中国では、ウクライナ軍の頑強な抵抗ぶりに衝撃が走っているという。中国人民解放軍にとって、ロシア軍はまさに仰ぎ見る存在だった。それだけでない。ロシアは、中国にとって最大の武器供給国である。その最新鋭武器を擁するロシア軍が、ウクライナ侵攻で大きく躓いたのである。中国は、台湾侵攻を最大の政治案件にしている。失敗すれば、中国共産党の屋台が傾ぐ。慎重にならざるを得まい。
ウクライナ軍の強靱な戦いは、コサック兵の歴史を受け継いでいることと、NATO(北大西洋条約機構)軍から、近代戦を学んだ成果が出ていることだ。単に,武器の量という問題ではない。兵士一人一人が、命令に従った一律の戦い方を超越した戦いを習得した結果である。ロシア陸軍は、冷戦時代と全く変わらない「旧式戦法」とされる。この差が、戦果に出ていると専門家は評価している。中国軍は、米軍に訓練されている台湾軍とどう向き合うのか。
『日本経済新聞 電子版』(4月19日付)は、「中国、台湾攻略のシナリオ練り直し ウクライナ長期化で」と題する記事を掲載した。
中国の習近平(シー・ジンピン)指導部が、台湾攻略のシナリオ練り直しを迫られている。ロシアによるウクライナ侵攻の長期化を受け、従来の想定よりも中心都市台北の制圧は困難との認識が広がっているためだ。当面は台湾の「独立派」を封じ込め、米軍の介入を抑止するための核戦力増強に注力することになりそうだ。
(1)「ベテラン共産党員は、「仰ぎ見てきたロシア軍が苦戦している現状は党内にも大きな衝撃を与えている」と打ち明ける。ロシア軍は2月24日、隣国ウクライナに北部、南部、東部の3方面から侵攻した。ロシアのプーチン大統領は情報機関の楽観シナリオを信じ、数日間で首都キーウ(キエフ)を制圧、ゼレンスキー政権を転覆させる短期決着を思い描いていたとされる。実際にはウクライナ側は各地で激しく抵抗し、北部ではキーウへの進軍を図ったロシア軍を押し戻すことに成功した。ロシア軍は東部・南部の制圧へと作戦の切り替えを余儀なくされている」
中国軍が、ロシア軍を先生役にしてきたという。この一言で、中国軍もロシア軍と同様に、伝統的な戦術に従っているのだろう。これでは、米軍仕込みの台湾軍に差を付けられて当然だ。
(2)「中国の軍事関係筋の話や日本の安全保障の専門家の分析をまとめると、中国の台湾侵攻計画もまた短期決着を想定して練り上げられてきた。まずサイバー攻撃で通信インフラなどを機能不全にし、短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルで防空システムや空軍基地を破壊し無力化を狙う。制空権を確保したうえで海と空から兵員や戦略物資を大量に送り込むというものだ。台湾から約600キロメートル離れた沖縄本島には、在日米軍が駐留する。中国の軍事関係筋は、侵攻時に米国が国内手続きを終えて軍を台湾に送るまでに必要な期間を「7日間程度」と見積もる。米軍到着前に台北を落とすことが作戦の成否を握る」
この台湾侵攻作戦計画を読んで、台湾軍に支援国がつくという想定がゼロであることに驚く。台湾海峡や南シナ海、東シナ海には、日米海軍の潜水艦部隊が常時、警戒体制を敷いていることを忘れているのだ。この程度の荒い作戦計画では、ロシア軍のウクライナ侵攻失敗の二の舞いは不可避である。
(3)「中国人民解放軍OBによると、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化で、このシナリオに「黄信号」がともっているという。軍内の認識が特に新たになったのが、台北攻略の難しさだ。台北市の人口は約260万人とキーウ(約290万人)とほぼ同規模だ。しかし、台北市の人口密度はキーウの3倍近い。そのうえ台北市をドーナツ状に取り囲む新北市には約400万人が暮らす。上陸作戦がうまくいったとしても、台北市内への進軍で相当数の民間人が巻き添えとなるのは避けられない」
インド太平洋戦略「クアッド」(日米豪印)や、「AUKUS」(米英豪:軍事同盟)が、中国の台湾侵攻の前に立ちはだかることは当然のこと。中国は、これを全く想定せず、中台の単独戦争を想定している。こんなことはあり得ないのだ。先ず、中国軍の台湾上陸作戦自体が,大損害を招くことになろう。前述の潜水艦部隊の活躍により、中国艦船は大被害を受けるからだ。
(4)「民間人の犠牲を抑えようと、慎重に攻撃を進めれば米軍の到着を許してしまう。台湾軍や市民の抵抗を排除しながら蔡英文(ツァイ・インウェン)総統を捕らえる「斬首作戦」の実行はさらに難しい。台湾海峡は幅にして百数十キロメートルもあるうえに、潮流が速い。海峡を渡って上陸する作戦に適した時期は4、10月などの2、3ヵ月しかない。台湾軍も巡航ミサイルや地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)などの配備を急ピッチで進めている。ウクライナ危機を契機に、「海峡を越える難しさが改めて認識されるようになった」(解放軍OB)」
下線部は、これまで自衛隊経験者が口を酸っぱくして指摘してきところだ。中国は,今になってこれに気付いたとは「ツー・レート」(遅すぎる)である。この程度の知識で、台湾侵攻作戦を練って来たとすれば、特攻隊と同じ「自殺行為」を意味する。
コメント
コメントする