114
   

文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、あと2週間で大統領府を離れる。大統領就任演説では、国民統合を第一に掲げ、「経済大統領」として雇用問題解決に取り組むとも宣言した。現実は、すべてあべこべの結果になった。国内では、保守派を親日派として追詰める、李承晩初代大統領のような振る舞いであった。賃上げでは、労働組合の言いなりになって、大幅引上げをして雇用構造を破壊した。

 

要するに、業績として残るようなことは一つもなかった。これほど、強い先入観に支配された大統領はいなかったのである。だが、文氏にはまだ救いの道がある。離任に際して、自己の業績を自慢するのでなく、自らの至らなかった点を国民へ率直に詫びることである。就任に際して国民へ約束し、できなかったことを謝罪するのだ。

 


これが、これからの韓国政界での相互不信による対立を除去する上で、大きな影響を残すであろう。次期政権が、文政権を報復するという疑念を捨てるためにも、文氏が率直に国民へ詫びれば、韓国の融合化にプラスとなるのは間違いない。

 

『中央日報』(4月26日付)は、「文大統領が退任前にやるべきこと」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のコ・ヒョンゴン論説主幹である。

 

韓国の文在寅大統領は朴槿恵(パク・クネ)政権の途中下車で大統領をただで拾ったようなものだ。ろうそく集会の勢いに乗って80%を超える圧倒的な支持でスタートした。その気があれば報復の悪循環を断つこともできた。尊敬される指導者として歴史に残る絶好の機会だった。弾劾で傷ついた国民はネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領のような和解のリーダーシップを期待した。

 


(1)「マンデラは600年間にわたり黒人を弾圧した白人政権を許した。自身に終身刑を求刑した検事を大統領官邸に招いて接待した。マンデラは27年間も獄中生活を送り、ひどい拷問を受けた。文大統領はマンデラの道を選ばなかった。就任演説では「真の国民統合の始まり」と言った。インクも乾く前に積弊清算という名の政治報復に執着した。剣を握ると恐れるものはなかった。国民全員の指導者でなく「陣営のボス」のようだった。すべてのことが理念化、政治化された。経済・社会・外交政策までが政治スローガンに変質した」

 

文氏の後継政権は、保守派である。これまで進歩派政権は連続2期続いた。国民が、文政権の失敗に懲りて2期連続を認めなかった。それほど、酷い政権であったのだ。対立する相手には、すべて報復するという専制政治スタイルだ。権力行使を100%愉しんだのである。

 


(2)「所得主導成長、不動産、脱原発、正規職化、韓半島平和プロセス、韓日関係、司法改革など主要政策が次々と失敗した。問題が生じても中道に修正しなかった。過ちを認めなかった。最低賃金引き上げで自営業者が苦痛を受け、雇用が減ると「所得主導成長をさらに強化する」と答えた。「常に自主をする」として「一人飯」で鍛えた自分だけの世界、特有の我執を固守した。「反対の意見が出ればさらに強行するのが文大統領のスタイル」といった親文派の言葉通りだった」

 

人権派弁護士として名を売った文氏は、この評判に有頂天であった。何をやっても許されるという錯覚に陥ったまま、目を覚まさなかったのである。「反対の意見が出ればさらに強行するのが文大統領のスタイル」とは、恐れ入る。もともと、政治家になるべき人間でなかったのだ。

 


(3)「政策の失敗もそうだが、文大統領が最も大きな過ちは(敵・見方の)組分けだった。2019年のチョ・グク元法務長官事態(注:チョ氏をめぐる犯罪捜査)は国を真っ二つに分裂させた。国民の心の中に相手に対する憎悪を植え付けた。文大統領は争いをやめなかった。「国論分裂とは考えない」と言った。数カ月後「チョ・グク元長官に心の借りを作った」と話した。チョ・グクに怒った半分の国民は眼中にないような発言だった。(文氏は)同じ陣営の人たち(の犯罪には寛容で)多数を赦免した。半面、李明博(イ・ミョンバク)元大統領、朴槿恵(パク・クネ)前大統領と財界人には厳格な基準を突きつけた」

 

文大統領は、保守派の大統領二人を強引に刑務所へ送った。李氏の場合は、最初から刑務所へ入れる目的で捜査させた。朴氏は、歴代大統領が行なってきた大企業からの寄付金集めを、特別に「賄賂」と認定させた。贈収賄は、最も裁判が難しいとされる。証拠がなければ犯罪性を立証できないのだ。それにも関わらず、強引に有罪判決へ誘導させた。

 


文氏が、こういう「悪行」を行なってきたから、自分も同じ扱いをされると極端に警戒している。それが、検察庁解体という前代未聞のことに走った。一人の大統領が、自分の身を守るために検察庁を潰すとは凄い権力濫用である。

 

(4)「文在寅政権が残り2週間となった。終盤まで40%支持率を維持した。組分けで自分たちの勢力を結集したからだった。国民は政治的内戦の真ん中に立たされている。3月の大統領選挙直後、文大統領は尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領に「葛藤を解消して統合しなければいけない」と話した。執権中に常に分裂を助長してきた彼が言う言葉ではないようだ。強靭なメンタルを持っているのか、何を間違ったのか分からないのか」

 

文氏は、徹底的に味方を守り、敵対者を追放する手段に出た。習近平氏やプーチン氏と手法は同じである。

 


(5)「退任後に、「現実政治に関与せず平凡に暮らしたい」と言ったが、それだけでは足りない。退任前に国が分裂したことを素直に謝り、国民の心中の凝りをなくすことを望む。これが(国論)統合にプラスになり、本人にも薬になるだろう。大統合赦免も検討するに値する」

文氏の権力濫用には、ぜひとも法の裁きを受けさせたい。ただ、現職大統領が前任者を獄窓に繋ぐのは、忍びないことでもある。この悪弊を絶つには、冒頭のマンデラ氏の見せた寛容な態度が必要だ。ユン次期大統領は、文氏を許すほかない。その前提として、文氏は大統領離任の際、国民へ謝罪して許しを請うべきだろう。