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中国は、ロシアのウクライナ侵攻に対して「反対」意向を示さず、半ば支持する形を取っている。これは、中国がアジアで同様の「侵略戦争」を始める意志があることを言外に示しているのだ。こういう警戒感が、フィリピンでも顕著になっている。

 

フィリピンは、自国領有の島嶼を中国に奪われている。このため、常設仲裁裁判所へ提訴し、勝訴した経緯がある。中国は、この判決に従わず不法占拠を続けている。フィリピンが将来、中国の軍事行動を警戒するのは当然である。日米と安保関係強化に動いている理由だ。

 

中国の習国家主席はこれをけん制すべく、4月8日にフィリピンのドゥテルテ大統領とオンライン会談を行なった。その際に習氏は、ロシアによるウクライナ侵攻を念頭に「地域の安全が軍事同盟の強化によって実現できないことを改めて証明している」と指摘した。これは、フィリピンによる日米への接近を批判したものだ。

 


一方で、習氏はフィリピンへ「アメ」も見せている。「フィリピンからより多くの優良製品を輸入しよう」と提案した。フィリピンにとって中国(香港含む)は、世界最大の輸出先だ。フィリピンでは電子部品や農産品などの輸入拡大への期待が高い。

 

中国は、これまでフィリピンに対して「戦略的協力関係」を謳いながら、すべて空手形であった。こうして、フィリピンは中国への信頼度が極めて低い。その点、日本と強い信頼関係で結ばれている。4月9日、初めての日比「外務・防衛閣僚会合」(2+2会合)を開催した。日本外務省は、次のように会合結果を発表した。要約のみを掲載する。

 

(1)「ウクライナ情勢について、日本側から、ロシアによるウクライナ侵略は明白な国際法違反かつ国際秩序の根幹を揺るがす行為であることを指摘しました。その上で、四大臣は、両国間で、今般の侵略が明白な国際法違反であり、国際秩序の根幹を揺るがす行為であること、武力行使の即時停止及びウクライナからの即時撤退を求めること、法の支配やウクライナの主権・領土の一体性の尊重、力による一方的な現状変更への反対といった点で、両国で連携して対応していくことを確認しました」

 

ウクライナ侵攻について、日本とフィリピン両国が明確な国際法違反と認識した点は重要である。これは、両国が米同盟国として同じ歩調で歩むことを認め合ったことでもある。

 

(2)「東シナ海・南シナ海情勢については、四大臣の間で深刻な懸念を共有し、比中仲裁判断や国連海洋法条約を始めとする国際法の遵守を確保していくことで一致しました」

 

南シナ海における中国の不法占拠問題に付いて、中国が常設仲裁裁判所の決定に従うことを要求することで両国が一致した。尖閣諸島問題でも日本の領有権にフィリピンが賛成したのであろう。

 


(3)「四大臣は、自衛隊とフィリピン国軍の間の訓練等の強化・円滑化のため、相互訪問や物品・役務の相互提供を円滑にするための枠組みの検討を開始することで一致しました。今後、円滑化協定や物品役務相互提供協定の締結の可能性も含め、検討を進めていきます」

 

この項目は、非常に重要である。自衛隊は、すでに米軍や豪州軍と相互訪問や物品・役務の相互提供を円滑にする協定を結んだ。フィリピン軍とも同様の協定を結ぶべく協議をするというもの。これらの協定を結ぶと、相互に相手国を特別の手続きをすることなく訪問したり、弾薬やサービスの相互利用が可能になる。軍隊は別々であるが、相互に融通が可能になるという意味では、軍隊の「兄弟化」である。極めて密接な関係が成立する。

 


(4)「四大臣は、国連安保理改革や核軍縮・不拡散体制の維持・強化に向けた連携で一致しました。フィリピン側から、日本の安保理常任理事国入りへの支持が改めて表明されました」

 

フィリピンは、日本の安保常任理事国入りを支持するとしている。ウクライナのゼレンスキー大統領は、先の日本の国会での演説で国連改革と日本の安保常任理事国入りを支持すると発言している。ロシアのような安保常任理事国が、他国を侵略するという乱れた時代だけに、国連改革は必要である。

 

今回の日比「外務・防衛閣僚会合」(2+2会合)は、アジアの安全保障体制がゆっくりと民主主義国の団結に向かって動いていることを示唆している。日本は、米国・豪州と密接な関係を築いているが、ここにフィリピンを加えることで、四ヶ国は、「同じ釜の飯」を食う関係になった。

 

『日本経済新聞』(4月9日付)は、「米『中国が同盟ネットワークを懸念』、習氏発言を念頭に」と題する記事を掲載した。

 

米国防総省のカービー報道官は、8日の記者会見で「中国が我々の同盟やパートナーシップのネットワークを懸念していることは明白だ」と強調した。中国の習近平国家主席がフィリピンのドゥテルテ大統領に米国との軍事同盟を強化しないよう促したことを念頭に置いた発言だ。

 

(5)「カービー氏は、「米国はインド太平洋地域に戦略的利点を持っており、それは同盟やパートナーシップだ。中国にはそのようなものは何もない」と言明した。中国国営中央テレビ(CCTV)によると習氏は8日、ドゥテルテ氏と電話協議し、ロシアによるウクライナ侵攻を念頭に「地域の安全が軍事同盟の強化によって実現できないことを改めて証明している」と指摘していた。バイデン米政権は、南シナ海の実効支配を強める中国に対抗するため日本の役割拡大に期待している」

 


中国と敢えて対決する必要はない。ただ、習近平氏が2035年をメドに、世界覇権を握ると豪語することは、プーチン氏の「ロシア帝国復活」目標と同様に、極めて軍事的に危険な目標である。フィリピンは、これまで「反米・親中」ポーズを見せてきた。だが、ウクライナ侵攻の現実を見るに及んで、ついに親米へ決断した。中国へ接近していたのでは、「第二のウクライナ」にされてしまう危機感が揺り動かしたのであろう。