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中国は、不動産不況のまっただ中にある。4月の土地売却収入は、前年同月比38%減になった。1~4月累計では、同30%の落込みである。21年の地方政府財源の約半分が、土地売却収入という異常な構造である。それだけに、不動産不況の影響は深刻である。

 

中国財政が、土地売却収入に依存するのは「土地本位性」ともいえる。他国に例を見ないこの構造は、中国経済の体質を本質的に狂わせている。もはや,ここからの脱却の手段もなく、不動産バブル崩壊とともに長期の経済停滞を免れぬ事態へ向かっている。

 


『日本経済新聞 電子版』(5月23日付)は、「不動産不況が直撃、中国地方政府に広がる倹約大号令」と題する記事を掲載した。

 

中国の地方政府で倹約の大号令が広がっている。頼みの土地収入が大幅に落ち込み、財政難に拍車がかかっているためだ。パソコンなどの新規購入を禁止したり、接待は政府庁舎などの食堂を使うよう要求したりしている。倹約の徹底は政府や共産党関係者の腐敗を撲滅する狙いもあるが、景気が悪化するなかでの経費削減は地方経済のさらなる打撃になりかねない。

 

(1)「安徽省財政庁は3月末、「域内の人への接待は固く禁じる。接待をする場合もまず庁舎内のレストランを使い、参加者は3人まで」と省内の市や県に経費節減の徹底を通知した。両面印刷や空調温度の管理を徹底するよう指示したほか、地方政府の幹部が会議に出席する際に部下を伴うことも禁じた。箸の上げ下ろしまで指示する感もあるコスト削減は12項目に及び、2022年の経費を1億8000万元(約34億円)節約する計画だ。江西省撫州市の住宅積立金センターなどはパソコンや机、椅子といったオフィス用品の新規購入を禁じた。共産党や政府の会議では幹部の講話を聞いて必死にメモを取る党員や公務員が多いが、会議で使うノートや鉛筆の配布をやめる地方政府もある

 


地方政府によっては、党員や公務員にノートや鉛筆の配布を止めるところも出ている。接待も、3人以内で庁内のレストラン使用という制約がつく。この状態は、一時的で終わらないはずだ。

 

(2)「今春から倹約令が広がってきたのは、習近平指導部が「党や政府の機関は財政的に苦しい日々を送らなければならない」との方針を強調してきたからだ。秋の党大会を控えて党員や公務員の襟を正す意味もあるが、厳しい財政難という地方政府の懐事情も関係している。中国の地方政府は、米中貿易戦争や新型コロナウイルスの感染拡大に対応した景気対策で税源が細ってきた。その中で依存度を高めてきたのが土地収入だ。国有地の使用権を不動産会社に売って稼ぐ収入は21年時点で税収の5割に達した」

 

税収構造で、土地売却収入に過半を依存したこと自体が間違いである。そのことに気付かず、70年も踏襲してきた安易な姿勢が問われている。

 


(3)「その頼みの綱が、習指導部のバブル抑制を目的にした不動産金融規制で打撃を受けた。資金不足に陥った不動産開発大手が土地使用権を買えなくなり、21年夏ごろから地方政府の使用権売却収入が急減した。22年14月の収入は前年同期を30%下回った。過去の14月と比べると、7年ぶりのマイナス幅だ。地方の歳入減をうけ、すでに公務員の手当やボーナスの削減、遅配が広がっている」

 

土地売却収入は、国防費の裏予算に使われたと見られる。公表している国防費の他に、「隠れ予算」が指摘されてきた。この「隠れ予算」をカバーしたのが、土地売却収入の筈である。

 

(4)「地方政府の歳入を左右するマンション市場は、政府の規制強化による政策不況が続くなかで一段と冷え込んでいる。新型コロナの感染封じ込めを狙う習指導部の「ゼロコロナ」政策の影響で、中国経済が悪化しているためだ。先行き不安が強まり、値上がり期待もしぼんで住宅購入を見送る人が増えている。住宅需要がさらに縮小すれば、不動産開発も滞り、地方政府の使用権売却収入も回復への道筋を描けない」

 

かつては、住宅の値上り期待が強かった。現在は、値下がり期待の方が強くなっている。住宅購入層は、20~30代である。この年齢層も人口構造では減少過程である。不動産値上り期待を持つのは危険な状態になっている。

 


(5)「経済の悪化で企業の収益や家計の所得が減れば、使用権売却収入のほか、税収の落ち込みも避けられない。ウイルス感染の拡大防止などで地方政府の支出は高止まりしており、地方財政は一段と逼迫する公算が大きい。こうしたなか、李克強首相は4月25日に「倹約の徹底は常態的な規律・要求としなければならない」と強調した」

 

下線部が、正しい処方箋である。地価値下がりが常態化すれば、「土地本位性」の中国経済はどうなるか。だいたいの想像はつくであろう。