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中国は、習氏の国家主席3選を目指し国内基盤強化に躍起である。2月4日に交わした中ロ共同声明は、「限りない友情」を約束して国内政治に役立てる目的であった。後に起こったロシアによるウクライナ侵攻で、中ロ共同声明は実にタイミングの悪い外交文書になってしまったのである。

 

そこで、国内からの批判をかわすために、声高にロシアへ「声援」を送らざるを得なくなっている。もっとも、米国からの制裁を恐れて、ロシアへ経済的・軍事的支援を封じられている。一段と声高な「声援」になっている面もあろう。

 


『日本経済新聞 電子版』(5月1日付)は、「米中、ウクライナ危機で深まる溝」と題する記事を掲載した。

 

米中がウクライナ危機を巡って溝を深めている。中国のロシアに対する軍事・経済両面の支援を米国は警戒し、中国は米国によるロシアへの経済制裁が世界経済に悪影響を及ぼすと主張。新冷戦に向けた流れが加速しかねない情勢だ。

 

(1)「ブリンケン米国務長官は4月26日、米上院外交委員会の公聴会で、バイデン大統領が3月中旬に中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と協議した際、「ロシアへの支援は中国の利益にならないし、制裁を弱体化させることにもならない」と伝えたと明らかにした。バイデン政権はロシアの特定の企業・銀行と貿易や金融の取引を禁じた。違反すれば外国企業や外国人も罰する「二次的制裁」が科され、制裁対象の企業・銀行と取引すれば中国にも制裁がおよぶ可能性がある。米側は対ロ支援を続ける中国への抑止効果に期待する」

 

中国は、ロシアを支援すれば米国が「二次制裁」を課すと通告された。動くに動けない事態に追い込まれている。声高な声援は、その鬱憤晴らしと見るべきだろう。

 

(2)「習近平(シー・ジンピン)指導部は米国主導の対ロ経済制裁に反対し、国内外で米国の責任論を広めている。中国共産党の機関紙、人民日報は3月下旬から4月中旬の党内部の声が反映されやすい重要コラム「鐘声」で「米国こそウクライナ危機を作り出した主犯だ」と批判した。北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を米国が「指導」し、ロシアがウクライナを攻撃せざるを得ないよう仕向けたとの持論を展開した」

 

いかなる理由があろうとも、他国への侵略は許されない。中国は事実上、侵略戦争を認めていることになる。この中国が、国連常任理事国なのだ。仲裁役になるべき中国が、逆に戦争を煽っている形である。それほど,中国は冷静さを失っている。

 


(3)「中国外務省の趙立堅副報道局長も22日の記者会見で、「ロシアとウクライナの衝突が発生して以降、米軍需大手の株価が驚くほど上がっている」と発言。「だれが対岸で火に油を注ぎ、漁夫の利を得ているのか皆がはっきり見ている」と話し、危機の原因は米国にあると一方的に決めつけた」

 

米国は、まだウクライナへの武器供与した分の在庫補充をしていない。株価は、思惑で上昇したのであろう。中国株の低迷と比較して羨ましく見ているに違いない。

 

危機の原因が米国にあるという中国の主張は、戦争を紛争解決手段として認めていることだ。これは、国連憲章に違反する発言である。自らの矛楯が分らないほど「興奮」状態にあるのだろうか。

 


(4)「習指導部はウクライナ危機を巡り米欧とも距離を置く「中立国」を増やそうとしている。中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は3月以降、中東や東南アジアの外相らと積極的に協議し、対ロ制裁に加わらないようにクギを刺してきた。3月31日には安徽省でイランのアブドラヒアン外相と会談。中国外務省によると、一方的な制裁を共同で阻止することで合意した」

 

ロシアは、経済制裁によって武器の生産が間もなくできない事態になる。中国の購入しているロシア製武器の補修部品や弾薬が、供給されなくなるのだ。これは、中国にとって安全保障上の一大事である。中国は、ロシアと共に苦境に立たされるであろう。

 

(5)「習指導部は米欧のロシア制裁は将来の台湾統一時に対中制裁にも「転用」されかねないとの警戒心がある。制裁の反対を唱えてロシアに貸しを作ると同時に、米国主導の対中包囲網が将来形成されないように布石を打つ思惑もありそうだ。中国内の団結を促す目的もある。国内ではロシアがウクライナに侵攻した直後、米欧と距離をとる習指導部の対応を疑問視する声が上がった」

 

中国の台湾侵攻の際には、今回と同様に強烈な経済制裁が行なわれるはずだ。中国は、ロシアより一層、世界経済に組み込まれている。それだけに経済制裁の衝撃は大きいであろう。

 


(6)「新型コロナウイルス対策で隔離が続く上海市などでは不満がたまりつつある。共産党幹部の人事を決める5年に1度の第20回党大会が今年秋に控えており、米国を悪者にして国内の結束を促し、習氏の3期目入りを確実にする思惑も透ける」

 

米国批判によって、中国がロックダウンによる国民の不満を逸らすことは不可能だ。ロックダウンは、日々の生活を不便にしている政策である。米国批判とは異次元である。

 

(7)「米国責任論の拡散は、米欧との緊張をさらに高めるリスクがある。習指導部は巨大な国内市場を武器に欧州を切り崩そうとしているが、欧州では中ロ結託への懸念が強まっている。中国が反対を唱える米中二大陣営による「新冷戦」への流れを自ら速めている面がある」

 

欧州は現在、経済優先で中国へ接近してきたことを反省している。ウクライナ侵攻で、ロシアの肩を持つ中国に失望しているのだ。このことは、4月1日のEUと中国のオンライン・トップ会談で明確にされた。欧州は、何よりも安定を求める地帯である。EU(欧州連合)が結成された背景も、戦争根絶であった。それにも関わらず、ロシアが隣国を侵略した。ロシアに不満を持つと同時に、そのロシアを支援する中国にも強い不満を持っている。この際、中国は「沈黙が金」という諺を思い出すべきだ。