テイカカズラ
   

ロシア国営石油大手のロスネフチは、5月積み出し原油の入札を行なったが、入札者がゼロという異常事態に陥った。欧州の大手資源商社トラフィギュラが4月26日、ロシア産原油の調達を5月15日までに全面停止すると表明したことが理由だ。

 

今回のロスネフチの入札は、商社が取り扱いを敬遠するようになった分の原油を自ら輸出するための試みだった。原油の輸出先を失うロシアは、経済的に大ピンチに陥る。ロシアの2021年予算のうち、45%が石油・ガス販売収入によるものと国際エネルギー機関(IEA)が分析している。

 


米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月27日付)は、「
ロシア原油輸出に急ブレーキ、買い手つかず」と題する記事を掲載した。

 

ロシアはこのほど大量の原油を入札にかけたが、買い手がつかず失敗に終わった。国営石油大手に対して近く発動される制裁措置が足かせとなっており、ロシア経済の屋台骨であるエネルギー業界は苦境に追い込まれつつある。

 

(1)「ロシアはウクライナへの侵攻を開始して2カ月間は、堅調なペースでエネルギー輸出を維持し、巨額の代金を受け取ってきた。ところが、ロシア国営石油大手のロスネフチはここにきてタンカー船を埋めるだけの十分な買い手を確保することができず、輸出に急ブレーキがかかった。事情に詳しいトレーダーが明らかにした。ロスネフチは先週、企業を招いて原油を入札にかけていた。トレーダーへの取材やウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した文書で分かった」

 


ロシア国営石油大手のロスネフチは、ロシア経済最大の「納税者」とされている。そのロスネフチが、世界への輸出に急ブレーキがかかった。同社は、プーチン大統領の側近であるイーゴリ・セチン氏が率いるという。こうした状況はいち早く、プーチン氏の耳に入っているはずだ。

 

(2)「今回の一件は、5月15日から導入される欧州の対ロスネフチ制裁が、ロシアの石油販売に影響を与え始めている初期の兆候と言えそうだ。ロスネフチへの措置は、ロシア産原油の全面禁輸には踏み込んでいない。とはいえ、欧州はいずれロシア産石油を全面禁止とする方向に向かっているとの見方は多い。欧州連合(EU)が3月半ばに明らかにした制裁措置では、企業に対してロスネフチの原油を欧州以外で再販することを禁じており、スイスも追随した。これにはウクライナ侵攻以降、ロシア産原油を買い占めているインドなど、アジアの大口買い手への販売も含まれる

 

欧州の大手資源商社トラフィギュラは26日、ロシア産原油の調達を515日までに全面停止すると表明した。石油製品についても購入を大きく減らし、欧州の顧客が必要とする最低限の量に限定する。EUの対ロシア制裁では、5月後半以降に取引を原則禁じる対象にロスネフチが含まれており、この制裁に沿って関係を見直した。『日本経済新聞 電子版』(4月27日付)が報じた。

 

EUは、ロスネフチの原油を欧州以外で再販することも禁じている。アジアの買い手は、ロシアから直接購入するほかない。

 


(3)「ロスネフチの原油販売が行き詰まれば、西側の金融・商業分野からすでに総じて締め出されているロシア経済にはさらなる衝撃が及ぶだろう。ロスネフチによると、同社はロシア最大の納税者で、国家収入の約2割を占める。国際エネルギー機関(IEA)では、ロシアの2021年連邦予算のうち、45%が石油・ガス販売収入によるものだったと分析している。「石油販売ができなくなれば、(ロスネフチは)油井を閉鎖し始めなければならなくなる」。英オックスフォード・エネルギー研究所(OIES)のシニア研究員で、ロシア国営エネルギー大手ガスプロムの子会社で石油販売の責任者を務めていたアディ・イムシロビッチ氏はこう指摘する」

 

ロスネフチの原油販売が行き詰まれば、2つの問題が起こる。

1)国家歳入の45%を占める石油・ガス販売が減少すれば、戦争経済が行き詰まる。

2)大量の原油を貯蔵できる施設がないので、油井を閉めざるを得ない。これが長期化すれば復旧が不可能になる。

こういう厳しい状況に追い込まれるのだ。

 


(4)「ロスネフチは先週、ロシアの代表的な油種ウラル原油510万トン(約3800万バレル)について、買い手の企業を招いて入札を実施した。これは大型タンカー船19隻を満載にするほど膨大な量だ。同社は入札の場で、代金支払いをルーブルで行うよう異例の要請を行った上で、原油は5~6月にバルト海と黒海の港湾からタンカーに積み荷されると説明した」

 

ロスネフチは、大型タンカー船19隻を満載にするほど膨大な原油輸出(原油510万トン:約3800万バレル)の入札に失敗した。5~6月にかけて積み出す予定であった。ロシア経済にとっては痛手だ。ロシアの原油生産量は、日量1000万バレルとされる。3800万バレルは、約4日分の生産量である。これが消える計算になる。

 

(5)「ロスネフチは実際の販売について、長らく石油商社大手トラフィギュラやビトルといった一握りの企業にほぼすべて委託し、これらの石油商社が世界の買い手へと届けていた。だが、これらの石油商社はEUの制裁が発動されるのを待たず、ロシア市場から撤退している。内情に詳しい関係筋によると、世界最大の独立系石油商社で、ロシアで30年の販売実績を持つビトルは、年内にロシア産石油の取り扱いを停止する見通しだ」

 

ロスネフチは、石油商社大手のトラフィギュラやビトルなどに販売を委託してきた。この両社は、経済制裁によってすでにロシア市場から撤退している。ロスネフチは、生産に特化して販売を委託していただけに、経済制裁の衝撃は大きい。

 

(6)「ロシアは米国とは異なり、大量の原油を貯蔵できる施設がない。そのため、原油販売が滞ってだぶつけば、国内のエネ供給網はすぐに目詰まりを起こし、生産縮小に追い込まれる。油井がいったん閉鎖されると、閉鎖前の生産能力に戻すことは難しいとされる。PVMオイル・アソシエーツのアナリスト、タマス・バルガ氏は、ウラル原油は原油の国際指標である北海ブレントに対して約35ドルのディスカウント水準で売られているとして、精製業者がロシア産原油以外から調達を急いでいることを示唆していると指摘している。ウクライナ侵攻前は、両油種とも数ドル程度の価格差で取引されていたという」

 

ロシアのウラル原油は、国際指標である北海ブレントに対して約35ドルのディスカウント水準で売られている。相場に対して3~4割の値引きだ。高油価の恩恵を100%受けている訳でない。ロシアが、大量の貯蔵施設を持っていない結果、値引きしでもその日に生産した原油を販売せざるを得ないのである。