テイカカズラ
   

米国とNATO(北大西洋条約機構)は、ロシア軍のウクライナ侵攻3日目で、ロシア軍の「衝撃的な弱さ」に驚いたという。近代戦の戦い方でなく、第二次世界大戦並の攻略法に呆れたというのだ。ロシアのプーチン大統領は、開戦4日目で実態を知り、核部隊へ「待機命令」を出さざるを得なかったようである。

 

ロシア軍は、ウクライナ軍の「非対称作戦」(神出鬼没な戦い)に翻弄され、大量の兵員と武器を失っている。さらに、米国やNATO加盟国からのより高度の武器が供与される事態になって、ロシア政府は危機感を強めている。そこで、米国とNATOへ武器供与するなと警告する事態になっている。

 


英国『BBC』(4月16日付)は、「ロシア政府、西側のウクライナ武器供与を警告 『予測できない結果に』」と題する記事を掲載した。

 

ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア政府が、正式な外交文書で、アメリカをはじめとする同盟諸国によるウクライナへの武器供与について警告していたことが15日、明らかになった。在ワシントンのロシア大使館が米国務省に送った文書を、複数の米メディアが確認した。

 

(1)「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は米CNNに出演し、ロシアがウクライナに戦術核兵器を使用する危険について世界は備えておくべきだと述べた。2ページにわたる正式な外交文書でロシア政府は、アメリカと北大西洋条約機構(NATO)諸国がウクライナへ武器を提供し続けていることが、ウクライナでの紛争に「燃料を与えて」おり、「予測できない結果に」つながりかねないと警告した」

 

ロシアが、核兵器を持出すのは敗北リスクを強く意識している結果と見られる。最後の休戦条件で、ウクライナへ無理強いする伏線だ。「暴力団」がよく使う手である、“落とし前を付けろ”という脅迫材料に使う意図なのだ。

 


(2)「ロシア政府はこの文書を12日に送付していた。アメリカの追加武器供与について情報が出回り始めたのとほぼ同時で、その数時間後にはジョー・バイデン米大統領が計8億ドル(約1000億円)の追加軍事支援を承認した。追加支援には旧ソ連製ヘリコプター「Mi17」11機、自爆型ドローン「スイッチブレード」300機、携行型対戦車ミサイル「ジャベリン」500基などのほか、初めて長距離榴弾(りゅうだん)砲などが含まれた」

 

米国は、より攻撃型な武器をウクライナへ供与する計画を明らかにしてきた。ウクライナ軍が、これまでの「非対称作戦」から転じて、「正規軍」的な戦いを挑んでくれば、ロシア軍にとって脅威になるのだ。ロシア軍が、開戦前に抱いていたウクライナ軍のイメージは、大きく変わっており「強敵」に映ってきたのであろう。

 


(3)「ロシア政府の警告について米政府幹部は、アメリカとNATOの軍事援助が効果を上げているとロシアが認めたと受け止められると述べている。アメリカからの追加支援は数日中にウクライナに到着する予定。ロシア軍はウクライナ東部に集結を続けており、数週間のうちにドンバス地方で大攻勢を仕掛けるものとみられている。ロシアとウクライナの戦争が始まって以来、アメリカは30億ドル(約3800億円)以上の軍事支援をウクライナに提供している」

 

ウクライナ兵は、コサック兵の伝統を受継いでいる。帝政ロシア時代、コサックは貴族・聖職者・農民・商人とならぶ階級の一つとなり、税金免除の引き換えに騎兵として兵役の義務が課された。こういう歴史を持つだけに、勇猛果敢にロシア軍と戦うのであろう。

 


『ニューズウィーク 日本語版』(3月3日付)は、「ロシア軍『衝撃の弱さ』と核使用の恐怖ー戦略の練り直しを迫られるアメリカ」と題する記事を掲載した。

 

ウクライナ侵攻の最初の3日間でわかったことは、ロシア軍が西側の脅威にはなりえないほど弱かったことだ。しかしそれは同時に、プーチンを追い詰め過ぎると本当に核兵器を使いかねない恐怖と隣り合わせになったということだ。

 

(4)「戦闘開始からわずか1日で、ロシアの地上軍は当初の勢いをほとんど失った。その原因は燃料や弾薬、食糧の不足に加え、訓練や指導が不十分だったことにある。ロシアは陸軍の弱点を補うために、より離れた場所から空爆、ミサイル、砲撃による攻撃を行うようになった。プーチンは核兵器を使う可能性をちらつかせて脅したが、これはロシア軍の通常戦力が地上における迅速な侵攻に失敗したからこその反応だと、アメリカの軍事専門家は指摘する

 


下線のように、ロシア軍が緒戦で大敗したことが、核の影をちらつかせて米国やNATOを脅かしている理由としている。

 

(5)「他の軍事専門家からは、ロシア本土から完全な準備を整えて侵攻したロシア軍が、隣接する国でわずか数十キロしか進めなかったことに唖然としたという声もあがった。ある退役米陸軍大将は、本誌に電子メールでこう述べた。「ロシアの軍隊は動きが遅く、その兵力はなまくらだ。そんなことは知っていた。だが最小限の利益さえ達成する見込みがないのに、なぜ地球全体の反感を買う危険を冒すのか」。この陸軍大将は、ロシア政府が自国の戦力を過大評価していたという説明しかないと考えている」

 

西側の軍事専門家は、開戦すぐに決着がつくと観念していた節がある。それが、ウクライナへ強力な武器を与えなかった理由だ。降伏して、ロシア軍に接収される事態を避けたかったのだろう。ところが、結果は逆になった。弱いのはロシア軍である。となると、強力な武器を与えて、戦いの膠着化を避ける方針に切り替わったのであろう。

 

(6)「元CIA高官は、「ロシアの軍事に関する考え方は、第二次大戦時に赤軍を率いて東欧を横断し、ベルリンに攻め入ったゲオルギー・ジューコフ元帥のやり方が中心にあると思う」と、本誌に語った。ジューコフは、「大砲を並べ、...諸君の前方にあるものすべてを破壊せよ」と命じたという。「そして生存者を殺すか強姦するために農民兵士部隊を送り込んだ。ロシア人は繊細でない」と指摘する。今回明らかになったロシアの通常兵力の弱さは、米政府内部の専門家を含む地政学的ストラテジストがロシアを脅威と見ていた多くの前提を覆すものだ」

 

ロシア兵は、狩猟民族の血を引くので残虐なことを平気で行なう気風があると言われる。コサック兵の血統を継ぐウクライナ兵の気質とは、全く違うというのだ。ロシア軍が今も、ジューコフ元帥のやり方を継承しているとすれば、NATO軍に訓練されたウクライナ軍に勝ち目はなさそうだ。