習近平氏は昨年、共同富裕論をぶち上げて、共産主義の理想を実現すると大段平を切った。だが、その後の不動産バブル崩壊に伴う景気急減速に慌て、この理想の御旗を引っ込めざるを得なかった。共同富裕論は、一口で言えば所得分配の不平等を糺すことだ。資産家や高所得者に、たくさん税金を払って貰えば済むことである。習政権では、それができないというのである。
共産党幹部が、資産家で高所得者である。不動産税創設や所得税率引上げは、前記の富裕層に負担が掛かるので反対している。こういう「身内の論理」優先で、共同富裕論は立ち消えになった。底の浅い共同富裕論である。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月4日付)は、「習氏の『共同富裕』政策、成長重視で尻すぼみ」と題する記事を掲載した。
中国では、最重要政策目標の一つである「共同富裕」への取り組みが後退しているように見える。昨年の大半の期間、習氏は「共同富裕」と称される自身の看板政策を積極的に宣伝してきた。同政策は、中国の富の再分配の強化を目指したもので、同国のエリート層が著しい経済発展から過大な恩恵を受けているとの懸念がその背景になっていた。この政策は、利益拡大のため市場での影響力を巧みに利用していると見られていたハイテク企業への締め付けなど、習氏の多くの取り組みの基盤になっていた。
(1)「中国政府は、共同富裕の取り組みと関連する幾つかの政策を後退させている。3月、社会保障制度の財源になる可能性のあった新たな不動産税の適用拡大計画を棚上げした。同税が不動産価格の下落につながることを懸念するエリート層や政策担当者らが、この計画に反対していた。同税が試験導入されているのは現在、上海と重慶だけだ。共同富裕が後退している理由の一つは、習氏が経済の力強い成長の継続を必要としている時に、これまでに導入された一連の政策が企業のオーナーらを動揺させ、成長を減速させたことだ。習氏は、国家主席3期目の続投が決まるとみられる今年の党大会に向け準備を進めているところだ」
不動産税の導入は、富裕層の反対でずっと見送って来た課題である。不動産バブルを引き起した理由の一つはここにある。財源がないから社会保障制度が充実せず、分配の不平等を拡大させている。原因が分っていても是正できない。これが、中国政治の実態である。
(2)「エコノミストや学者らは、一段と思い切った内容で、痛みを伴う可能性もある変革なしには、共同富裕の目標は達成できないことが明確になってきたと指摘している。しかし、そうした変革を容認する用意が習氏にあるようには見えない。それには、中国の課税や社会保障の制度の全面的な見直しが含まれる。中国の税制は先進国ほど累進的ではなく、より所得の低い労働者に大半の負担がのしかかる。政治的なつながりがより強い傾向にある上位層の税率引き上げは、抵抗に直面している」
中国は、大衆課税の国である。間接税が、税収の6割強も占めている国は外にない。
(3)「中国の税制では根本的に、習氏の「共同富裕」の政策課題が示唆する教育や衛生、その他のサービスの水準を達成できるほどの歳入が得られていないとエコノミストは指摘する。このため、民間企業や大物実業家に富を再分配するよう求める圧力が生じている。中国の個人所得税は、国内総生産(GDP)比で1.2%にとどまる。ちなみに米国や英国は約10%だ。国際通貨基金(IMF)によると、(中国の)社会保障負担による収入は、GDP比で6.5%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均9%を下回っている」
直接税である個人所得税が対GDP比で1.2%。米英の約10%から見て、高所得者が超優遇である。共産党の看板が泣いている。
(4)「習氏は昨年1月、共同富裕の実現は待ったなしだと当局者に伝えた。このことは、同氏がこの問題を重視していることを示唆する。中国経済は新型コロナの第1波の収束後に力強く回復したため、政策立案者らは、習氏の目的を果たすような変化を推し進めるチャンスが到来したと考えた。しかし、その後に設けられた規制は、暴利をむさぼる、もしくは金融リスクを取り過ぎているとみられていた業界の取り締まりを中心とするもので、革新を促したり、低・中所得層の機会を広げたりするための、より抜本的な改革ではなかったと、エコノミストは指摘する」
中国は、税制改革に臆病である。富裕層である共産党幹部が苦情を申し立てるからだ。この点を改革しなければ、共同富裕は永遠に実現しないであろう。
(5)「ハイテク企業や営利目的の学習塾・家庭教師業界に対する締め付けは、独占的な行為を後退させたが、業界での大規模なレイオフ(一時解雇)につながり、中国上場企業の市場価値が何十億ドルも吹き飛んだ。国全体の成長は急速に鈍化しており、エコノミストの多くは、中国が約5.5%に設定している今年の政府成長目標を達成するのに苦労するとみている」
ハイテク企業や学習塾・家庭教師業界に対する締め付けは、雇用問題を引き起し、新規雇用の受け皿をなくしてしまった。これが、GDPの足を引っ張っているのだ。ざっと100万人の雇用を奪った。
(6)「ハイテク企業や起業家は共同富裕の取り組みに何十億ドルもの寄付を表明しているが、エコノミストらによれば、そうした1回限りの資金提供は長期的な社会制度の改革に向けた持続的戦略にならない。その一方で、民間の起業家精神を廃れさせるような、政府の引き締め策による打撃が何年にも及ぶとみられる」
この強制寄付は、起業家精神を奪ってしまった。新規創業による産業発展の芽は明らかに摘まれてしまった。そのことに気付いていないのだ。


コメント
コメントする