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第7代のドイツ首相(1998~2005年)を務めたゲアハルト・シュレーダー氏が、ドイツ全土から猛烈な非難の声に曝されている。ウクライナを侵略したプーチン大統領と親密な関係にあって、未だにロシアとの濃密な関係を続けていることが理由である。

 

シュレーダー氏は25日、ロシアの国営天然ガス会社ガスプロムの取締役に指名された。この後の2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻が発生。シュレーダー氏は侵攻発生後も、「ロシアとの関わりを断つべきではない」とSNSへの投稿を行い、またロシア国営企業の役員も辞さなかったのだ。

 


英紙『フィナンシャル・タイムズ』(3月28日付)は、「シュレーダー元ドイツ首相、ロシアとの関係絶てず」と題する記事を掲載した。

 

ロシアがウクライナに侵攻した時、高額報酬でロシア政府系企業の取締役会に名を連ねていたかつての欧州首脳の大半は即座に、侵攻に抗議して辞任した。フィンランドからイタリア、フランスからオーストリアに至るまで、元首相がすぐさま取締役の職を辞した。辞任しなかった人物が1人だけいる。ドイツのシュレーダー元首相だ。

 

(1)「ロシアのプーチン大統領を批判することを一切拒む態度に、元同僚とドイツ国民は当惑し、怒りを覚えている。「なぜ彼がこういうことをしているのか、とにかく分からない」とある元同僚はこう話す。「本当に理解しがたい」。この状況に対し、シュレーダー氏の事務所のスタッフが全員辞職し、同氏は地元ハノーバーから名誉市民権を剥奪された。同市が前回この処罰を下した相手は、死後のヒトラーだ」

 

シュレーダー氏とプーチン氏との関係は、ソ連崩壊後からずっと続く盟友関係である。ドイツが、経済的にロシアへ深く食込むきっかけは、シュレーダー・プーチン両氏の親密関係に始まった。

 


(2)「それでも、ドイツ社会民主党(SPD)元党首のシュレーダー氏は、クレムリンの支援を受けているロシア企業のポストを手放さなかった。今も国営石油大手ロスネフチと天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」運営会社の会長の座にあり、国営ガス大手ガスプロムでの最近の取締役候補指名を辞退していない。本人を知る人たちは、シュレーダー氏(がロシアとの縁を切らない)動機は極めて個人的なものでもあると主張する。1998年から2005年までドイツ首相を務めた同氏は、互いのトップ就任当初からプーチン氏と友情を築き、その関係が今日までずっと続いている」

 

シュレーダー氏には、公私混同がある。プーチン氏がいくら親しい友人であっても、シュレーダー氏は決然とウクライナ侵略を非難すべきある。それが、元ドイツ首相を務めた人間の義務でもあろう。シュレーダー氏は、それをしなかったのだ。

 


(3)「ある元高官によると、首相に就任したばかりの頃、シュレーダー氏は堅苦しい英語のせいで世界各国の首脳と親しい関係を築くことができなかった。だが、ベルリンの壁が崩壊した時に旧共産国の東ドイツに駐留するソ連国家保安委員会(KGB)工作員だったプーチン氏はドイツ語を流ちょうに話した。シュレーダー、プーチン両氏の家族はクリスマスに集まり、01年にはモスクワで一緒にそりに乗っているところを写真にとられている。よく似た幼少期も友情を育んだ。どちらも貧しい家庭の出身で、自らの才覚によってトップに上り詰めた」

 

シュレーダー氏は貧しい家庭の生まれという。プーチン氏の場合、さらに複雑で出生の秘密を抱えている。こういう両氏が、互いの生まれ育った環境で理解し合い、刎頸の友になったのだろう。

 

(4)「首相を退任して以来、シュレーダー氏は富豪になった。ロスネフチの決算報告は、同氏の報酬が年間60万ユーロ(約8100万円)であることを示している。ドイツメディアはノルドストリームでの給与が別途25万ユーロ(約3375万円)に上ると報じている。またシュレーダー氏はガスプロムの取締役候補に指名され、6月に承認が予定されている。さらに、ドイツ政府から月間約8000ユーロ(約1080万円:年間約1億2960万円)の年金も受給している。ウルシェル氏は言う。「60歳の誕生日に、政界を離れたら何をするか質問した。すると、ただ一言、『お金を稼ぐ』と言った。彼は自分の国に仕えたと感じている。今、そのお金を得る権利があると思っている」

 

他人の懐を計算するのは悪趣味だが、シュレーダー氏は現在、相当の富豪になっている。ロシア企業の報酬が年間約8100万円、ノルドストリームが同約3375万円、ドイツの年金は同約1億2960万円である。合計すると、年間2億4435万円である。暮しに困ることはない。ロシア関連収入をすべて断っても、ドイツの年金だけで1億3000万円もあるのだ。

 


(5)「
今のところ、ウクライナについてシュレーダー氏が出した唯一の声明は、ビジネス向けSNS(交流サイト)のリンクトインのプロフィルに書き込んだものだ。「戦争と戦争に伴うウクライナの人々の苦しみは、できるだけ早く終わらせなければならない。それがロシア政府の責任だ」とある。シュレーダー氏の所属するSPD(社会民主党)は、元党首への対応でつまずいた。ショルツ首相は記者会見で、目に見えて腹を立てているようだ。4州のSPD支部はシュレーダー氏の党員資格を剥奪するよう求めた。だが、SPDに所属するニーダーザクセン州首相は同氏の名誉勲章を剥奪することを拒否し、今も連絡を取り合っている」

 

シュレーダー氏の所属するSPDは、ショルツ首相の与党である。それだけに、ドイツ政府は、シュレーダー氏の振る舞いに困り果てている。SPD支部は、党員資格剥奪を求めるほど激昂しているのだ。

 


(6)「政治的な反対勢力は、SPDのためらいに付け入った。CDU(キリスト教民主同盟)の人権問題担当の議会スポークスマン、ミヒャエル・ブラント氏は、シュレーダー氏に制裁を科すよう政府に求めた。「シュレーダー氏は元首相というよりも、プーチン氏の外国工作員だ」。シュレーダー氏が3月上旬にウクライナ危機を仲裁するためにモスクワを訪れたことが報じられた。会談からは何の成果も生まれなかった。ある元同僚は今、シュレーダー氏が事実上、プーチン支持に「追い込まれた」のではないかと考えている。「彼はいずれにせよ、もう政治的に終わった。もしかしたら今も昔も(プーチン氏の)親友なのかもしれない。だが今では、基本的にプーチン氏の従業員だ。同氏が過剰なお金を払うことでシュレーダー氏を堕落させた」と非難するのだ」

 

野党CDUが、シュレーダー氏に制裁を科すべしと要求している。また、プーチン氏の外国工作員とまで罵倒される始末だ。ウクライナの人道被害が拡大されるほど、シュレーダー非難の声は高まる状況にある。