたようだ国際社会がロシアのガスや石油を買わなければ、ロシアの産油国としての影響力は大きく弱まる。大規模な密輸も難しく、安く買いたい中国と安く売らざるを得ないロシアの間で取引が成立すれば、ロシアの中国への従属が進む。「OPECプラス」が崩壊し、OPECだけで市場の独占を狙うことになるだろう」

 

産油国は、ウクライナ戦争で国際的非難を浴びているロシアと協調する危機感を強めている。こうして、産油国ロシアの力は弱まる方向だ。今後、ロシアを含めたOPECプラス」から、ロシアが脱落した元の姿である「OPEC」へ戻るであろう。

 


(2)「
石油価格が高すぎると、需要減につながる。米国から制裁を受ける事態にもなりかねないため、OPECは、できる限り増産に力を尽くすという態度を示す方向へと転換していくのではないか。ただ、中東産油国はロシアをテコにして対米交渉力を強めることに慣れてしまっているため、できるだけロシアとの関係持続を望むはずだ。米国が"見返り"を明確に示さない限り、中東諸国の中立的な姿勢は続くとみる」

 

ロシアが抜けて「OPEC」に戻るとしても、米国はこれら諸国の利益を考慮した行動を取らないと、米国寄りにならず「中立」姿勢を維持するであろう。

 


(3)「ロシアは、エネルギー市場を不安定化させ、新たな石油ショックの脅威によって米国を屈服させるという絵を描いており、(米・イラン核合意を)邪魔をする展開は続くとみる。ただ米・イラン共に核合意再建への意欲が強い。合意が再建されるなら(イラン産原油の禁輸が解かれ)エネルギー価格が沈静化する見通しなのも交渉を後押しする。ロシアが横やりを入れ続け過ぎると、6カ国の核合意の枠組み自体がなくなり、イランと米国が直接交渉することになろう」

 

イラン核合意をめぐって「六ヶ国協議」が行なわれている。ロシアが、米国とイランの合意成立を邪魔すれば、米国とイランは直接交渉で合意を再建させ、原油の禁輸が解かれるであろう。こうなると、ロシアは、OPECからもイラン核合意からも排除されて最悪事態を迎える。米国は、ロシアの原油生産を抑制し、OPECやイランの増産でカバーする戦術を軌道に乗せる努力をするであろう。貧乏くじを引くのは、ウクライナ戦争を起したロシアとなる。