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ロシアとウクライナの停戦交渉が、トルコで行なわれた。ロシアは、大いに成果があったと宣戦しているが、ウクライナは慎重である。ロシアによる「罠」でないかと警戒されている。

 

ロシアのフォミン国防次官は29日、ウクライナの首都キエフと北部チェルニヒウ近郊における軍事活動を大幅に縮小すると発表した。フォミン次官は交渉終了後、「相互信頼を高め、さらなる交渉や合意書に署名するという最終的な目標達成に必要な条件を整えるため」、軍事活動を決定したと語った。ただ、ロシア軍が大規模な攻撃を展開しているウクライナ東部や南部については言及しなかった。この点が、「罠」説を裏付けている。

 

ロシアは、首都キエフと北部チェルニヒフの周辺での軍事作戦を縮小すると発表した。だが、ロシア軍のキエフ進撃はすでに停滞していた。また、これまでの外交努力や人道回廊などの提案はほとんど成果が出ていないか、失敗に終わっている。

 


両国の交渉終了後、ブリンケン米国務長官は訪問先のモロッコで記者団に対し、「ロシアが言うことと行うことは別だ。米国は後者を注視している」と述べ、戦争のエスカレート抑制に向けてロシアが「実際に真剣になっている兆しは見られていない」と指摘した。交渉中も戦闘は続き、交渉団が記者会見する間もウクライナ全土では空襲警報が鳴り響いた。

 

『ブルームバーグ』(3月30日付)は、「キエフ周辺でのロシア軍活動縮小は限定的な公算大、戦術的な意図も」と題する記事を掲載した。

 

ロシアが29日、ウクライナ北部での軍事活動を「根本的に縮小する」と表明したことを受け、停戦合意への期待から原油価格が下落し株式相場は上昇した。ただ、慎重になるべき理由はなお大きい。

 

(1)「ロシアの代表団を率いるメジンスキー大統領補佐官がトルコのイスタンブールで行われた停戦協議で、段階的な緊張緩和のためウクライナの首都キエフと北部チェルニヒウでの軍事活動を減らす決定を伝えた。ただ、これには戦術的な面もありそうだ。ウクライナ軍はロシア側に打撃を与え、キエフ周辺の一部地域を奪還していた。また、ロシア軍司令官も軍事作戦をウクライナ東部に集中させる方針を表明済みだった。南東部マリウポリでは、制圧に向けたロシア軍の激しい攻撃が最終段階にあるとみられている」

 


ロシアの「狡さ」がよく現れている。形勢不利なキエフ付近ではあたかも意図的な「戦線縮小」と発言している。これをもって停戦交渉の条件にしているからだ。南東部マリウポリでは、依然として「皆殺し作戦」を展開中である。

 

(2)「段階的な緊張緩和は、停戦やキエフ周辺からのロシア軍の完全な撤退を意味しないと、ロシア大統領府に近い関係者1人は指摘した。またロシア側は、ウクライナが受け入れる可能性が低い大幅な譲歩をなお迫っている。ウクライナのゼレンスキー大統領の顧問を務めるアレクサンドル・ロドニャンスキー氏は、停戦協議後にブルームバーグテレビジョンに対し、「市場がこれほど強く反応したことにはある程度当惑した」と語り、ロシアを「本当に交渉のテーブルにつかせる唯一のことは、戦地でのウクライナの成功と制裁を通じたさらなる経済的圧力だ」と指摘した

 

ロシアが無条件で停戦交渉に応じさせるには、下線のようにロシアを軍事的・経済的に追い込まなければならない。ロシアは、無条件降伏を狙っている。

 


(3)「
米当局者や軍事アナリストも懐疑的な姿勢を示しているモスクワ在勤の政治コンサルタント、エフゲニー・ミンチェンコ氏は「イスタンブールでの協議後に双方が語ったことについて、極めて深刻な誤解があると思う」と説明。「私がこれまでに耳にしたのは、キエフとチェルニヒウの周辺で活動が減るということだけだ。これはロシア軍がドンバス地方でのウクライナ軍への攻撃にリソースを集中させるためだ」と語った」

 

ロシアは、ウクライナ東部での勝利を目指しており、そのためキエフ付近の軍事力を東部へ向ける戦術であろう。 


 
(4)「ロシア大統領府の考え方に詳しい関係者1人によると、ロシアの現在の目標は、東部のルガンスク、ドネツク全体を制圧し、ロシア国境から2014年に併合したクリミア半島に通じる回廊地帯を奪うことである公算が大きい。それには、国際的にウクライナ領土と認められている地域の約20%を恒久的に失うことを同国に受け入れさせる必要がある。ロシア側はウクライナの中立性、一部地域でのロシア軍駐留、国内軍事インフラを査察する権利なども要求するだろうと同関係者は指摘した

 
侵略戦争を始めたのはロシアである。簡単に引き下がるはずがない。現在の停戦交渉は、ウクライナの戦意を図っているに違いない。