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コロナで失速する経済

住宅不振も大きな重荷

ロシア支援リスク回避

G7と密接な経済構造

 

中国国家主席の習近平氏にとって、毎日が鬱陶しい気持ちであろう。「内憂外患」状態に陥っているからだ。今年は、習氏が国家主席3期目を目指す重要な時期である。できるだけ波風が立たないように「安定」を旨としてきた。それが、図らずも「不安定」そのものになってきたのである。

 

「ゼロコロナ」では徹底的な防疫体制を敷いてきたが、ついに経済都市の上海がコロナ蔓延で機能しない状況に追い込まれている。政府が掲げた今年の経済成長目標は、5.5%前後である。だが、深圳や上海を襲ったコロナ感染で、ロックダウン(都市封鎖)を行なっている。中国を代表する経済都市でのロックダウンは、経済に大きな爪痕を残す。経済予測機関は、今年のGDPは4%成長へ低下すると見るなど、予測値を相次ぎ引下げている。

 


2月4日に交わした中ロ共同声明は、「限りない友情」を謳い上げた。これも災いの原因になっている。その後、ロシアが起したウクライナ侵略戦争によって、中国まで西側諸国から疑惑の目で見られる事態になっているからだ。ロシアは、この共同宣言に基づき中国へ武器弾薬供与を求めたと報じられている。要請品目は、トラック・ミサイルなど多様だ。

 

欧米は、中国へも強い警戒心を向けている。中国が支援した場合、相当の経済制裁を行なうと宣言したほど。こうなると、中国は国内経済に大きな落込み予想が強まっている。その上に新たな経済制裁が加われば、今秋の党大会で習氏が国家主席3期目を勝ち取る見込みは低下する。

 


習氏のソロバン勘定に立てば、ロシア支援のカードを切りたくても切れない状況になっている。ロシアは、第二次世界大戦における対独勝利記念日の5月9日に、ウクライナ戦争の「勝利宣言」するとも報じられている。ロシアが、矛を収めようという気持ちになったのは、中国支援が見込めないことも影響しているのかも知れない。

 

コロナで失速する経済

中国経済は、新型コロナウイルス感染発症国である。2020年1月である。以来、「ゼロコロナ」策によって徹底的なロックダウンを行なってきた。これによって、新たな感染者を増やさずにきたが、逆に「ウイズコロナ」と異なって感染免疫度が希薄という事態を生んできた。ここへ感染力の猛烈に強い「オミクロン株」が登場したのだ。免疫度が低く、有効なワクチンを持たない中国は、二重のハンディキャップによって現在、経済活動面に大きな影響が出ている。

 


上海市(人口2200万人)のロックダウンは、市を流れる黄浦江にほぼ沿って市内を2地区に分けて行なっている。東部地区は3月28日から4月1日まで、西部地区は4月1日から5日まで実施する予定となっていた。だが、感染急拡大で西部地区の一部区域は3月30日、予定を繰り上げてロックダウンを実施する事態になった。封鎖期間中は、全市民にPCR検査を行う。

 

上海市の一人当たり名目GDPは約2万3000ドル(2020年:上海市発表)である。中国全体の一人当たり名目GDPの2倍超である。この富裕都市が、ロックダウンされるので経済的影響は小さいはずがない。そのマイナス影響については、いくつかの試算が出ている。

 

香港中文大学の宋錚教授は、中国国内を走行するトラック約200万台の位置情報を使ってロックダウンの影響を計算した。トラックの移動が、地域の経済活動と高い相関関係にあることに注目したもの。上海の厳格な封鎖措置だけでも、中国の実質GDPを4%縮小させる可能性があると予測している。中国の4大都市(北京・上海・広州・深圳)で一斉に厳格な封鎖措置が講じられれば、中国の実質GDPは封鎖期間中に12%も縮小するという。

 

実は、深圳市が3月20日に1週間のロックダウンを解除したばかりである。深圳市の感染状況は依然として厳しいものの、感染拡大に歯止めがかかり、「全般に制御可能」だと判断された結果の解除である。従来の「ゼロコロナ」対策では、あり得ない中途半端な解除である。これは、習氏がゼロコロナ政策を見直したことによる。「ウイズコロナ」によって、経済・社会的影響を最小限に抑える方針を示したからだ。

 


習氏は、コロナ感染拡大によるGDP引下げ事態を深刻に捉えている。今秋の党大会で、自身の3選に響くからだ。世界のエコノミストは、
ロックダウンが一段と広がれば、景気がさらに落ち込むと警戒している。予測機関 ナティクシスは、コロナ対策が1~3月(第1四半期)の中国経済成長率を1.8ポイント押し下げると予測。UBSグループは、中国全土での対策長期化で今年のGDP伸び率が4%に向かって低下し、政府目標の5.5%前後を大きく下回る可能性があるとみている。以上は、『ブルームバーグ』(3月31日付)が報じた。(つづく)