米国は、これまでにウクライナへ37億ドル相当の武器を送った。いずれも既存在庫を取り崩したものである。だが、これまで武器生産を縮小してきた事情もあり、ウクライナへ供与した分をすぐに補充しないという。完全な補充までには2~5年は掛かる見込みだ。すぐに補充しないのは、ウクライナ戦争への戦況判断も働いているのだろう。
米紙『ウォールストリートジャーナル』(4月29日付)は、「米の兵器生産能力に懸念、ウクライナ侵攻で露呈」と題する記事を掲載した。
ロシアがウクライナに侵攻して2カ月余りが経過し、世界最大の武器生産・輸出国である米国では一部で在庫に不足が生じつつある。にもかかわらず、在庫の積み増しに向けた増産には着手できていない。米国の軍事産業基盤や紛争時の増産能力を巡っては、かねて不安がくすぶっていた。ここにきて半導体やロケットモーター、推進剤、人手不足が重なり、こうした懸念がさらに強まる構図となっている。
(1)「バイデン米政権は来会計年度の国防総省予算として7730億ドル(約101兆円)の拠出を求めており、軍事支出は増加する見通しだ。それでも、ウクライナで広く使われている兵器の一部で、米軍の在庫は不足しつつある。防衛企業の幹部らは大半の兵器について増産の用意があると話すが、国防総省はまだ新規契約を発注し始めたところで、新規契約には外国に送った兵器の刷新に必要なものも含まれると指摘されている」
米国がウクライナへ供与した武器は、在庫で保有してきたものである。米軍部隊には配備していない「古典的武器」である。今後、補充しなければならないが、すぐに生産する体制にはない。常備の武器でないので、生産計画で後回しにされるのだろう。
(2)「国防総省はこれまで、ウクライナに37億ドル相当の武器を既存の在庫から送った。これには重火器や戦術ドローン(小型無人機)、携行式の地対空ミサイル「スティンガー」や対戦車ミサイル「ジャベリン」などが含まれる。ところが、国防総省がこれまで締結した新規契約はドローン「プーマ」の調達に関する1件のみだ」
ウクライナに送った武器は、37億ドル相当である。来会計年度の防衛費7730億ドルから見れば、0.48%に過ぎない。米国防省も、緊急生産すべき武器という位置付でないのも事実だ。
(3)「増産を阻む障害の1つが、軍事産業基盤が細っていることだ。長年にわたる予算削減や業界再編を経て、米国内でミサイルのロケットエンジンを今も手掛けるメーカーはわずか2社にとどまる。1995年は6社あった。米会計監査院によると、企業の下請けサプライヤーの数も約5000社から1000社に大きく減った。米防衛大手レイセオンは26日、ロケットエンジンの不足は来年まで長引くとの見方を示した。同社は国防総省の第2位サプライヤーで、ジャベリンとスティンガーを生産する」
米国の国防産業は、その基盤が次第に細っているという。ひと頃は、「産軍複合」として肥大化する防衛産業が批判の的になった。現在は、逆の現象が起こっているのだ。今回のロシアのウクライナ侵攻が、国防産業テコ入れということになるのだろう。
(4)「グレッグ・ヘイズ最高経営責任者(CEO)は、国防総省がここ約20年、新たにスティンガーを購入していないと語った。同社は昨年、外国顧客のためにスティンガーの生産ラインを再開したが、すでに生産終了となった部品があり、再設計する必要があるという。トランプ政権時代に国防総省の武器調達責任者を務めたエレン・ロード氏は、米国はすでにスティンガー在庫の約4分の1をウクライナに送ったと話す。国防総省はこれまで、ウクライナにスティンガー約1400基を振り向けたと説明している。ロード氏は26日、議会公聴会で「政府が生産能力を維持するための資金を投じていないという問題がある」と述べた。生産を拡大してウクライナに送った分を補うには2~5年を要する可能性があるという」
米国は、ウクライナへスティンガー1400基を送った。在庫はまだ、4200基ある計算である。米国は、在庫補充のためにもスティンガー生産を検討する必要がないのか。すぐに取りかからないのは、米国独自の戦況判断があるにちがいない。
(5)「米在庫の取り崩しが進む中でも、補充の生産体制が欠如している現状について、議員らも問題視し始めている。国防総省によると、これまでウクライナに送られた兵器はすべて既存在庫からのものだ。当局者らはウクライナへの武器供与により、米軍の即応体制に影響を与えることはないと強調している。米防衛大手ロッキード・マーチンは先週、国防総省と協議を行っているとしながらも、ウクライナが求めている兵器のいずれについても増産していないと明らかにした」
米国は、兵器メーカーとウクライナへ送った武器の補充生産を検討していないという。米国には、そろそろ停戦時期に来ているという読みがあるのだろうか。もし、苛烈な戦線拡大の危険性があれば、何はともあれ増産体制に入る筈だ。「それがない」とは、楽観的な見通しが出てきたとも見える。
(6)「ロッキードのジェイ・マラベ最高財務責任者(CFO)は、国防総省による軍装備増産の要請を検討しているとしたが、どの装備かについては明言を避けた。また、コロナ禍に絡むサプライチェーン(供給網)の制約によって受注への対応が難しくなっているとも述べた。米国は、ウクライナにジャベリンを5500基余り供給したが、どれくらいの在庫が残っているのかは明らかにしていない。米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)では、国防総省が在庫の約3分の1を使ったと推定している」
米国は、ウクライナへジャベリンを5500基余り供給している。在庫の約3分の1を使った程度という推計もある。そうなると、在庫はあと約1万2000基ある計算だ。すぐに、在庫補充の動きはなさそうという。これも、米国の戦況判断によるものに違いない。


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