a0960_006624_m
   

ロシア経済は、資源輸出で支えているようなものだ。税収の4割が資源から得た利益である。その大黒柱を支えてきたのがドイツの旺盛な需要である。ロシアが輸出している天然ガスの内、ドイツは15.9%(2020年:米国エネルギー情報局調べ)と断トツである。ドイツが、ロシア経済制裁に最後まで慎重であった理由は、このエネルギー問題であった。

 

そのドイツが、ウソのように「脱ロシア」で動いている。24年にロシアからの天然ガス輸入比率を1割までに下げるというのだ。ロシアにとっては恐怖であろう。ウクライナ侵攻の経済的代償は、これから「未来永劫」にわたりロシア経済を苦しめることになろう。

 


『日本経済新聞』(4月10日付)は、「ドイツ、脱ロシア依存急ぐ」と題する記事を掲載した。

 

ドイツが化石燃料のロシア依存脱却を急いでいる。ショルツ首相は8日の会見で、ロシア産原油の輸入を年内に停止できるとの見通しを示した。当面は資源の調達先を分散しつつ、再生可能エネルギーの普及を急ぐが、安定調達へ課題も残る。

 

(1)「8日、ジョンソン英首相と会談したショルツ氏は、「我々は原油のロシア依存脱却へ活動している。今年中にそれが実現できる」と共同記者会見で強調した。ドイツがロシアから天然資源を買い続ければ資金の供給を通じて経済制裁の効果を弱めるとの批判は国内外で強い。ただロシアからの調達が止まれば、独経済への打撃は大きい。ロイター通信によると、ドイツ銀行協会のゼービング会長(ドイツ銀行最高経営責任者)は今月、ウクライナ侵攻の影響で2022年の独成長率が2%程度に減速する見通しを示したうえで、ロシアからのガス・石油の供給が止まると「独経済は深刻な景気後退に陥る」と予測した」

 

欧州世論では、ロシアから天然資源を買付けることが、ウクライナ戦争を長引かせるという批判に繋がっている。それだけにドイツ政府は、ロシアへの石油や天然ガス依存度引下げが、大きな課題だ。

 

ロシアが、こうしたドイツの動きに先手を打って、輸出を止めるという「自殺行為」も予想できるが、プーチン大統領は「契約を守る」としている。厖大な戦費を稼ぐには、「輸出停止」はできない相談である。

 


(2)「ドイツは欧州域内でロシア産原油の最大の輸入国だ。国際エネルギー機関(IEA)によるとドイツは21年12月時点で推計60万バレルの原油をロシアから輸入する。ウクライナ侵攻前まではロシアへの依存度は35%だったが、足元は25%まで低下した。中東などの主要産油国は大幅増産に消極的だ。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の野神隆之首席エコノミストは「在庫も取り崩しながら、米国やアフリカ、南米など他の産油国も含めて少しずつ確保して穴埋めすることになろう」と指摘する」

 

国連統計によると、ドイツは2021年に114億ドル(約1.4兆円)相当の原油をロシアから輸入し、対ロ依存度は29%だった。ウクライナ侵攻前まではロシアへの依存度は35%だった。冬場で需要が高まっていたのだ。これからその需要期も過ぎる。

 


(3)「他の国にも禁輸の動きが広がれば、ロシア産の穴埋めはより困難さが増す。欧州全体では21年にロシアから原油を推計日量240万バレル、石油製品で115万バレルを輸入している。限られた石油資源の争奪戦となり、原油価格には上昇圧力が大きくかかることになる。24年夏にもロシア依存から脱却するとした天然ガスは、3月に有力生産国のカタールと長期の調達契約を結んだ。独政府によると、ロシアへの依存度はすでに5割を下回っているという」

 

ドイツの天然ガス調達のロシア依存の割合は、調達先の切り替えなどでウクライナ侵攻前の55%から40%にまで下がっている。今後も調達の多様化や再生エネルギーの拡大などが進めば、24年夏にはロシアからの輸入割合を1割程度にまで下げられるというのがドイツ政府の見立てという。

 


ドイツは、ウクライナ侵攻など予想もしていなかったので、ロシアへ全幅の信頼を置いてきた。米国は、こういうドイツの「能天気」な動きに、これまでしばしば忠告してきた。ドイツは、これまで聞き流してきた咎めに苦しんでいる。地政学的リスクを無視していたのだ。

 

(4)「エネルギーの分散も進める。6日に新たなエネルギー戦略を策定し、35年までにほぼ全ての電力を風力や太陽光などの再生可能エネルギーで賄う方針を打ち出した。原子力発電については明確な言及を避けたが、引き続き再エネへの転換を電力源の軸とする立場を維持している」

 

ドイツは、原発廃止で動いている。その穴埋めとして、ロシア依存を高めたという背景もある。フランスの原発重視と好対照である。