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バイデン米大統領の訪日を機に、IPEF(インド太平洋経済枠組)が発表された。経済と安全保障と結びつけて、中国への対抗を示唆したものだ。中国にとってショックであったのは、韓国とインドが参加したほかに、ASEAN(東南アジア諸国連合)から「親中派」の3ヶ国を除いた7ヶ国が参加したことだ。このほか、日本、米国、豪州、ニュージーランドの4ヶ国が加わり、全部で13ヶ国が「原参加国」になって旗揚げする。

 

「仮想敵」にされた中国は、複雑な心境を見せている。IPEFを批判すると同時に、IPEFなど、大した存在でないと批判して取り繕っているのだ。ASEANは、中国の隣国である。それが、大挙して中国から離れたいというのである。

 

中国共産党機関紙『人民日報 電子版』の『人民網』(5月25日付)は、「米主導のIPEFに中国『アジア太平洋の枠組は開放・包摂であるべき』」と題する記事を掲載した。

 

商務部(省)の報道官は24日、米国がインド太平洋地域の新たな経済枠組み(IPEF)を始動させたことについての質問に答える中で、「中国は、米国が5月23日に『インド太平洋地域の新たな経済枠組み』のスタートを表明したことに注目している、とした。

 

(1)「中国の考えとしては、アジア太平洋経済の成功は開放・協力と互恵・ウィンウィンによるものだ。アジア太平洋に関するイニシアティブがこの地域の繁栄・発展に力で貢献しようとするなら、開放・包摂の方針を維持しなければならず、差別的・排他的であってはならない。経済協力と団結を促進しなければならず、既存のメカニズムに損害を与え、これを分裂させるものではあってはならない。中国はこれまでずっと、このような基準に合致した地域経済協力のイニシアティブに対して等しく開放的な態度を取ってきた」と述べた」

 


このパラグラフを読む限り、中国の言分は正論そのものである。経済は、グローバル化されてこそ、最も発展できるからだ。中国は、このグローバル経済を悪用して、WTO(世界貿易機関)で禁じられている補助金を国内企業に与え、人為的に輸出を伸ばすルール破りの常習犯となった。さらに、「一帯一路」によって政治的支配圏を広げて、世界秩序に挑戦し、「中国ルール」を世界に押し付ける野望を隠そうとしなかった。

 

中国国内では現在、市場経済ルールを圧迫して計画経済手法を取り入れている。グローバル経済を利用して利益を上げる姿が露骨になってきた。ここに、米中対立は、経済対立からイデオロギー対立へと激化し、「新冷戦」と言われる局面を迎えている。中国が、ウクライナ侵攻のロシア支持であることも、権威主義国家の「中ロ枢軸」として、西側諸国から非難される要因になっている。

 


(2)「また同報道官は、「中国はこれからも開放的な地域主義を堅持し、アジア太平洋地域の貿易パートナーと同舟相救い、運命を共にする。中国は各方面との実務協力をさらに深化させ、地域経済の一体化を推進し、この地域の経済回復を促進し、地域の平和・安定・発展を守りたいと考えている」と述べた」

 

このパラグラフも正論である。そうであるならば、中国の友好国ロシアのウクライナ侵攻を、なぜ止めないのか。止めないのは、中国が近隣国への侵攻を意図しているからであると推測されて、警戒感を高めているのだ。まさに、言行不一致の中国に警戒する理由である。

 

『人民網』(5月25日付)は、「インド太平洋地域の新たな経済枠組み始動、中国にとって脅威?」と題する記事を掲載した。

 

米国のバイデン大統領はこのほど、インド太平洋地域の新たな経済枠組み(IPEF)を始動し、アナリストは「これは本質的には米国が中国に対して経済競争を展開するためのツールだ」との見方を示した。

 

(3)「IPEFは中国にとって非常に大きな脅威になるだろうか。必ずしもそうなるとは限らない。IPEFの参加国はASEAN諸国が圧倒的多数を占める。政府の公式データによれば、新型コロナウイルス感染症の流行中に中国―ASEAN間貿易は流れに逆らって増加した。2021年の貿易額は前年比28.1%増の8782億ドル(1ドルは約127.0円)に達し、そのうち中国の対ASEAN輸出は同26.1%増の4836億9000万ドル、ASEANからの輸入は同30.8%増の3945億1000万ドルだった。現在、ASEANは中国にとって引き続き1番目の貿易パートナーだ

 

ASEANが、中国にとって最大の貿易パートナーである。これは、中国企業がASEANへ工場移転したことと無縁でない。部品は中国でつくり、ASEANで組立てているケースが多いのだ。ASEANでも,TPP加盟国での生産は輸出メリットを受けられる。こう見ると、中国企業はASEANがなくてはならない場所になのだ。恩義を着せる場合でなく、感謝すべき場所になっている。

 


このASEANから7ヶ国が、IPEFへ参加している。中国との関係を薄めたいという意識が、こういう結果をもたらした。インドネシア・ベトナム・フィリピンには、その意識が強い。

 

(4)「中国社会科学院アジア太平洋・グローバル戦略研究院の許利平研究員は、「事実が証明するように、中国・ASEAN間協力には非常に高い強靱性とポテンシャルがある。地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効して、双方の協力のポテンシャルはこれからさらに発揮され、より多くのニーズと市場を活性化すると予想される。排他性を出発点とするIPEFは、地域一体化およびグローバル化の大きな流れと一致しないことは明白であり、地域に持続的なボーナスをもたらすことは難しく、効果的に推進するのが難しいことは確実だ」との見方を示した。

 

中国は、南シナ海の島嶼を占領して軍事基地化している。ASEANの4ヶ国が、中国の被害国であり、すべてIPEFへ参加している。この事実こそ、中国を「侵略者」と位置づけている証拠だ。それゆえ、IPEFに参加していれば将来、中国から島嶼を取り戻せるかも知れないとの希望を託していると見える。

 


(5)「許氏は、「IPEFはASEANを中国包囲の突破口にすることを企図するが、最終的に当てが外れる可能性が非常に高い」と述べた。別のアナリストも、「ASEAN諸国にとってみれば、中米の間でうまく立ち回り、中国包囲網に関わらないことが、自分たちの利益により合致する」と指摘した」

 

IPEFの事務方は、日本が務めることになろう。ASEANで最大の信頼を得ている日本が、必ず成果を上げるように結束力を固めるはずだ。日本の対中戦略において、これほど好都合な舞台はないのだ。日本は、TPP(環太平洋経済連携協定)も米国が脱退した後、空中分解させずにまとめ上げた。IPEFには、TPPメンバー国が6ヶ国も参加している。結束力は、自然に維持できる仕組みなのだ。