ロシアのラヴロフ外相が、ウクライナ戦争で核を使用すると臭わせている問題は、どこまで信憑性があるのか。英国の見解を見ておきたい。
ロシアの独立系の世論調査機関「レバダセンター」によると、侵攻前、60%台で推移していたプーチン支持率は先月(3月)、83%にまで上昇した。圧倒的な高さである。国民からこれだけ高い負託を受けている以上、プーチン大統領は「フリーハンド」を得ているに等しく、ウクライナ戦争収拾は自らの決断で可能となる理由だろう。
「ジョンソン首相はトークTVのインタビューで、たとえウクライナでロシア軍の戦況がこれまで以上に不利になったとしても、ロシア政府が核兵器を使うとは思わないと述べた。ジョンソン氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の国内支持基盤は「圧倒的」で、「ロシアのメディアは、見る限りまったく(戦争の実態を)分かっていない」ため、プーチン氏が姿勢を和らげて撤退するだけの「政治的な余地」は十分あるという見方を示した」(『BBC』(4月27日付)
ロシア国内では、官営メディアだけが許されており、政府の意向と異なる報道は禁じられている。このことは、ロシア国民がウクライナの真実を知らされていないという大きなマイナスがあるものの、ロシアが核戦争に訴えるように追い込まれない点ではプラスという複雑な面を持っている。現在のモスクワ市内が、どのような状況にあるかをBBC記者がレポートした。
『BBC』(4月27日付)は、「『私が知っていたロシアはもうない』、変わるモスクワをBBCロシア編集長が紹介」と題する記事を掲載した。
私はソヴィエト連邦時代のこの国を経験している。ソ連崩壊後のロシアでずっと暮らした。そして世界最大の国は今また、姿を変えた。「特別軍事作戦のロシア」をご案内しよう。
(1)「スーパーへ向かうために車に乗り込む。いつもの習慣でラジオをつける。周波数はFM91.2メガヘルツ(MHz)に合わさっている。かつてこれは、ラジオ局「モスクワのこだま」の周波数だった。「モスクワのこだま」は、ロシアのラジオ局の中で私の一番のお気に入りだった。信頼できるニュースと情報を発信する媒体だった。しかしこの数週間で、この国の独立系メディアはすべて活動停止か廃止に追い込まれた。FM91.2MHzで現在放送しているのは、国営のラジオ・スプートニクだ。ここはウクライナへの軍事侵攻を支持している」
ロシアでは、国営メディアしか許されない。これは、戦時中の日本人が「大本営発表」を唯一の情報源としていた状況と良く似ている。日本国民は、表だって戦争反対を唱えることもなかった。仮に、そういう発言をすれば「非国民」扱いで村八分になった。現在の、ロシアも同じ状況だ。だから、政府の方針をそのまま受入れるであろう。国内動向から見て、「核戦争」になるような反プーチン・ムードは存在しないのだ。これが、皮肉にも核戦争を防ぐ役割をするのかも知れない。
(2)「ガーデン・リングを運転していると、劇場の前を通る。この劇場は建物の表に、巨大な「Z」の文字を立てている。ラテン文字の「Z」はロシアの軍事作戦のシンボルだ。ほかにも、ロシア鉄道の本部前にも「Z」がある。運転しながらトラックを追い越すと、車の側面に「Z」のシールが貼ってあった。この数週間というもの、クレムリン(ロシア政府)を批判する人たちの玄関にも、この「Z」が次々と落書きされている」
「Z」マークは、至る所に氾濫している。国民の意識をコントロールしているのだ。
(3)「スーパーに入ると、棚には商品がそろっている。パニック買いで3月に起きた砂糖不足は、解消されたようだ。しかし、商品の種類は前に比べると少ないように思う。そしてこの2カ月で、物の値段は一気に上がった。ショッピングセンターの外で、ナデズダさんという医者と雑談を始めた。「一番つらいのは、ウクライナで起きていることの真相を知りたがらない社会に暮らしていることだ。みんなローンの支払いや借金の支払いを心配するのに、忙しすぎる。自分の周りで何が起きているのかには興味がないんだ。でもウクライナで起きているのはひどいことだと思う。自分がロシア人なのが恥ずかしい」という」
ロシア国民は、兄弟国ウクライナ国民の犠牲を全く知らないで、別世界で生きている。知識人にとっては耐えがたいことであろう。
(4)「私が最後に向かったのは、第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利したソ連の戦いをたたえる巨大な戦争博物館だ。甚大な人命の損失を伴う大勝利だった。この博物館は現在、ウクライナにおけるナチスに関する展示をしている。ロシア軍はいま「ウクライナをナチスから解放している」のだという、ロシア政府による虚偽の主張を、固めるのに役立つ。私がいるここは「特別軍事作戦のロシア」。オーウェル的な平行宇宙だ。侵略は解放で、軍事侵攻は自衛で、批判者は裏切り者なのだ。私がこの30年間かかわってきたロシアは、もうなくなってしまった。そんな感じがする」
モスクワの戦争博物館は、ウクライナ戦争の士気を高める展示を行なっている。こういう展示物が、プーチン支持率を高めている上で役立っている。それによって、核戦争の危機を未然に防ぐとしたら、何とも複雑な思いがするのだ。
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