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習近平氏は、10年近いプーチン氏との友情を大事にしている。共に手を携えて、米国へ対抗しょうと誓い合った仲であるからだ。2月4日に発表した米中共同声明では、「限りない友情」を謳い上げたほどである。

 

「習・プーチン蜜月」が、中国の将来に大きな禍根を残すことは確実である。EU(欧州連合)は、ロシアへの警戒感が強めると同時に、その「盟友」中国へ警戒感を強めているからだ。EUが、「脱中国」姿勢を強めていることは、世界覇権を狙う中国にとって潜在的な味方を失うことであり、大きな外交的失敗と言うほかない。

 


中国の金融ビジネスは、政治と逆に米国の「恐ろしさ」が身に浸みている。ファーウェイ副会長が、カナダで米国の要請によって逮捕(後に釈放)された事件は、米国の対イラン禁輸令に違反した「二次制裁」であった。米国の二次制裁に引っかかると、大変な事態に陥ることを知った中国ビジネスは、今回の対ロ制裁に対してビリビリした姿勢を見せている。迂闊に動けないという警戒感だ。米国の経済覇権が、圧倒的であることを物語っている。

 

『日本経済新聞 電子版』(4月27日付)は、「中国銀聯、ロシア銀との協業拒否 米欧の制裁警戒か」と題する記事を掲載した。

 

ウクライナ侵攻で米欧から制裁を受けるロシアでの事業をめぐり、中国企業の一部でもリスクを警戒する動きが出てきた。ロシアメディアによると、中国カード大手の銀聯(ユニオンペイ)がロシア最大手銀ズベルバンクなど制裁対象の銀行との協業を拒否した。事業の継続性への不安や自らも制裁対象になりかねないとの懸念が背景にある。

 

(1)「ロシアのカード市場における銀聯カードのシェアは、2020年時点で1%程度とみられる。ウクライナ侵攻で米欧などが金融制裁に踏み切ると、米大手のビザやマスターカードがロシアでの業務を停止した。この影響で銀聯カードの需要は急増した。それでも銀聯は業務拡大に慎重だ。現地報道によると、銀聯はズベルバンク以外で制裁の対象となっている銀行との協議も取りやめた。これらの銀行は銀聯カードの発行を断念せざるを得なくなったという」

 

ロシアでは、ビザやマスターカードがロシアでの業務を停止した後、銀聯カードへ申し込みが殺到したが慎重に対応している。米国の「二次制裁」に引っかかると、元も子もなくすリスクに直面するからだ。

 


(2)「中国は対ロ関係で、「正常な経済貿易活動は継続する」(外務省)との立場で、米欧の厳しい対応とは距離を置いてきた。習近平(シー・ジンピン)国家主席も4月21日、博鰲アジアフォーラムで「一方的な制裁の乱用に反対」と、ロシア擁護の姿勢を示した。エール大学の調査によると、中国企業の8割強が今でもロシア事業をこれまで通り続けている。9割の企業が撤退、事業の縮小、停止などに踏み切った日米やドイツとは対照的だ」

 

金融以外の中国企業は、よほどの「脱線」がない限り、二次制裁に抵触することはない。金融ビジネスでは、基軸通貨ドルの威力が絶対的であるのだ。

 


(3)「それでも、大手行の中国銀行や中国工商銀行はロシアでの業務を制限しているという。中国国務院(政府)関係者も「ロシアと取引を増やす中国の金融機関への監視を米国が強めている」と警戒する。米国は中国にロシアへの支援をやめるよう求める一方、ロシア事業を進める企業に対する経済制裁の可能性もちらつかせている。国際決済市場では、ドルとユーロが8割近くのシェアを占め、人民元は2%にとどまる。制裁で中国の金融機関が国際決済網から排除されることになれば大打撃となる。ロシア事業の継続や拡大の利益と、制裁のリスクをてんびんに掛けながら、慎重に対応していく方針とみられる」

 

よく、国際金融事情に詳しくない向きは、ドル通貨圏を離れて人民元通貨圏をつくればよい、などと「能天気」な提言をしている。米国市場が、世界に向けて解放されている現状を見れば、中国市場の規模と深みにおいてとうてい敵う相手でないのだ。こういう現実認識が、中国指導部において希薄であるから、習氏のようにトンチンカンな発言が飛び出すのだ。

 


(4)「自らが制裁対象とならなくても、ロシアの経済や金融の混乱が長引けば、ロシア事業そのものが大きな損失を抱える恐れもある。中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)は財務の健全性を守るため、ロシアとその協力国のベラルーシに関連する全ての活動を保留している。金融以外では、ドローン(無人機)大手のDJIが26日、ロシアとウクライナでの事業を一時見合わせると発表した。同社は製品の利用目的を民生用に限っている。両国での事業がコンプライアンス(法令順守)上、問題があると判断したとしている」

 

ドル通貨圏の威力を知り抜いているAIIBは、率先してロシアやベラルーシへの新規融資をストップした。ドローンのDJIも、米国政府からウクライナ戦争でロシア軍の「スパイ活動」の疑いをかけられ即刻、営業を一時中止すると発表。ピリピリした対応をしている。

 


(5)「ロイター通信によると、中国国有石油大手、中国石油化工集との団(シノペックグループ)もロシアの石油化学会社シブールとの合弁事業を巡る協議を中止した。新たに5億ドル(約650億円)を投じて、石油化学プラントの建設を検討していたが、制裁の影響を考慮したとみられる」

 

シノペックグループも、ロシアとの商談を中止した。米国から「二次制裁」の疑いをかけられれば、それだけで世界ビジネスに支障が出るからだ。