極端な右派主義であるルペン氏が4月24日、フランス大統領選の決戦投票で現職のマクロン氏と争う。ルペン氏は、ロシアのプーチン大統領と親密だ。それだけに、フランス大統領に当選となれば、EU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)に軋みを生むのは確実。ロシアのウクライナ侵攻への関わりが変わるのでないかと懸念されている。
英紙『フィナンシャル・タイムズ』(4月13日付)は、「『ルペン仏大統領』誕生を警戒するEU NATO」と題する記事を掲載した。
フランス大統領選の1回目投票で現職のマクロン大統領が極右国民連合のルペン党首を抑えて1位につけた。これを受け、欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)の政策決定者は胸をなで下ろした。4月24日の決選投票を前に、マクロン氏はリードを保っている。EUや欧州各国の高官が抱いていた深刻な懸念は薄らいだ。とはいえ、NATO軍事機構からの離脱やEU法に違反する政策
、ロシアのプーチン大統領との関係回復を求めるルペン氏が大統領に選出される可能性はまだ残っている。
(1)「ルペン氏は2017年の大統領選でマクロン氏に大差で敗れて以来、EUに対する強硬な意見を和らげ、EU離脱やユーロ圏離脱はすでに掲げていない。とはいえ、より緩やかな「国家の集合体としての欧州」
を提唱しているだけでなく、同氏の法解釈の多くはEUの条約の弱体化や違反につながりかねない。ルペン氏は13日にパリでの記者会見で、大統領選に勝てばNATOの軍事機構から離れた後もNATOに忠実であり続けると発言した。ロシアに対するウクライナの戦闘を支援するため、物資の提供や情報の共有も行うという。フランスがEUから離脱する「フレグジット」も求めていないとした。ただし、EUへの拠出金は実質的に半分への引き下げを目指すという」
決選投票の予測は、7世論調査平均での得票率がマクロン51.9%、ルペン48.1%である。決戦投票に残れなかった急進左派「不服従のフランス」のメランション党首は、決選投票への進出を逃した数時間後、支持者に次のようなメッセージを送った。24日の決選投票では極右国民連合のルペン党首に「一票も」入れるべきではない、とした。ただ、マクロン氏への投票を呼びかけたものでなかった。
ルペン氏は、フランス国民の生活不安に訴えている。EUよりもフランスを第一に考えるべきと言う民族主義の立場だ。最近の物価上昇への不満をすくい上げている。ウクライナ問題へは、これまでのNATOの協力を続けるが、NATOから脱退するというのだ。ロシアのプーチン氏の友人とされており、NATO弱体化は、プーチン氏の狙いと一致している。
(2)「ルペン氏は「欧州に対する見方がふたつあることは間違いない。だが、ひとつが親欧州で、もうひとつが反欧州というわけではない。欧州の仕組みに関してふたつの見方があるということだ」と述べた。「フランスで広がり続けるEUへの信頼の欠如は、おそらく近年のEUの動きに原因がある」。欧州議会議員の経験もある同氏は、政府の補助金に関するポピュリスト的な経済政策や、生活必需品に対する国内税率の引き下げを掲げる。自由な市場を規定するEU規則に反する政策でもある。それは移民政策や通商政策だけでなく、フランス国内法がEU法に優先するという見方でも同じだ」
ルペン氏は、EUから脱退するとは言っていない。ただ、EU法がフランス国内法に優先していることに不満である。ただ、EU成立の目標は、欧州は家族という認識を強く出している。だから、「小国」が有利で「大国」が不利になるケースは多い。それを「大国」がどこまで譲るかという問題でもあろう。EUも成立(1993年11月)して29年経つ。いろいろと問題を抱えて当然であろう。
(3)「リベラル派で親EU路線を前面に打ち出すマクロン氏は1回目投票で勝ったとはいえ、再選に向けた戦いは依然厳しい。1回目投票で他の候補者支持に回った有権者の多くには、ルペン氏が掲げる保護主義的な経済政策や欧州懐疑論が魅力的に映るからだ。ルペン氏が勝てば、米国主導の軍事同盟であるNATOも劇的な変化を免れない。同氏はNATOの統合軍事機構からフランスを離脱させると表明している。フランスの軍隊と兵器がNATOの指揮から外れる方向に向かうことになる」
マクロン氏が、進歩派支持者をどれだけ引きつけられるかである。2017年の大統領選決選投票では、マクロン氏は前記のメランション氏支持層の約50%から支持を得ていたことが調査で明らかになっている。今回もどうようの支持を得られるかどうかだ。これが、ポイントになりそうである。
(4)「(フランスの軍隊と兵器がNATOの指揮から外れれば、)NATOは大きく弱体化する。09年に当時のサルコジ大統領のもとでNATOの軍事機構に復帰
したフランスは、軍事力ではNATO加盟国で3番目、防衛費では4番目を誇る。EU加盟国の中では最も重要な軍事大国だ。マクロン氏自身、19年にNATOの現状を「脳死状態」と表現し、EU主体の軍隊を創設して米国の軍事力頼みからの脱却を求めるなど、NATO加盟国の不安材料となっていた。だが、最近ではロシアのウクライナ侵攻を受けてNATO支持を改めて表明している」
フランスがNATOから脱退すれば、プーチン氏が手を叩いて喜ぶであろう。独裁者プーチン氏を前に、NATO弱体化が望ましいかどうか。フランス国民に熟考して貰うしかない。
(5)「ルペン氏は、プーチン氏のウクライナ侵攻を受けて西側諸国の対ロ制裁に支持を表明したが、ロシアは「強大な国」であり、戦争が終結すれば「再びフランスの同盟国になり得る」と発言している。ルペン氏とロシアとの関係は、同氏率いる国民連合がロシアの銀行から融資を受けた14年以前から続いている。17年には大統領選を前に、同氏がクレムリン(ロシア大統領府)でプーチン氏と会談している」
皮肉なものだ。フランスはナチスに占領されている。その苦しみを忘れて、プーチン氏に繋がるルペン氏を無批判に受入れるとすれば、フランスには歴史の教訓が通じないことになろう。
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