a0001_000088_m
   

習近平氏はプーチン氏という、思わぬ「伏兵」に足を掬われそうである。2月4日の習近平・プーチン首脳会談は、「限りない友情」を謳い上げたが、その20日後に運命の分かれ目が訪れたのだ。米ロ共同声明で高らかな友好関係を宣言した以上、ロシアのウクライナ侵攻で「ロシア反対」とは口が裂けても言えない立場になってしまった。

 

「限りない友情」は、習氏の提案による文言という。それだけに、習氏は何とも都合の悪い事態に追い込まれたのである。中国が、ロシアを擁護せざるを得ない立場であることに、共産党内部で不満の声が高まっているという。中国が、これから米国と対立して行く上で、欧州を味方につけておきたかったはずだ。その欧州が、中国のロシア擁護によって「中ロ枢軸」と警戒感を強めている。ロシアの引き起した戦争で、中国まで白眼視されている現状に、党内の不満が鬱積しているのだ。

 


ロシアが、ウクライナ侵攻で手痛い打撃を受け、戦線が膠着状態から後退局面へ転じる事態になる場合、習近平氏の立場はどうなるのか。共産党内の地位は揺らいで当然であろう。反習近平派が、習氏に反旗を翻す可能性が出てくるであろう。

 

すでにその兆候はいくつか見られる。本ブログでは、その兆候について最近、いくつか取り上げ報じてきた。

 

1)ロシア擁護が、引き起した習氏への不満(米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』)

2)経済急減速に直面し、李首相が経済政策の舵を握り始めている(米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』)

3)地方政府トップ人事で、3月から李氏が首相を務める中国国務院(政府)の部長(大臣)が栄転する事例が5人中3人に達している。習派は、劣勢である(『時事通信』)

 


これが、今秋の党大会における習氏の国家主席3期目の人事にどのような影響を与えるかだ。仮に、習氏の国家主席を3期だけに限るという話合いがつけば、どういう事態が起こるかである。一応、頭の体操をしておくべきだろう。

 

『日本経済新聞 電子版』(1月26日付)は、「5年限りの習近平続投なら敗北、面従腹背が深刻に」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の編集委員である中沢克二氏だ。

 

(1)「この秋、中国共産党大会で決まる習近平(シー・ジンピン)続投の仕方が重要になる。15年に限る単純な党総書記続投だけで、超長期政権への展望がみえないなら事実上、敗北だ。求心力は衰えてゆく」。中国の政界関係者がささやく。裏にあるのは、2021年11月の党中央委員会第6回全体会議(6中全会)での「第3の歴史決議」採択から2カ月余りたった党内の微妙な雰囲気である。今のところ、多くの関係者らが確実とみているのは「22年党大会での習近平引退はないだろう」ということにすぎないのだ。それ以外の全ては、これから9カ月程度の闘いにかかっている」

 


昨年11月の6中全会で「第3の歴史決議」が採択された。その後の党内の雰囲気は、微妙に変わっているという。ゼロコロナやウクライナ侵攻など、予期しなかった事態が起こっている。いずれも習氏にとってはマイナス点ばかりだ。

 

(2)「普通の民主主義国家なら、残る任期が5年もあれば政権は盤石で、レームダック(死に体)化などありえない。だが、外からはうかがい知れない共産党内の権力争いで全てが決まる中国では、この常識が通用しない。5年先のトップが違う人物かもしれないと直感すれば、その瞬間から現トップへの面従腹背が深刻になる。それが中国の政治家、役人、経済界大物らの処世術だ。実際に例がある。07年の党大会で2期目に入った胡錦濤(フー・ジンタオ)指導部は、早くも翌年から内政、外交とも求心力の衰えが目立つようになる。重慶市トップに立った薄熙来(失脚後、無期懲役で収監中)は、政治的な野心を抱いて毛沢東に倣う「紅(あか)い歌」を歌う政治運動に突っ走る」

 

中国社会は、「人縁社会」である。人間関係が縦軸になって動く社会だ。人は、将来性のある人物に集まって権力を動かすのである。中国の官僚は、マックス・ヴェーバーの指摘した「近代官僚制」でなく、皇帝による「家産官僚制」である。社会発展が未成熟な結果なのだ。

 


(3)「先のない国家主席、胡錦濤を見くびる動きは、対日外交にまで影響した。それは胡錦濤主導で日本と結んだ東シナ海ガス田合意の不履行だ。日中和解を感じさせた08年の合意は、中国側の一方的な都合で条約交渉が進まず、放置された。原因は、利権が侵されると感じたエネルギー関連の国有企業や官僚、そして軍による面従腹背だった。胡錦濤が手を焼いた内政、外交で中央の権威に挑戦する動きは、08年夏の北京五輪をはさんで一層、激化してゆく。もし12年党大会後もトップとして君臨するなら、抵抗勢力をねじ伏せることもできた。だが既にその力は失われていた」

 

東シナ海ガス田合意の破棄は、人民解放軍と国有石油会社の陰謀によって引き起されたものだ。彼らによって、利益を山分けしたのが真相である。こういう中国を相手にした条約交渉は不可能である。

 


(4)「当時、最高指導部メンバーだった習近平は経緯を十分、知っている。レームダック化の怖さがわかるからこそ、超長期政権へのこだわりがある。習は、できることなら終身のトップをめざしたい。例えば、建国の父である毛沢東の地位だった党主席(党中央委員会主席)である。しかし、この地位を秋の党大会で勝ち取るには、毛沢東並みの確固たる実績が必要だ。3の歴史決議の文面上は、改革開放政策で中国を経済成長に導いた鄧小平の地位に迫り、追い越す勢いがある。ただ、党内の誰もがその内容に納得するには至っていない

 

習氏が、鄧小平を抜くほどの実績を上げていないことは常識だ。ゼロコロナのもたらした大混乱と、プーチン擁護で欧米を敵に回した損失は計り知れない。こう見てくると、習氏の国家主席3期目は、すんなり決まりそうにない情勢のようだ。