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ロシア軍は、ウクライナ首都のキエフ近郊からすべて撤退した模様だ。ウクライナ軍から受けた損害部分を修復するには、数週間が必要と予測されている。これが済み次第、ウクライナ東部・南部へ集中的な攻撃を開始すると予測されている。

 

この貴重な時間である数週間に、NATO(北大西洋条約機構)加盟国は、強力な反撃可能な武器弾薬をウクライナへ供与すべく、急ピッチな動きが始まっている。軍事専門家は、この武器弾薬の補給によって、ウクライナ軍が守勢から反撃へ移るとの見方もしている。

 

『日本経済新聞』(4月7日付)は、「米欧、ロシア再攻勢に先手 チェコはウクライナに戦車供与 ロシア軍、東・南部へ再配置」と題する記事を掲載した。

 

ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、米欧は従来より攻撃能力の高い兵器の供与に踏み込む。首都キーウ(キエフ)攻略に失敗したロシア軍は、ウクライナ東部・南部を制圧するための戦力再配置を続けており、先手を打ってこれを阻止する狙いがある。

 

(1)「英国防省は4月6日、南東部マリウポリで激しい戦闘や空爆が続き、人道状況が悪化していると指摘した。北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は6日、ブリュッセルの本部での外相理事会開幕前に記者団に「ウクライナへの支援をどう拡充するか話し合う」と述べた。加盟国が高度な兵器システムの供与を進めていると明らかにした。戦車などが念頭にある

 

下線のように、従来から一歩進めた高度の兵器システムが供与されることになった。米国では、ウクライナ兵に最新武器の訓練も行なっている。米軍トップが、ウクライナ戦争が数年かかるかも知れないと見ていることから、最新兵器の供与に踏み切るのであろう。

 

(2)「米欧はこれまで、ロシアの進軍を阻むための対戦車ミサイル「ジャベリン」や燃料・弾薬、ヘルメットや医薬品などの供与にとどめてきた。ロシアとの緊張が高まることを避けるための判断だったが、ウクライナ側は戦闘機などより攻撃的な兵器の供与も求めてきた。

戦車供与は従来方針からの転換となる。ウクライナ軍の戦力増強に直結し「ウクライナ側の反転攻勢につながる可能性がある」(防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長)」

 

NATO加盟国は、ウクライナ戦争がウクライナ国内に止まらず、NATO加盟国へ飛び火する危険性を感じている。それだけに、戦線拡大を何としても阻止したいと強い意志を固めている。その表れが、武器弾薬の供与だ。

 


(3)「NATO加盟国の一部はすでに先行している。ロイター通信によるとチェコ国防当局は5日、旧ソ連製戦車T72や歩兵用戦闘車両をウクライナへ供与したことを認めた。ドイツも、旧東ドイツ政府がかつて管理し現在はチェコの企業が保有する歩兵用戦闘車両について、ウクライナへの引き渡しを承認した。ウクライナの兵器システムは旧ソ連製のものが多い。実戦投入に訓練が必要な最新鋭兵器より、扱いに慣れた旧ソ連製の方が即戦力となる利点がある」

 

旧ソ連支配下にあった東欧諸国は、旧ソ連製武器を保有している。これを、ウクライナへ供与するもの。ウクライナも武器の使用に習熟しているので、即戦力になる。

 


(4)「多くの兵器はポーランド国境で引き渡され、陸路で前線に輸送される見通しだ。ウクライナ西部の防空システムは一定程度機能しており、外国からの物資輸送拠点である西部リビウ周辺では5日もロシア軍のミサイルを迎撃した。米欧がウクライナの戦力増強を急ぐのは、ロシア軍が再び攻勢に出る展開が見込まれるためだ。ストルテンベルグ氏は5日の記者会見で「ロシア軍の再配置には数週間かかるだろう」と分析した。再配置完了後に大規模攻撃を仕掛ける可能性があるとの見方を示した。東部ドンバス地域全域を占領すると同時に、南東部の港湾都市マリウポリを攻略し、2014年に併合したクリミア半島とロシア領を結ぶ回廊を築く狙いがあるとNATOはみる」

 

ロシア軍の再配置には、数週間が必要と観測されている。西側諸国は、この貴重な時間を有効に使い、ウクライナへ強力な武器弾薬の搬入を目指している。

 

(5)「米国防総省高官は6日、記者団に対してロシア軍がキーウ周辺からの撤退を「完了した」との分析を示した。4日時点で3分の2が撤退を始めたと推計していた。ベラルーシやロシアに移って補給をしているという。今後はドンバス地域での戦闘に加わる可能性がある。軍事当局者は長期戦を視野に入れ始めた。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は5日、下院軍事委員会の公聴会でウクライナ紛争について「少なくとも数年単位になる」と述べた。14年に始まったウクライナ東部紛争では、停戦合意に至った後も散発的に戦闘が続いた。今後の停戦協議で合意が結ばれても「ずるずると戦闘状態が継続する可能性がある」(防衛研の兵頭氏)との指摘もある」

 

米軍トップは、ウクライナ侵攻が長期戦になる危険性を計算に入れ始めた。これによって、米国がウクライナへ質的に高度の兵器を供与する可能性を示唆したものだろう。戦争の長期化は、決して好ましいことでない。対ロ経済制裁が効果を上げて、ロシア国内で停戦ムードの高まりを期待するほかない。