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ウクライナは、ロシアの侵攻によって不利な情勢にもかかわらず踏ん張りを見せている。ウクライナ軍が、情報収集においてロシア軍より敏捷に動いている結果であろう。これを支える一つの柱は、NATO(北大西洋条約機構)6機による空からの情報収集結果が、ウクライナ軍へ即時に伝えられていることだ。ウクライナは、NATOへ未加入であるが、「客分」としての礼遇を十分に受けている。

 

英紙『フィナンシャル・タイムズ』(4月6日付)は、「上空からウクライナ周辺を監視するNATOの航空機」と題する記事を掲載した。

 

ドイツ北西部にある遮蔽壕の奥深くで、欧州東部の空域図を映し出す大型スクリーンを前に北大西洋条約機構(NATO)の空軍要員十数人がコンピューターの周りをせわしなく行き交う。ロシア、ベラルーシ、ウクライナと接する東部地域の上空に、NATOの航空機を表す30個ほどの緑色の点が集まっている。戦闘機、偵察機、支援機が入り交じったその一群は、ロシアの侵略を抑止するための力を誇示すると同時に、ウクライナでの戦況に関して同国政府にフィードバックできる情報を収集している。「データは山のようにある」とNATOの防衛当局者は話した。「彼らは耳を澄まし、目を凝らしている」

 


(1)「オランダ国境に近いドイツ・ウエーデムにあるNATOの統合航空作戦センターは、アルプス山脈以北の全ての航空作戦を調整している。平時はNATO域内への侵入を防ぐ空域監視が主な任務だが、約6週間前にロシアがウクライナに侵攻を開始してからは活動の規模と目的を拡大している。NATO加盟国によるウクライナへの武器供与と同じように、ポーランドとウクライナの国境周辺などの空域監視で得られる軍事情報は機密性が高い

 

NATOは、ウクライナへ武器を供与している。当然、NATO機による軍事情報もウクライナへ伝えられていると見るべきだろう。

 


(2)「NATOは、ウクライナ政府との機密情報共有の調整や促進には一切関与していないと強調する一方、加盟国が独自の判断でウクライナ軍の防衛に役立つ情報を流すことはありうるとしている。ウエーデムの作戦センターで司令官を務めるハロルド・ファン・ピー少将は、「情報をどのように扱うかは各国の判断による」と語った。「いくつかの国は恐らく、他の利害関係国と情報の一部を共有するだろう。そう言っておこう」と話す。米国の当局者は米政府がウクライナ政府と機密情報を共有していることを認めているが、ロシア側の標的を「リアルタイムで狙う」ことを可能にするデータは提供していないという」

 

NATO機が得た情報は、NATO加盟国の個別意志でウクライナへ伝えられている模様だ。NATOとして意志決定しているものでない。要するに、建前と実際は別であるが、裏では繋がっている。

 


(3)「NATOは米ボーイング製の空中警戒管制機(AWACS)「E3A」を十数機保有・運用しており、広範囲を監視できる「空の目」として知られる同機を常時6機ほど飛行させている。これはウクライナ紛争の勃発を受けて東欧の空域監視を強化し、毎日約100機を出動させているNATOの活動の一部分だ。活動には加盟各国が運用する戦闘機や有人・無人偵察機も参加している。ストルテンベルグNATO事務総長は、NATOはウクライナの状況を「非常に注意深く監視している」と述べ、「大量の情報をもたらす監視能力」があるとしている」

 

NATOは、空中警戒管制機6機を常時、出動させている。ロシア軍のすべてが、空から覗かれているのだ。ロシア部隊の動きは、空から見れば一目瞭然である。

 


(4)「ストルテンベルグ氏はブリュッセルで5日、「現在、ウクライナで起きているような危険な状況では、もちろん情報と可能な限りの状況把握が極めて重要だ」と記者団に語った。ウエーデムのファン・ピー司令官は「もちろん、我々は国境の向こうをのぞき込んでいる。向こう側で飛んでいるものを我々はリアルタイムで知りたい」と話した」

 

空には「壁」がないから、NATO機はロシアの動きは逐一、把握可能である。ロシア軍が今週中に、ウクライナ東部を攻撃すると言われている裏には、こういう情報収集も寄与しているのであろう。

 

(5)「NATOは空域監視の強化と同時に、ロシアの侵攻を受けて防衛態勢の見直しに動く中、東欧の加盟国への地上・海上戦力の配備も増強している。配置済みの部隊の規模拡大と新たな指揮系統を設ける決定により、東部地域でのNATO指揮下の兵力は4万人となり、ロシア、ウクライナと国境を接する加盟国及び黒海に面する加盟国の全てに戦闘群が配備される。加えて、空母打撃群が北海と東地中海に展開し、140隻以上の艦船が出動している。敵の航空機やミサイルを迎撃できる米国製の地対空ミサイル「パトリオット」もポーランド南部とスロバキアに配備された」

 

NATOは、ウクライナ周辺の情報収集を特別任務で行なわずとも、NATO加盟国の安全保障任務の一環である。ロシア軍は、こうしてNATOから四六時中、監視される仕組みになっている。

 


(6)「ウエーデムの作戦センターは巡航ミサイルの探知や追跡も担う。かつてNATOが使用していたウクライナ西部の軍事訓練場を攻撃したロシアのミサイルも探知していた。3月のこのミサイル攻撃は、NATOの東欧での空軍力強化による防衛と抑止、監視が並び立つものであることを実地で示したとウエーデムの当局者は話した。ミサイルが12キロメートルしか離れていない国境を越えてポーランドに飛んできていたら、撃ち落とせていたという。「向こう側を深く見ることができればできるほど、いつかこちらに来るかもしれないものに警戒を強められる」とファン・ピー司令官は話した」

 

ウクライナ軍は、情報収集面でもNATOの全面的な支援を受けている。この事実は意外と知られていないが、ウクライナ軍の戦闘行為において大きな力を発揮しているに違いない。